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第14章 存在
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「おはよー…」
「あ、海おはよ」
拓人はいつもの親友に挨拶を交わした。しかしその表情はどこか沈んでいる。
「今日初期テストの順位発表だろー?俺もう憂鬱でしかないよ」
海にそう言われて拓人もハッと現実に返る。最近色々ありすぎて本来の学生という現実を忘れていた。
「僕も今回はやばいかも…」
「でもお前は追試ではなかったんだからまだ大丈夫だよ」
拓人の学校では順位よりも先に追試が行われる。その後、順位張り出しが行われるのだ。そのため、おおよその順位は個々がすでに自覚済みなのだった。
拓人たちは冷や汗を浮かべながら順位張り出しの場所へと向かった。
「相変わらず凄い人だかりだな。探すのも一苦労だよ」
そう言って集まる人の中、拓人は一位の人物の名を見た。
「大村和樹…?」
「またお前が1位かよ。一体どんだけ勉強してるんだよ」
そんな声が背後から聞こえた。拓人は思わず名前を二度見する。
おかしい。大村和樹は今まで学年2位だったはずだ。弓実が戦闘に負けたのは昨日のこと。初期テストは受けていたはずだった。しかしそこに弓実の名前はない。
「ねえ海、今回のテスト、斉果さんが1位じゃないんだね」
拓人はある仮説を乗せて海に尋ねた。
「斉果さん…?誰それ?」
「…!」
拓人は駆け足で教室へ戻った。そして死神のカードを取り出し、人気のない廊下の隅でモルテを呼び起こした。
「モルテ!まさかあのゲームでの死は存在が消えるってことなのか?!」
「へぇ、だいぶ勘が冴えるようになったじゃん」
モルテはいつもの笑みを浮かべながら拓人を褒めた。しかし、そんな褒め言葉を拓人は期待していたわけではない。
「思ってみればフィールドが消えた後、カードしか残らないからおかしいと思っていたんだ!なんで毎度毎度肝心なことを教えてくれない!」
「教えたじゃないか。負ければ死ぬって。フィールド内で死ぬってことはもう別次元のことなんだからこちらの世界に死体もろとも記憶も残るわけがないだろう?」
「めちゃくちゃだ!」
「それはあの創始者ってやつに言って欲しいね」
モルテはそう言うと再びカードに戻った。ちょうどそのタイミングで海が角から顔を出した。
「何してんだよ拓人。こんなところで」
「あ、いや…別に…」
「なんか顔色悪いぞ?気分でも悪いんじゃ…」
「いや、大丈夫。ところで順位どうだった?」
拓人は心配する海に今できる精一杯の笑顔を向けた。世界はこのゲームによってすでに捻じ曲げられていた。
「俺は追試で点取れててまあまあだったよ。拓人もそれなりにいい順位だったぜ」
拓人は残酷な世界から逃げるように、海と教室へ戻った。
**************
自分が負ければ、存在した証さえ消える。
この世界から自分という存在が。
それは恐ろしいことなのか、拓人にはよくわからなかった。そもそも世界とは何なのか。そんな哲学的なことを拓人は考えていた。
将来有望だった斉果弓実を、将来の夢すらまともに決まっていない自分が消した。
自負の念は消そうにも消えない。何度も咲が言ってくれた言葉を思い出し、その考えを消そうとするが、ゲームの残酷さはそのさらに上をいっていた。
「そろそろいじけるのはやめたらどうだ」
帰り道、思いつめていた拓人にモルテが声をかけた。
「いじけてはいないさ。そもそも何でモルテはそんなに無関心なんだ」
「さあ?ビジュアルだからじゃない?」
モルテはあてにならないと、拓人はため息をついた。そんな時、一件のメールが拓人に届いた。
「ちょっと話がしたいの。夢町公園まで来れる?」
それは昨日パートナー契約を交わした咲からだった。ちょうどこの悪夢思考の連鎖から抜け出したいと思っていた拓人は迷わず「わかった」と返した。
