11 / 22
第10章 創始者
しおりを挟む
「創…始者…?」
拓人は唖然とその人物を見つめた。そして沸き起こったのは怒りだった。
「お前がこんなゲームを…。今すぐこのゲームを終わらせろ!」
「それは無理だなぁ。だって考えてみなよ。確かに君みたいに死に怯えて抜け出したいと思っている人もいるかもしれない。でもこのゲームは奇跡のゲームなんだ!その奇跡にすがる人だっているんだよ?ね?お嬢さん?」
目を向けられ、咲は一瞬身を縮ませる。どうやら図星のようだ。
その様子に、拓人はただ固まる事しかできなかった。しかし、次の一言で拓人の中の何かが切れた。
「まあ俺は死と奇跡の狭間でもがき苦しむ姿を見るのが楽しいだけなんだけどね。そう、例えば君みたいな」
「モルテ!」
「おわっ!ちょっ…拓人!」
拓人はカードからモルテを呼び出すと、大鎌を取り上げ、その変化した剣を手に創始者へ向かって突進した。
「このやろおお!」
「モンド」
「はい」
しかしそんな拓人に創始者は動揺する様子など一切見せず、ただ一言自身が持っていたカードに向かって名を呼びかけた。その瞬間、拓人と創始者の間に一人の女性が現れた。そして無残にも拓人の剣はその女性を貫く。
「…!」
拓人は、手にのしかかった重みと滴る赤い雫に思考が停止した。
「あっはは!そう!その顔だよ!」
創始者は吹雪の中、高らかに笑い声をあげる。
「あ…こんな、つもりじゃ…」
拓人は後ずさるように女性から剣を抜いた。その神話に出てきそうな服をまとった美しい女性は無抵抗に地へ倒れた。
「拓人!落ち着け!」
モルテが拓人に駆け寄りその身を揺さぶった。
手に残る重み。剣から滴る赤。倒れる音。拓人はその女性から目を動かせずにいた。
「モンド、大丈夫かい?」
そんな中、創始者はその女性にまるで転んだだけかのように声をかけた。
「はい。大丈夫です」
その瞬間、その女性は何事もなかったかのように起き上がった。その傷口からは既に血は一滴も出ていなかった。
「回復能力…?!」
驚愕の声をあげたのは咲だった。回復がカード能力なら咲と同じものだ。
「全く、そう感情だけで動くなよ。俺は君のその顔が見れて楽しいけど、戦う気はさらさらないんだよ?」
「戦う気はないって、フィールド内に入ってきてるんだからどちらかが死なないとここからは出られないじゃない!」
「忘れないでほしいな。俺は”創始者”なんだよ?それじゃ」
そう言ってその創始者は吹雪の中に女性とともに姿を消した。その瞬間世界に色が戻った。
「フィールドが消えた…。あいつはフィールドから抜け出したってこと…?」
疑問を一人こぼす咲と世界の色で、拓人はようやく冷静さを取り戻した。そして自らの手を見つめた。
「僕、人を…」
「あれはカードよ。あなたは人を刺してないわ」
それが慰めの言葉だったのか、事実を告げられただけなのか拓人にはわからなかった。ただその言葉に救われたのは変わらぬ事実だった。
「あら!黒薔薇さんじゃない!」
「こんにちは先生」
「久しぶりね。ちゃんと元気にしてた?でも学校には制服で来てね」
「あ、今日は帰り際に偶然立ち寄っただけなので」
現実に戻ってきて早々、咲は図書室の先生に声をかけられた。慣れたように受け答える咲。そのゴスロリ姿は現実では異様に目立っていた。
学校には制服で…?
