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第2章 メイドとして
罪
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次の日の朝、ロゼの新しい生活が始まった。
「ロゼさん!そこのスープの中にこの野菜入れてください!」
「ロゼさん、その洗濯干し終わったら次これね」
「ロゼ!次は昼食の準備!」
家で家事を手伝っていたとはいえ、ここはお城。何もかもが勝手が違い、時間も決まっている。ロゼは他のメイドたちやメイド長に指示をもらい、必死に作業をこなしていた。
「ロゼ、お疲れ様。休憩入っていいわよ。賄いも出すからしっかり食べて次の仕事に取り組むのよ」
気がつけばすでに1時過ぎ。朝も早かったロゼのお腹はぺこぺこだった。
「ありがとうございます、メイド長」
ロゼは仕事場を離れると、今日教えてもらった休憩室に足を運んだ。
「はぁ…、お城の仕事ってこんなに忙しいんだ…」
ロゼは息を吐くとそっとテーブルの席に座った。朝から立ちっぱなしで、慣れない足は筋肉痛の一歩手前まできている。
「ロゼさん、これ今日の賄いです」
同じメイドが持ってきてくれた賄いを受け取り、ロゼは朝食をとることにした。今日のメニューは野菜スープに白パン、お肉の炒め物。賄いといえど、中身は王族に出しているのとさして変わらなかった。
「いただきます!」
ロゼは手を合わせそう呟いた。そしてパンをちぎって口に入れようとした時、その手が背後から引っ張られた。
「ん。この白パンうまいよな」
「あ、アル…!?」
背後に立っていたのはあろうことかこの国の第一王子アルだった。しかもその口には今しがたロゼがちぎった白パンが入っている。
「ななななにしてるの?!」
「なにって、ロゼを呼びに来たんだよ」
「じゃなくて!私の白パン!」
「いいじゃんか。毒見だよ、毒見」
アルはそう言ってロゼの横に腰掛けた。ロゼはスープを口に運びながら「何か用事?」と尋ねた。
「いいよ、食べ終わってからで。結構真剣な話だからさ」
アルはそう言ってロゼを見つめた。ロゼとしてはなにやら恥ずかしい気持ちで昼食を食べ進める羽目になった。
「ごちそうさまでした。で、話って何?」
ロゼは昼食を食べ終えると、ずっと横で待っていたアルに声をかけた。
「実は今から例の盗賊たちの刑を決める会議があるんだ。会議って言っても盗賊たちの弁解を聞いて、刑の最終決定を行うものなんだけどね。そこにロゼも同行してもらいたい。メイド長にはもう許可取ってあるから、次の仕事は休んでいいよ」
ロゼは盗賊たちと聞いて一瞬で嫌な記憶が蘇る。できればもう顔を合わせたくないほどだ。しかしロゼは頷いた。
「わかった。同行する」
アルはその返事を聞くと、ロゼを連れ、休憩室を後にした。
****************
「これより、罪人の刑最終決定を行う」
大臣の一声で会議は幕を開けた。しかし盗賊たちと向き合うように配置された席の中にロゼはいなかった。ロゼは一人、カーテンで仕切られた小さな個室に座らされていた。
「ロゼがいない状況下で、盗賊たちが何を述べるか聞いててほしい」
アルがそう言って準備した個室だった。ロゼにはアルの考えることがよくわからなかったが、とりあえず言葉に従っておくことにした。
「では罪人の犯した罪を述べる。まず無許可出港、闇取引、人身売買未遂。以上、他何か犯した罪は?罪人答えよ」
しばらく間があった後、盗賊たちはこう答えた。
「いえ、他に犯した罪はありません…!俺たちのやったことはその全てで間違いないです!」
ロゼはその答えを聞いてはらわたが煮えくり返りそうになった。他に犯した罪はない?何を言っているのだ。両親を殺して、家まで燃やしたくせに…!盗賊たちの性根の悪さが際立った。しかし全ての真実を知っているアルは黙っている。ロゼは怒りで震える手を握りしめ、会議の進行を待った。
「では証人、他に述べることは」
「はい。証人、第一王子のアルです。罪人は今それ以外に犯した罪はないとおっしゃいました。しかしそれは事実ではないと定義します」
「では証人の定義を聞きましょう。どうぞ」
「はい。罪人の罪はもう二つあります。それは殺人と放火です」
そのアルの発言に盗賊たちは抗議した。
