仮想世界β!!

音音てすぃ

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100.複製された命

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「ガッ……」
「オトメ君?そう!息して!」

 キリカがオトメの気道を確保しようとする。ポーションをかけたりするがあまり効果は無い。

「キリカ君、諦めなさい。音目京介君は死ぬ」
「……彼がいないのなら、私はまた」

 口を抑えて涙を抑えた。

「一人になる……」
「その苦しみもすぐに忘れる」

 カミセが仮想神剣を構える。

「さらばだ」

 音より速くキリカが刀を振るい、カミセの剣に合わせた。
 カミセも予期していなかったか、体勢が崩れる。

「カミセェ、お前の首を取る!」
「攻撃予測を上回るとは、素晴らしい」

 青の剣閃以外キリカは使えない、そしてそのスキルもカミセには届かない。だから素の実力のみでカミセの首を狙う。

「死ねぇ!」

 音速の如き斬撃がカミセを狙うが、二度目以降の攻撃は全て攻撃予測が見えているので、簡単に回避されてしまった。
 何度も刃が空を通り、キリカも苛立ってきた。

「なら」
「直線に予測?」

 腰から散弾を撃てるリボルバーを構える。キリカは玉が当たらないので適当に向けて引き金を引いた。
 カミセは顔を剣で防ぎ後退、散弾のほとんどを鎧で受けた。防御力が高くとも直撃は防ぎきれなかった。
 キリカの好機である。カミセの視界は一瞬奪われた。リボルバーの火力にも意識が向いている。この距離を詰めて切り掛ることにする。
 刀を地面に向けて青の剣閃を放つ、バネのようにしてカミセに接近、仮想神剣の上から最大火力を叩き込む。

「くらえぇ!」

 神剣に直撃し、一部を破壊した。その破片は彼方へと飛んでいく。

「ここまでとはな、侮るべからずだ」
「えっ……ガッ……カミセ……」

 次の攻撃をする前にカミセが左手でキリカの首を掴んでいた。天へと伸ばして足が地から浮いたとき、リボルバーと刀ごと腕斬られた。両肘辺りから先が無い。

「あ……あぁ痛い……く……」
「残念だ、この剣は再生能力がある、君たち軟弱な人とは違う。もう剣はない、銃もない。ゲームオーバーだ」

 キリカは痛みで涙が止まらなくても、霞んだ視界の中で激しく腕を振った。

「そんな腕では私は殺せない。せめて足は勘弁してやろう……マジックアーツ『フレイル・ブレイド』」

 カミセの魔術は鎌鼬のようにキリカの足周りの筋肉を丁寧に切断した。切り口から流れた血で白いキリカのほとんどが赤黒くなっていった。
 これでもう抵抗は不可能だ。

「君は本当に惜しい存在だ……12年以上もここで過ごしておきながら。新たなる試み、低年齢へと変換しての転生の実験の一人だろう。惜しい、本当に惜しい……」

 意識が薄れる。最後の力で腕の骨をカミセの腕に刺そうとするが、威力が足りずに自分の骨が削れていく。

「無駄な抵抗を……」

 青い顔になった時、キリカの視界の隅で動くものがあった。宙に浮き、制止している。知っているあの動き。

「……あ」
「死んだか?」

 カミセは安心仕切って脱力したキリカを見て不信に思ったが、気を抜かずに力を込めようとした。だが視界に何かが写ったと思った時、自分の左腕、キリカを掴んでいた腕がドスンと真下に落ちていた。肘から先が無かった。

