タロット・コンバッティメント

ウツ。

文字の大きさ
16 / 22

第15章 静かな夕暮れ

しおりを挟む
公園に着いた拓人は、ベンチに座っている咲をすぐに見つけた。咲は相変わらず目立つゴスロリ姿をしていた。きっと今日も占いの仕事をしてきたのだろう。
「ごめん待たせて」
「別にいいわ。急に呼び出したのは私だし」
咲は落ち着いた様子で拓人に隣に座るよう促した。
「どうして急に?」
「ちょっとこのゲームについてわかってきたことがあって」
ゲームについては個々で調べていくしかない。それは拓人もわかっていた。だからこそこの情報交換の大切さはよくわかった。
「私今日このタロットカードについて調べるために、隣町の方にいっていたの。その町でこのタロットカードを売ってる店を探したのよ。そしたら…こんなタロットカードは入荷されてないって、すべての占い専門店は言ったのよ」
「それって、この町でしかこのタロットカードが出回っていないってこと?」
「そうなるわ。同時にこの町でしかこのゲームは行われていない」
「それは言い切れないんじゃないか?だってこのタロットカードを持ってる人がこの町から離れたりしたら…」
「そう。私は今日離れたのよ」
咲は女帝のカードを見つめながらつぶやいた。
「この町から出た瞬間、あの高音が脳内に鳴り響いたわ。そしてすぐに戦闘に巻き込まれた」
「そんなの聞いてないよ!」
拓人は今日1日、先ほどのメール以外受け取ってないことを思い出した。
「言ってないからよ。小アルカナだったし」
「だからってもう少し僕を頼ってくれても…」
拓人は自分が力になれないことに少し落ち込んだ。
「頼らなかったんじゃないわ。頼らなくても倒せる相手と確信していたからよ。これが大アルカナだったらすかさず呼んでいたわ。それとも経験として呼んでいた方が良かったかしら?」
「もういいよ」
拓人はうなだれた。そんな拓人を気にもせず、咲は続きを話し始めた。
「一度しか試してないからただの仮説だけど、この町から出るとき、そのときは強制的にカード所持者に居場所が特定されるようになっているんじゃないかと思うの」
咲の仮説が正しいとしたら、この町から出るには必ず戦闘を行わなければならないということになる。つまり…
「創始者はカード所持者をこの町から出したくない」
「おそらく」
理由はわからないが、そうであることは事実だった。
「ねえ、これは私の興味もあるのだけれど、お互いの叶えたい願い、教えておかない?お互いの命を背負ってるわけだし、パートナー契約が有効なまま優勝したら、それぞれが願いを叶えられるの。どうかしら?お互いあまり隠し事はしたくないじゃない?私も話しておきたいことがあるし」
「そうだね。じゃあ僕から話すよ。あまり明るい話じゃないけど、そこはごめん」
「別にいいわ。そもそもこんなデスゲームの中にいるんだから暗い話なんて慣れっこよ」
「そうか」
拓人はゆっくりとあの地獄の情景を思い出した。きっと咲はここまで暗い話は予想していないだろう。
モルテはカードのまま拓人の話を聞くことにしたようで、カードからビジュアル化する気配はなかった。



   **************



「両親を…殺され…」
「うん。二年前に」
「ご、ごめんなさい…。嫌なこと思い出させちゃったわね…」
珍しく咲が狼狽えた。
「いいんだ。いずれ話さなきゃいけなかっただろうし」
拓人は優しく微笑んだ。
「だから僕は、両親を生き返らせるか、犯人の逮捕か、どちらかを願いたいと思ってる」
弓実にこの願いを指摘された後でも、拓人の願いはまだその二つで揺れていた。
「そうなのね。聞かせてくれてありがとう。次は私ね」
咲は綺麗な白い髪を肩から垂らしたまま、少しうつむき気味に、思い出すようにゆっくり口を開いた。
「私、昔親から虐待を受けていたの。私、小さい頃から占いにはまっていて、ゴシック系のものにもすごく興味があった。でもきっとそんな私のことが気に入らなかったんだと思うわ。私が占いをする度、いつも暴力を振るわれた。別に両親を憎んだりはしなかったわ。それ以上に、なんで私は認められないんだろうって、いつも考えてた。言われること、全部守った。それでも占いだけはやめたくなかった。好きだったから。そして高校生になって、一人この町に飛び出してきてこのタロットカードと出会った。その時の願いは両親にありのままの自分を認めてもらうことだったわ」
「それは普通の願いでは叶えられないの?」
「一度やってみたけど駄目だったわ。現実には起こりえないってことよ…」
「どうして…!」
「わからないわ。でも、今の願いはそんなことじゃないの」
咲はうつむき気味だった顔を上げ、決意するように拓人に言い放った。

「ねえ、私がスムーズにパートナー契約を行えたこと、不思議に思わなかった?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...