「はっ?証拠でもあるのかよ?俺たちはそんなことしてないぜ。青髪の女を攫っただけだ」
どうやら盗賊たちは罪が軽くなるよう、会議を進めるつもりのようだった。
「証拠ならございます」
そう告げられた後、アルの足音が個室へ近づいてきた。そして隔てられていたカーテンが上げられる。
「ロゼ、こっちへ」
ロゼはアルに連れられ、盗賊たちと向かい合う位置に立った。
「な、なんでその娘がそこにいる…!やはり城内の差し金だったのか…!」
盗賊たちはロゼを見て急に慌てだした。事件の始終を知る人物が出てくるとは思ってもいなかったのだろう。その様は滑稽だった。
「証人がもう一人。被害を受けた娘です。この者が語ることが事の全てです。ロゼ、言ってやれ」
ロゼはアルを見つめて頷くと、その口を開いた。
「私はこの罪人たちに両親を殺されました。まずは客人だと思って戸を開けたお父さんが、次に私を守る為飛び込んでいったお母さんが刃物で殺害されました。そして私は攫われ、アル王子たちが助けてくださった後、私は家へ戻りました。するとそこは焼け野原になっていて、私の家はありませんでした。それはここにいるアル王子も目撃しています。私の家があるのは森の中。人の行き来もほとんどなく、罪人が犯した他の罪からも、これが罪人たちの仕業だと考えることができると思います。私からは以上です」
ロゼは出来事のすべてを話した。思い出すのは辛かったが、それがこの盗賊たちの罪を肯定できるものになるならと、その思いだけだった。
「では、罪人の先ほどの発言は嘘であったと仮定する。罪人、言うことは」
「…くそ…なんで本人がいるんだよ」
「無いようなので、罪状の中で最も重い殺人罪をもち、処罰は終身刑とする」
大臣がそう告げ、会議は幕を閉じた。
盗賊たちは鎖で繋がれ、衛兵たちに連れられ部屋を出て行った。
「アル、ちょっと行ってくる」
「え?ロゼ、どこ行くんだよ!」
ロゼは駆け足でその盗賊たちを追った。そして衛兵を止めると、ロゼは盗賊たちに言い放った。
「今回の罪、一生背負って生きてください。そして毎日私のお父さんとお母さんにお祈りをしてください。それほどの罪をあなたたちは犯したんですから」
ロゼはそう言うと、盗賊たちに背を向けて走り出した。
「ロゼ!」
アルはそのロゼの後を追い、走り出していた。
「ロゼさん!そこのスープの中にこの野菜入れてください!」
「ロゼさん、その洗濯干し終わったら次これね」
「ロゼ!次は昼食の準備!」
家で家事を手伝っていたとはいえ、ここはお城。何もかもが勝手が違い、時間も決まっている。ロゼは他のメイドたちやメイド長に指示をもらい、必死に作業をこなしていた。
「ロゼ、お疲れ様。休憩入っていいわよ。賄いも出すからしっかり食べて次の仕事に取り組むのよ」
気がつけばすでに1時過ぎ。朝も早かったロゼのお腹はぺこぺこだった。
「ありがとうございます、メイド長」
ロゼは仕事場を離れると、今日教えてもらった休憩室に足を運んだ。
「はぁ…、お城の仕事ってこんなに忙しいんだ…」
ロゼは息を吐くとそっとテーブルの席に座った。朝から立ちっぱなしで、慣れない足は筋肉痛の一歩手前まできている。
「ロゼさん、これ今日の賄いです」
同じメイドが持ってきてくれた賄いを受け取り、ロゼは朝食をとることにした。今日のメニューは野菜スープに白パン、お肉の炒め物。賄いといえど、中身は王族に出しているのとさして変わらなかった。
「いただきます!」
ロゼは手を合わせそう呟いた。そしてパンをちぎって口に入れようとした時、その手が背後から引っ張られた。
「ん。この白パンうまいよな」
「あ、アル…!?」
背後に立っていたのはあろうことかこの国の第一王子アルだった。しかもその口には今しがたロゼがちぎった白パンが入っている。
「ななななにしてるの?!」
「なにって、ロゼを呼びに来たんだよ」
「じゃなくて!私の白パン!」
「いいじゃんか。毒見だよ、毒見」
アルはそう言ってロゼの横に腰掛けた。ロゼはスープを口に運びながら「何か用事?」と尋ねた。
「いいよ、食べ終わってからで。結構真剣な話だからさ」
アルはそう言ってロゼを見つめた。ロゼとしてはなにやら恥ずかしい気持ちで昼食を食べ進める羽目になった。
「ごちそうさまでした。で、話って何?」
ロゼは昼食を食べ終えると、ずっと横で待っていたアルに声をかけた。