拓人は帰路を逸れると指定の待ち合わせ場所に向かった。
「あ、海おはよ」
拓人はいつもの親友に挨拶を交わした。しかしその表情はどこか沈んでいる。
「今日初期テストの順位発表だろー?俺もう憂鬱でしかないよ」
海にそう言われて拓人もハッと現実に返る。最近色々ありすぎて本来の学生という現実を忘れていた。
「僕も今回はやばいかも…」
「でもお前は追試ではなかったんだからまだ大丈夫だよ」
拓人の学校では順位よりも先に追試が行われる。その後、順位張り出しが行われるのだ。そのため、おおよその順位は個々がすでに自覚済みなのだった。
拓人たちは冷や汗を浮かべながら順位張り出しの場所へと向かった。
「相変わらず凄い人だかりだな。探すのも一苦労だよ」
そう言って集まる人の中、拓人は一位の人物の名を見た。
「大村和樹…?」
「またお前が1位かよ。一体どんだけ勉強してるんだよ」
そんな声が背後から聞こえた。拓人は思わず名前を二度見する。
おかしい。大村和樹は今まで学年2位だったはずだ。弓実が戦闘に負けたのは昨日のこと。初期テストは受けていたはずだった。しかしそこに弓実の名前はない。
「ねえ海、今回のテスト、斉果さんが1位じゃないんだね」
拓人はある仮説を乗せて海に尋ねた。
「斉果さん…?誰それ?」
「…!」
拓人は駆け足で教室へ戻った。そして死神のカードを取り出し、人気のない廊下の隅でモルテを呼び起こした。
「モルテ!まさかあのゲームでの死は存在が消えるってことなのか?!」
「へぇ、だいぶ勘が冴えるようになったじゃん」
モルテはいつもの笑みを浮かべながら拓人を褒めた。しかし、そんな褒め言葉を拓人は期待していたわけではない。
「思ってみればフィールドが消えた後、カードしか残らないからおかしいと思っていたんだ!なんで毎度毎度肝心なことを教えてくれない!」
「教えたじゃないか。負ければ死ぬって。フィールド内で死ぬってことはもう別次元のことなんだからこちらの世界に死体もろとも記憶も残るわけがないだろう?」
「めちゃくちゃだ!」
「それはあの創始者ってやつに言って欲しいね」
モルテはそう言うと再びカードに戻った。ちょうどそのタイミングで海が角から顔を出した。
「何してんだよ拓人。こんなところで」
「あ、いや…別に…」
「なんか顔色悪いぞ?気分でも悪いんじゃ…」
「いや、大丈夫。ところで順位どうだった?」
拓人は心配する海に今できる精一杯の笑顔を向けた。世界はこのゲームによってすでに捻じ曲げられていた。
「俺は追試で点取れててまあまあだったよ。拓人もそれなりにいい順位だったぜ」
拓人は残酷な世界から逃げるように、海と教室へ戻った。
**************
自分が負ければ、存在した証さえ消える。
この世界から自分という存在が。
それは恐ろしいことなのか、拓人にはよくわからなかった。そもそも世界とは何なのか。そんな哲学的なことを拓人は考えていた。
将来有望だった斉果弓実を、将来の夢すらまともに決まっていない自分が消した。
自負の念は消そうにも消えない。何度も咲が言ってくれた言葉を思い出し、その考えを消そうとするが、ゲームの残酷さはそのさらに上をいっていた。
「そろそろいじけるのはやめたらどうだ」
帰り道、思いつめていた拓人にモルテが声をかけた。
「いじけてはいないさ。そもそも何でモルテはそんなに無関心なんだ」
「さあ?ビジュアルだからじゃない?」
モルテはあてにならないと、拓人はため息をついた。そんな時、一件のメールが拓人に届いた。
「ちょっと話がしたいの。夢町公園まで来れる?」
それは昨日パートナー契約を交わした咲からだった。ちょうどこの悪夢思考の連鎖から抜け出したいと思っていた拓人は迷わず「わかった」と返した。
拓人は帰路を逸れると指定の待ち合わせ場所に向かった。
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