タロット・コンバッティメント

ウツ。

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第10章 創始者

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「創…始者…?」
拓人は唖然とその人物を見つめた。そして沸き起こったのは怒りだった。
「お前がこんなゲームを…。今すぐこのゲームを終わらせろ!」
「それは無理だなぁ。だって考えてみなよ。確かに君みたいに死に怯えて抜け出したいと思っている人もいるかもしれない。でもこのゲームは奇跡のゲームなんだ!その奇跡にすがる人だっているんだよ?ね?お嬢さん?」
目を向けられ、咲は一瞬身を縮ませる。どうやら図星のようだ。
その様子に、拓人はただ固まる事しかできなかった。しかし、次の一言で拓人の中の何かが切れた。
「まあ俺は死と奇跡の狭間でもがき苦しむ姿を見るのが楽しいだけなんだけどね。そう、例えば君みたいな」
「モルテ!」
「おわっ!ちょっ…拓人!」
拓人はカードからモルテを呼び出すと、大鎌を取り上げ、その変化した剣を手に創始者へ向かって突進した。
「このやろおお!」
「モンド」
「はい」
しかしそんな拓人に創始者は動揺する様子など一切見せず、ただ一言自身が持っていたカードに向かって名を呼びかけた。その瞬間、拓人と創始者の間に一人の女性が現れた。そして無残にも拓人の剣はその女性を貫く。
「…!」
拓人は、手にのしかかった重みと滴る赤い雫に思考が停止した。
「あっはは!そう!その顔だよ!」
創始者は吹雪の中、高らかに笑い声をあげる。
「あ…こんな、つもりじゃ…」
拓人は後ずさるように女性から剣を抜いた。その神話に出てきそうな服をまとった美しい女性は無抵抗に地へ倒れた。
「拓人!落ち着け!」
モルテが拓人に駆け寄りその身を揺さぶった。
手に残る重み。剣から滴る赤。倒れる音。拓人はその女性から目を動かせずにいた。
「モンド、大丈夫かい?」
そんな中、創始者はその女性にまるで転んだだけかのように声をかけた。
「はい。大丈夫です」
その瞬間、その女性は何事もなかったかのように起き上がった。その傷口からは既に血は一滴も出ていなかった。
「回復能力…?!」
驚愕の声をあげたのは咲だった。回復がカード能力なら咲と同じものだ。
「全く、そう感情だけで動くなよ。俺は君のその顔が見れて楽しいけど、戦う気はさらさらないんだよ?」
「戦う気はないって、フィールド内に入ってきてるんだからどちらかが死なないとここからは出られないじゃない!」
「忘れないでほしいな。俺は”創始者”なんだよ?それじゃ」
そう言ってその創始者は吹雪の中に女性とともに姿を消した。その瞬間世界に色が戻った。
「フィールドが消えた…。あいつはフィールドから抜け出したってこと…?」
疑問を一人こぼす咲と世界の色で、拓人はようやく冷静さを取り戻した。そして自らの手を見つめた。
「僕、人を…」
「あれはカードよ。あなたは人を刺してないわ」
それが慰めの言葉だったのか、事実を告げられただけなのか拓人にはわからなかった。ただその言葉に救われたのは変わらぬ事実だった。
「あら!黒薔薇さんじゃない!」
「こんにちは先生」
「久しぶりね。ちゃんと元気にしてた?でも学校には制服で来てね」
「あ、今日は帰り際に偶然立ち寄っただけなので」
現実に戻ってきて早々、咲は図書室の先生に声をかけられた。慣れたように受け答える咲。そのゴスロリ姿は現実では異様に目立っていた。
学校には制服で…?
拓人はその言葉に引っかかった。
「あの…もしかして、この学校の生徒…ですか?」
そもそも学内で展開されたフィールドなのだから学校にいる人であるのは間違いない。しかしそのゴスロリ姿が生徒を連想させなかった。
もしかするとあの創始者も…。
再び忙しく回り始めた思考に、咲は一言「少し話しましょう」とだけ言って図書室の一席についた。その席はものの数十分前まで弓実が座っていた席だ。
「改めて自己紹介するわね。私は黒薔薇咲。この高校の三年生よ。不登校だけど」
「不登校なんですか?先輩」
「先輩?」
「はい。あ、宇宮拓人、高校二年生です!」
「なるほど」
咲は納得したように頷いた。そして少し考えるように間をおいてこう言った。
「先輩と呼ばれるのはむず痒いわ。やめて」
「わかりました。黒薔薇…さん?」
「敬語も駄目」
「わかりま…わかった」
咲は長い白髪を掻き上げる。放課後で人は少ないとはいえ、室内の視線は彼女に集まっていた。それに気づいたのか咲は「場所を変えましょう」と言って即座に席を立った。
「ま、待って!僕本借りてから出るから!」
「外で待ってる」
咲は少し振り返ってそう言うと図書室を後にした。
拓人は急いで武器についての本を借りるとその後を追った。
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