「実は今から例の盗賊たちの刑を決める会議があるんだ。会議って言っても盗賊たちの弁解を聞いて、刑の最終決定を行うものなんだけどね。そこにロゼも同行してもらいたい。メイド長にはもう許可取ってあるから、次の仕事は休んでいいよ」
ロゼは盗賊たちと聞いて一瞬で嫌な記憶が蘇る。できればもう顔を合わせたくないほどだ。しかしロゼは頷いた。
「わかった。同行する」
アルはその返事を聞くと、ロゼを連れ、休憩室を後にした。
****************
「これより、罪人の刑最終決定を行う」
大臣の一声で会議は幕を開けた。しかし盗賊たちと向き合うように配置された席の中にロゼはいなかった。ロゼは一人、カーテンで仕切られた小さな個室に座らされていた。
「ロゼがいない状況下で、盗賊たちが何を述べるか聞いててほしい」
アルがそう言って準備した個室だった。ロゼにはアルの考えることがよくわからなかったが、とりあえず言葉に従っておくことにした。
「では罪人の犯した罪を述べる。まず無許可出港、闇取引、人身売買未遂。以上、他何か犯した罪は?罪人答えよ」
しばらく間があった後、盗賊たちはこう答えた。
「いえ、他に犯した罪はありません…!俺たちのやったことはその全てで間違いないです!」
ロゼはその答えを聞いてはらわたが煮えくり返りそうになった。他に犯した罪はない?何を言っているのだ。両親を殺して、家まで燃やしたくせに…!盗賊たちの性根の悪さが際立った。しかし全ての真実を知っているアルは黙っている。ロゼは怒りで震える手を握りしめ、会議の進行を待った。
「では証人、他に述べることは」
「はい。証人、第一王子のアルです。罪人は今それ以外に犯した罪はないとおっしゃいました。しかしそれは事実ではないと定義します」
「では証人の定義を聞きましょう。どうぞ」
「はい。罪人の罪はもう二つあります。それは殺人と放火です」
そのアルの発言に盗賊たちは抗議した。
「はっ?証拠でもあるのかよ?俺たちはそんなことしてないぜ。青髪の女を攫っただけだ」
どうやら盗賊たちは罪が軽くなるよう、会議を進めるつもりのようだった。
「証拠ならございます」
そう告げられた後、アルの足音が個室へ近づいてきた。そして隔てられていたカーテンが上げられる。
「ロゼ、こっちへ」
ロゼはアルに連れられ、盗賊たちと向かい合う位置に立った。
「な、なんでその娘がそこにいる…!やはり城内の差し金だったのか…!」
盗賊たちはロゼを見て急に慌てだした。事件の始終を知る人物が出てくるとは思ってもいなかったのだろう。その様は滑稽だった。
「証人がもう一人。被害を受けた娘です。この者が語ることが事の全てです。ロゼ、言ってやれ」
ロゼはアルを見つめて頷くと、その口を開いた。
「私はこの罪人たちに両親を殺されました。まずは客人だと思って戸を開けたお父さんが、次に私を守る為飛び込んでいったお母さんが刃物で殺害されました。そして私は攫われ、アル王子たちが助けてくださった後、私は家へ戻りました。するとそこは焼け野原になっていて、私の家はありませんでした。それはここにいるアル王子も目撃しています。私の家があるのは森の中。人の行き来もほとんどなく、罪人が犯した他の罪からも、これが罪人たちの仕業だと考えることができると思います。私からは以上です」
ロゼは出来事のすべてを話した。思い出すのは辛かったが、それがこの盗賊たちの罪を肯定できるものになるならと、その思いだけだった。
「では、罪人の先ほどの発言は嘘であったと仮定する。罪人、言うことは」
「…くそ…なんで本人がいるんだよ」
「無いようなので、罪状の中で最も重い殺人罪をもち、処罰は終身刑とする」
大臣がそう告げ、会議は幕を閉じた。
盗賊たちは鎖で繋がれ、衛兵たちに連れられ部屋を出て行った。
「アル、ちょっと行ってくる」
「え?ロゼ、どこ行くんだよ!」
ロゼは駆け足でその盗賊たちを追った。そして衛兵を止めると、ロゼは盗賊たちに言い放った。
「今回の罪、一生背負って生きてください。そして毎日私のお父さんとお母さんにお祈りをしてください。それほどの罪をあなたたちは犯したんですから」
ロゼはそう言うと、盗賊たちに背を向けて走り出した。
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