「ああああああ!!!何だ……何だ今のは!私の腕が!どこだ……誰だ!」

 カミセが痛覚を和らげる魔術を使いながら周りを見渡す。左に見えたのは先ほど斬り倒した男、音目京介だった。


ーーーーーー


 体に文字が集まる。浮遊した光の文字、痛みはない。体の感覚が戻ってくる。装備も完全に再生され、五体満足へと転身した。

 『スキル譲渡:無条件再生能力Lv.20』

 周りに風が纏うそうに浮遊した文字がグルグル回る。
 向こうでキリカが見える、血だらけだ、今助ける。

「キョウスケ、やるぞ」
「了解しました」

 久しぶりに『兜割り・天』を発動して空へ上がる。装備したのはルーンナイフ。キリカを掴む腕へ引っ張られるように突撃する。

 縮む視界の中で振るったナイフは確実な手応えでカミセの左腕を切断した。
 降下威力に耐えられなかった体はみるみる再生され、折れた手の骨も完全に治っていた。

「兜割り・天……久しぶりに使ったな。あぁ鎧を裂いたナイフはボロボロだな」


ーーーーーー


 見事に再生を果たした。そしてオトメは最強の能力といってもいい『無条件再生能力』を獲得した。

「……音目京介君か?なんだその姿は」
「再生能力付与?的な。てめぇの奥さんに会ってきた」

 僕はキリカの所へと足を進めた。

「キリカ、聞こえるか?ポーション出せ」
「う……ん」

 キリカはストレージから一つだけ頭の横に出現させた。僕は急いでそれをキリカにかけてHPを回復させた。あと少し遅れていたら間に合わなかったかもしれない。

「良かった……」
「ありがとう、一応出血は止まった……もう、大丈夫」
「休め、あとは……」

 近くにあったエフェクトシールドを拾い上げてカミセの方へ歩く。

「任せろ」
「京介君、会ったとは?」
「ツキミって人に会った。あんたがβを作った経緯も大体」
「何故だ……何故名前を知っているのだ!ツキミは死んだ!復活に必要な名簿への登録をしていなかった。何故?どこで会った!」
「さぁ?白い部屋だったよ」
「考えられるのは……」
「頼まれたよ。あんたを殺せってなぁ!」

 リーンフォース発動からエンドスナイパーで接近、当然防御されるが前回よりも甘い。

「でも聞きたいことはある。あんたがどうしてβを作ったかじゃない。どうして、あんた自身の復活の登録を消した!?」
「私なりの……贖罪だ!」
「いいか、聞け」

 斬り下しで鍔迫り合いになる。

「お前は、天才だ。でもお前がやることは死を受け入れてその人の思いを受け取って生きることだ!」
「京介君……いや、貴様に分かるものか!」
「一般的には、他人事的にはな?」

 僕の顔は歪んで笑っていた。僕はカミセの気持ちが分かるし誰でも自分と周りが一番大切なのだ。究極誰でもどうでもいい自分が宝物。

「だから……お前はツキミさんをβにコピーした。それは絶対間違ってない!僕が認める!」
「な、何を言い出すと思えば……」
「この世で最も愛する者を助ける、それが複製された命であっても、それはカミセあんたにとっては大切なものだろ?他の誰が何と言おうと非人道的だと言ってもだ」
「その通りだ……」
「……お前の罪は外の命に手を出したことだ。複製された命でβを満たした。へへへ気持ちは分かるさ。奥さんと自分が神様で新しく世界始めようぜ的な?それで贖罪で自分の命は一度きりだって?自分は元の世界とルールが一緒って、裏切りに等しいね。神様なら覚悟決めろ!βが新しい居場所ならその記憶を世界に差し出せクソ野郎!」
「好き勝手言うな京介君!」
  
 攻撃力は届くレベルだ。なら体が尽きるか剣が首に届くかの勝負だ。

「エリアル・マジック」

 空中からの高速攻撃を任意の場所から四連撃、カミセは綺麗にいなしてみせる。

「そこだ……」

 最後の一撃で僕の左足を切り落とした。

「いで!」

 地面に顔からダイブするが文字が集まってすぐに足が戻ってくる。

「ははは……まだ行けるぜ」
「チートじゃないか」
「負け認めるか?さっさと復活出来るようにしろ」
「それは出来ない。もう後戻りは出来ない。嘗ての記憶なんか覚えていない。ツキミを複製した時は覚えている。しかし、二人目以降の複製記憶がもうない。無慈悲な犯罪者だ。私に二度目の世界はない。故に私は私の生の全てをかけて君の命を奪う。命尽きるその時までECFから世界を守り、ここに新たなる理想郷を確立させる!」

 エフェクトシールドを上げて、エンドスナイパーの構えをとる。

「そっちの方向に覚悟が決まってるのね。じゃあもう……クソッ……」

 深呼吸した。すでに心臓バクバクだ。

「全身全霊のずるをもって管理者カミセの命を貰う」
「……因果であるな、どうしても君の瞳にツキミが居るように見える」


 これより本物の殺人を開始する。




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