拓人はその言葉に引っかかった。
「あの…もしかして、この学校の生徒…ですか?」
そもそも学内で展開されたフィールドなのだから学校にいる人であるのは間違いない。しかしそのゴスロリ姿が生徒を連想させなかった。
もしかするとあの創始者も…。
再び忙しく回り始めた思考に、咲は一言「少し話しましょう」とだけ言って図書室の一席についた。その席はものの数十分前まで弓実が座っていた席だ。
「改めて自己紹介するわね。私は黒薔薇咲。この高校の三年生よ。不登校だけど」
「不登校なんですか?先輩」
「先輩?」
「はい。あ、宇宮拓人、高校二年生です!」
「なるほど」
咲は納得したように頷いた。そして少し考えるように間をおいてこう言った。
「先輩と呼ばれるのはむず痒いわ。やめて」
「わかりました。黒薔薇…さん?」
「敬語も駄目」
「わかりま…わかった」
咲は長い白髪を掻き上げる。放課後で人は少ないとはいえ、室内の視線は彼女に集まっていた。それに気づいたのか咲は「場所を変えましょう」と言って即座に席を立った。
「ま、待って!僕本借りてから出るから!」
「外で待ってる」
咲は少し振り返ってそう言うと図書室を後にした。
拓人は急いで武器についての本を借りるとその後を追った。
拓人は唖然とその人物を見つめた。そして沸き起こったのは怒りだった。
「お前がこんなゲームを…。今すぐこのゲームを終わらせろ!」
「それは無理だなぁ。だって考えてみなよ。確かに君みたいに死に怯えて抜け出したいと思っている人もいるかもしれない。でもこのゲームは奇跡のゲームなんだ!その奇跡にすがる人だっているんだよ?ね?お嬢さん?」
目を向けられ、咲は一瞬身を縮ませる。どうやら図星のようだ。
その様子に、拓人はただ固まる事しかできなかった。しかし、次の一言で拓人の中の何かが切れた。
「まあ俺は死と奇跡の狭間でもがき苦しむ姿を見るのが楽しいだけなんだけどね。そう、例えば君みたいな」
「モルテ!」
「おわっ!ちょっ…拓人!」
拓人はカードからモルテを呼び出すと、大鎌を取り上げ、その変化した剣を手に創始者へ向かって突進した。
「このやろおお!」
「モンド」
「はい」
しかしそんな拓人に創始者は動揺する様子など一切見せず、ただ一言自身が持っていたカードに向かって名を呼びかけた。その瞬間、拓人と創始者の間に一人の女性が現れた。そして無残にも拓人の剣はその女性を貫く。
「…!」
拓人は、手にのしかかった重みと滴る赤い雫に思考が停止した。
「あっはは!そう!その顔だよ!」
創始者は吹雪の中、高らかに笑い声をあげる。
「あ…こんな、つもりじゃ…」
拓人は後ずさるように女性から剣を抜いた。その神話に出てきそうな服をまとった美しい女性は無抵抗に地へ倒れた。
「拓人!落ち着け!」
モルテが拓人に駆け寄りその身を揺さぶった。
手に残る重み。剣から滴る赤。倒れる音。拓人はその女性から目を動かせずにいた。
「モンド、大丈夫かい?」
そんな中、創始者はその女性にまるで転んだだけかのように声をかけた。
「はい。大丈夫です」
その瞬間、その女性は何事もなかったかのように起き上がった。その傷口からは既に血は一滴も出ていなかった。
「回復能力…?!」
驚愕の声をあげたのは咲だった。回復がカード能力なら咲と同じものだ。
「全く、そう感情だけで動くなよ。俺は君のその顔が見れて楽しいけど、戦う気はさらさらないんだよ?」
「戦う気はないって、フィールド内に入ってきてるんだからどちらかが死なないとここからは出られないじゃない!」
「忘れないでほしいな。俺は”創始者”なんだよ?それじゃ」
そう言ってその創始者は吹雪の中に女性とともに姿を消した。その瞬間世界に色が戻った。
「フィールドが消えた…。あいつはフィールドから抜け出したってこと…?」
疑問を一人こぼす咲と世界の色で、拓人はようやく冷静さを取り戻した。そして自らの手を見つめた。
「僕、人を…」
「あれはカードよ。あなたは人を刺してないわ」
それが慰めの言葉だったのか、事実を告げられただけなのか拓人にはわからなかった。ただその言葉に救われたのは変わらぬ事実だった。
「あら!黒薔薇さんじゃない!」
「こんにちは先生」
「久しぶりね。ちゃんと元気にしてた?でも学校には制服で来てね」
「あ、今日は帰り際に偶然立ち寄っただけなので」
現実に戻ってきて早々、咲は図書室の先生に声をかけられた。慣れたように受け答える咲。そのゴスロリ姿は現実では異様に目立っていた。
学校には制服で…?
拓人はその言葉に引っかかった。
「あの…もしかして、この学校の生徒…ですか?」
そもそも学内で展開されたフィールドなのだから学校にいる人であるのは間違いない。しかしそのゴスロリ姿が生徒を連想させなかった。
もしかするとあの創始者も…。
再び忙しく回り始めた思考に、咲は一言「少し話しましょう」とだけ言って図書室の一席についた。その席はものの数十分前まで弓実が座っていた席だ。
「改めて自己紹介するわね。私は黒薔薇咲。この高校の三年生よ。不登校だけど」
「不登校なんですか?先輩」
「先輩?」
「はい。あ、宇宮拓人、高校二年生です!」
「なるほど」
咲は納得したように頷いた。そして少し考えるように間をおいてこう言った。
「先輩と呼ばれるのはむず痒いわ。やめて」
「わかりました。黒薔薇…さん?」
「敬語も駄目」
「わかりま…わかった」
咲は長い白髪を掻き上げる。放課後で人は少ないとはいえ、室内の視線は彼女に集まっていた。それに気づいたのか咲は「場所を変えましょう」と言って即座に席を立った。
「ま、待って!僕本借りてから出るから!」
「外で待ってる」
咲は少し振り返ってそう言うと図書室を後にした。
拓人は急いで武器についての本を借りるとその後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる