タロット・コンバッティメント

ウツ。

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第16章 不意打ち

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突然の問いかけに拓人はハッと思い返す。
あの時は無我夢中で気付かなかったが、こうして聞かれてみると確かに不自然ではある。
「モルテ」
拓人はカードに向かって呼びかけ、モルテを出現させた。
「何?」
「あの赤い本みせて」
「これか?」
モルテは例のほとんど白紙の本を取り出すと拓人に渡した。受け取った拓人は素早くページをめくっていく。そしてある1ページで手を止めた。
「モルテ、君が最初にこの本を見たとき、このページはなかったよね?」
「うん」
それは「パートナー契約」と書かれているページだった。また別のページにはパートナー契約を行ったときに使用した魔法陣もしっかりと描かれている。
「さすがに俺も見逃すわけないよ。それにもし知ってたら拓人の最初の願いで話してたよ」
「だよね」
「そう、つまりその本は最初のゲーム説明以外、経験したことしか記載されない」
咲がリーチェを呼び起こし、自らの赤い本を指でなぞった。
「じゃあ咲はパートナー契約をしたことがあるってこと?」
「…ええ。あるわ」
そこまで聞いて拓人はその問いに思い詰まる。
パートナー契約はそのどちらか片方が死ぬまで破ることはできない。
つまり咲の元パートナーは…。
「言わずとも察してくれたようね。そうよ。死んだの」
咲は重々しく口を開いた。
「当初、私は親友とパートナー契約を交わしていたわ。親友は小アルカナだった。けど、ゲームに参加したばかりの私たちはその重要性について全く知らなかった。ただのお遊び程度に考えていたのよ」
咲は語るにつれて拳を強く握った。
「戦闘を繰り返すうち、私たちはこのゲームが危険なデスゲームだと気づいていく。幸運にもそれまで当たった相手が小アルカナで他人だったから死というものをうまく把握できてなかったの。私たちはこのまま行けば優勝も間違いないというくらい過信していたわ。そんな時よ。その相手が現れたのは」
その時、一人の子供が転んだ。泣きながら母親に駆け寄って行く子供を見つめ、咲は続きを語りだす。その目は夕日のせいか、少し潤んで見えた。
「小アルカナ同士でパートナー契約を結んだ相手と出会った。先にフィールド展開したのは私たちだったわ。でもその二人は攻撃力に特化したパートナーだったの。私は回復能力があるにしても、攻撃力は二人合わせても相手にかなうものではなかった。戦闘中、回復能力を親友にかけている隙を狙われたの。親友は移動速度を上げる能力を持っていて、その時の私をかばってくれた。…自分の命を犠牲にして」
咲は俯いてその膝に涙を落とした。
「急所を刺されていて、私の回復能力じゃどうすることもできなかった…。親友は死に、私は怒りと悲しみだけを頼りに戦ったわ。いくら体が切りつけられようがなんともない。急所さえ狙われなければ私には回復能力があった。でも心はぼろぼろだった…。恨みをぶつけるようにして私はなんとか二人を倒したわ。死んだ親友はもうこの世に戻ってこなかった。パートナー契約もそこで終わり。学校に行こうが誰一人としてその子のことを覚えていなかった。これが私がパートナー契約のことを知っていた理由。ごめんなさい…泣くつもりなんてなかったのに…」
拓人はそんな咲の話を何も言わずにただ聞いていた。咲にも辛い過去はあったのだ。そんな咲に自分はなんと言っただろう。

「なんでそんなに平然としていられるんですか!」

そう言った。
違う。咲は耐えていたのだ。感情を自ら押さえ込んで戦っていたのだ。
「ごめん。昨日の戦闘中、酷いこと言ったね」
「別にいいわ。そんなあなたが普通だもの」
咲は涙を拭うと再び強く拓人に向き直った。
「私は優勝したら親友を生き返らせる」
その意思は拓人よりはるかに強いものだった。
拓人はそれに頷くと、気にかかったことを口にした。
「その…君の親友はパートナー契約のことを知っていたの?」
「おそらく。私より先にこのタロットカードを持っていたように思うわ」
「そうか…」
「どうしたの?」
咲は不満げに考え込む拓人に問うた。
「いや、この本が経験したことしか書かれないんだとしたら、最初にパートナー契約をした人はどうやってそのことを知ったんだろうと思って」
「確かに、言われてみれば不思議ね」
「ねえ、お兄ちゃん達、何話してるの?」
その時、拓人達の前に一人の小学生くらいの子が現れた。
「え?あ、いやちょっと占いの話をね」
拓人はとっさに笑顔を作り、あってるようであってない嘘をついた。
「へぇ~。お兄ちゃん達占いするんだ」
その瞬間、少女の顔つきが変わった。まずいと思った時には手遅れだった。
ずっと鳴り響いていた高音。話に夢中だった二人はそれに全く気付かなかったのだ。
「えへへ、ごめんねお兄ちゃんお姉ちゃん」

「フィールド展開」
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