タロット・コンバッティメント

ウツ。

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第17章 能力抑制

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世界の色が変わった。さっきまで遊んでいた子供達の姿も忽然と消える。
「あんな小さい子と戦えっていうのかよ!」
「でもフィールド展開したのはあの子よ!」
拓人達はいきなりの不意打ちに慌てて自分たちの剣を手に立ち尽くす。
相手は子供だ。しかも一人。拓人達がパートナー契約を交わしていると思わなかったのか、それとも気づいた上で勝つ自信があるのか。
少女はこちらを見て不気味な笑みを浮かべている。その表情からいくと後者だろう。
「何のカードなんだ…?」
少女の隣に立っているいるのは、白い服に丸い王冠を乗せた長身の男だ。遠目に見ればリーチェと少し似ている気がする。
「あれは…塔、かしら…?」
「塔?」
咲が疑問系で呟く。言われてみれば大アルカナの「塔」とイメージが寄っている気がする。しかしそもそも塔のカードが人物じゃないため、言われないとわからない。
「大アルカナ…能力が怖いわね…」
咲は戦う意思をあらわに剣を強く握った。一方拓人は剣こそ握っているが、まだ覚悟ができていなかった。
相手は小学生。これからの未来があるというのに、それを自らの手で切れというのか。
「あ、自己紹介しとくね。一応初めましてだし。僕は渚冬なぎさふゆこっちは僕のカード、トルレだよ」
少女は自らを僕と言うと、ここが戦場であることも忘れてしまうほどにこやかに自己紹介をした。横に立つトルレは軽く会釈をし、冬に曲剣を渡した。拓人はその剣に見覚えがあった。確か図鑑に載っていた「ハンガリアンサーベル」だ。記憶が正しければあれは片刃の剣だ。
拓人は昨日、実在する剣をこれでもかと頭に叩き込んでいた。幸いすぐに思い出すことができた。
「トルレは塔であってるわ。でも全く能力のイメージがつかない…」
咲が悔しそうに唇を噛む。
「こっちが名乗ったんだよ。君たちも名乗るべきだよ」
冬は剣を弄び、不満そうに口を尖らせた。
「私は黒薔薇咲。こっちはリーチェよ」
「僕は宇宮拓人。こっちはモルテ」
冬は満足そうに頷くと、次の瞬間、剣で切りつけてきた。
「危ない!」
咲がとっさに星のかけらを放とうと構える。しかし星が出現することはなかった。無残にも反射的に体をかばおうとした拓人の腕は深く切り裂かれる。
「ってぇ…!」
拓人は切り裂かれた腕を押さえ、勢いで後ずさった。
「お姉ちゃんも星出せるんだ。でも私の能力で消えちゃうくらい小さいものみたいだね」
「どういうこと…?」
咲は拓人に回復能力を付与しながら困惑の表情を浮かべる。それは先程の星の発動に関してだけではなかった。

明らかに傷の治りが遅い。

今までの経験上、咲の回復能力は強力だった。こんな切り傷すぐに治ってしまうほどに。それがいつまでたっても傷が完治しないのだ。
「僕の能力、教えてあげるよ。付与型、能力抑制だよ」
不敵な笑みを浮かべて冬はこちらに剣を構え直す。
「だから僕はどんな能力も怖くないんだ」
「咲、回復はもういい!剣を構えろ!」
拓人は冬に背をむける状態になっている咲に叫んだ。
冬の能力がそういうものなら攻撃を受けないのが一番の得策だ。咲もそう感じたのか、剣を構えると正面から冬に切りかかった。その刃先にためらいはない。
「正面からなんていくらでも防げるに決まってるじゃん」
冬は笑いながら自らの剣で咲の剣を防いだ。そこを突き、拓人は冬の背後から切りつけにかかった。
「無駄だよ」
しかし冬は剣の握っていない方の手で例の星を放った。
「うわっ!」
拓人はギリギリでその星を防ぐ。それは沙織と同じくらいの大きさのものだった。
こんな小さい子が、しかも戦闘経験は多いのだろう。明らかに相手の動きを読んでいる。
咲が冬の剣を振り払い、一度距離をとった。背後からの攻撃に失敗した拓人も同じように距離をとる。
「どうする?」
「頼りになるのはあなたの能力よ。あなたの能力がどこまでの効力を持つのか。私の能力みたいにあなたの能力も強力なものだから消えたりはしないはずよ。とりあえずあなたは冬を切りつけることに集中して」
「わかった」
拓人は剣を構えて咲とともに冬へと駆け出した。
「だから同時攻撃も無駄だって」
冬は呆れたように息を吐くと、大量の星を放った。その中、咲は拓人の先導に立ち、星をなぎ払っていく。
「私があの子の剣と対峙する。星の攻撃は避けれるだけ避けて。でもそのまま切りかかって。急所さえ守れば回復能力が弱いけど使える。いいわね?」
「了解」
拓人たちはそれぞれが戦う角度を変えると、余裕ぶった冬に入りかかった。案の定、正面から向かった咲に、冬は剣で対応した。先程と何も戦闘方法は変わっていない。しかし星を放ってまで拓人が飛び込んでくるとは思っていなかったのか、冬は余裕ぶった表情を崩す。星は相変わらず避けきれない。腕も肩も足も傷が増えていく。それでも拓人は突進をやめなかった。
「てやあああああ!」
星を放っていた冬の腕に拓人の剣が滑る。その瞬間脳内にあの言葉が響いた。

『能力発動』
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