青の王国

ウツ。

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第2章 メイドとして

聞きたいこと

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「ロゼ!」
ロゼは駆け出した後、気づけば中庭に来ていた。どこをどう走ったのかはよく覚えていない。そのロゼを追ってアルも中庭に顔を出した。
「ロゼ、どうしたんだよ…ロゼ?」
ロゼの肩は震えていた。
「アル、あんなの酷い…」
「ごめん…」
アルは泣いているロゼに寄り添った。
ロゼはすでにわかっていた。あの会議の進め方の意味を。
あれは罪人の性根を暴いて、その性悪さを罪として上乗せして刑を最終決定するものだ。

それに私は利用された…。

ロゼの脳裏にシャルロットの言葉が蘇る。

所詮飾り物ね。

アルに利用された事実がロゼの心を締め付けていた。
「アル、もし…私の髪や瞳が珍しいものじゃなかったら、私はここにいなかったのかな…。私が火事で両親を亡くした人物じゃなかったら、必要とされなかったのかな…」
「そんなことない!」
アルはそう言ってロゼの肩を掴んで見つめた。
「今回は利用するような形になってしまって本当にすまなかった。だけど、俺はこのために、ロゼの髪や瞳の色を理由にここに置いたことはない」
アルの真剣な表情に、ロゼはくすっと笑った。
「そっか。ならいいんだ」
そしてこう続けた。
「私もアルが王子だからっていう理由でここに来たんじゃないよ。たとえアルがただの私と同じ街人だったとしても、私はそこにいたいって願ったと思う」
「え…?それってどういう…」

「アル、何女の子に掴みかかってるのよ」

突如響いた聞きなれた声に、アルはバッとその手を離した。
「い、イザベラ…」
「ロゼ、大丈夫?アルと喧嘩でもした?」
イザベラはロゼに駆け寄るとそう尋ねた。
「あ、いえ。喧嘩ではないので大丈夫です」
ロゼは一瞬キョトンとした後、イザベラを見て、その問いが冗談であることを理解した。イザベラはアルをからかっているのだ。
「あー…でも掴みかかられたのは少しびっくりしました」
ロゼはその冗談に乗っかることにした。
「え?いや!ごめんって!悪かったよ!」
慌てるアルを見て、ロゼとイザベラは顔を見合わせて笑った。
その時、もう一人の側近が顔を覗かせた。
「アル様、ここにいらしたのですか。今日の会議の報告書をまとめるようにと大臣が…」
「そういうのは大臣がやればいいのになー…」
アルはエドが持っていた書類の束を受け取った。
「文句を言わないでください、時期国王となるお方が…」
「そういう堅苦しいこと言うなよ」
アルは呆れたようにエドに微笑んだ。そこでロゼはあることに気づく。
「そういえば私まだ国王様に会ったことない」
そう、ロゼはこの城へ上がってから、一度も国王の姿を見ていないのだ。朝食、昼食を運んだ時も、国王の席は空席になっていた。
「ああ、父上のことか」
アルは真剣そうな表情に戻ると、国王について話した。
「父上は今闘病中なんだ。治るかどうかはっきりしない病で、最近は寝たきりになってる。王室も出入りが許されてるのは医者と担当薬剤師のみで、今国は実質大臣が治めている状態だ」
「そうだったんだ…」
あまりに深刻な話に、ロゼはそう呟くことしかできなかった。
「俺が早く父上に変わってあげれればいいんだが、まだまだ勉強が足りないって大臣に言われちゃってさ。それに王位が継げるのは今の国王の席が空いた時だけ。今は大臣が国王の代理さ」
「アルはすごく頑張ってるように見えるけどね…。国を治めるって想像できないくらい大変なことなんだろうな…」
ロゼはそっと空を見つめた。綺麗な夕焼け空が果てしなく広がっている。
きっとアルが向かう未来はこの空と同じくらい果てしないものなんだろうと。そう思いながら。



   ****************



「ロゼもそろそろ仕事に戻らなきゃいけないんじゃないのか?」
「は!そうだった!つい話し込んじゃった!メイド長に怒られるー!」
ロゼはそそくさとアルたちに背を向け走り出した。
「ロゼ!」
「ん?」
アルの呼びかけに、ロゼは進めていた足を止め振り返った。
「言いそびれたけど、メイド服、よく似合ってるぞ」
「あ、ああありがとう…」
ロゼは予想だにしなかった言葉に顔を赤くしながら、それを隠すように城内へ戻っていった。

「全く…何を言うのかと思えば…」
イザベラははぁっとため息をついた。
「え?俺何かまずいこと言ったか?エド、俺何かおかしなこと言った?!」
「い、いえ…私にはわかりかねます…」
「女心をわかってない主人を持つと大変だわ」
「ええ?!イザベラ、わかるように説明してくれよ…!」
「いつかわかるようになればいいわね」
イザベラはそう言ってアルたちに背を向け、先に城内へと戻っていった。残されたアルとエドは顔を見合わせ「よくわからないな」と呟いてそのあとを追った。
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