ざまぁされた小悪党の俺が、主人公様と過ごす溺愛スローライフ!?

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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 ……僕はかつて、小さな農村に住んでいた。なんの変哲もない、どこにでもあるような村だった。けれどそこに、魔物の群れが襲いかかってきて――魔物に殺される寸前だった僕を、助けてくれたのが、セインだったんだ。

『巻き込まれたくなければ下がっていろ!!』

 そう言って魔物を斬りたおしまくる君に、僕は憧れ、恋に落ちた。あんなに強くてカッコよくて、綺麗な人がいるんだって……いつか自分も冒険者になって、セインの仲間にしてほしいって思うようになったんだ。


 そして数年後、念願叶って冒険者になった僕は、君のパーティーに入れてほしいって志願した。君は難色を示したけれど、仲間の一人だったマジカに説得されて、渋々、僕を荷物持ちとして仲間に加えてくれたんだ。

「……は? ま、待てよ……、マジカはおまえのパーティーメンバーだっただろ? それに、おまえが荷物持ちって……」
「……はは。思ったより早く、核心に突っ込まれちゃったね……。……ねえ、セインは、僕が人生をやり直してるって言ったら信じるかい?」

 荒唐無稽なことを言っている自覚はあった。何を馬鹿な、と笑われるかもしれないと。
 けれどセージは、ハッとした様子で僕を見る。

「……タイムリープ? 時間遡行? ……いわゆる、強くてニューゲーム、ってヤツなのか」
「…………すごいや。セージは、そんなことにも詳しいんだね」
 さすがセージ、なんでも知ってるんだね!! もしかして、君の生まれた世界だとよくあることなの? ……あ、うん、ごめん。話を続けるね。

 ……セインのパーティーメンバーになって、僕は、君がただ強くてカッコいいだけの人じゃないことを知った。皆の前では英雄として立派に振る舞っているけど、本当は、普通の男の子なんだなって……、その、たまたま、君が一人で弱音を吐いているところを見てしまって。
 でも、そうやって無理してでも立派に振る舞おうとするところが、常に理想的な自分でいようとする努力家なところが、ますます好きになったんだ。

 セインは、実力不足な僕のことを足手まといに思ってるみたいだった。皆の前でははっきり言えなかったみたいだけど……多分、君に過度な期待を向ける僕が、煩わしかったんだと思う。
 あるとき、僕は君にパーティー追放を言い渡されて……そのまま、君とは疎遠になってしまった。

「いやそれッ! その時の俺!! どう考えてもざまぁされる側じゃねえかよ……!」
「セージ? ど、どうしたの……?」
「……な、なんでもねえ。続けろ」

 追放後、僕は自分の実力に見合った、新しいパーティーメンバーに恵まれて、細々と冒険者をやっていた。
 セインに追放されたのも納得だったよ、僕は実際パーティーのお荷物で、お客様でしかなかったんだから。
 新しい仲間たちとゆっくり成長して、いずれ、セインに追いつけたらいい……。そう思い始めた頃だった。

 魔王に挑んだセインたちのパーティーが全滅して、死亡したのだというニュースを聞いたのは。

「……え、」
「僕は……、セインが死んだなんて信じられなくて。やけになって、冒険者も辞めて、酒に溺れて暮らしてた。……そんなときに現れたのが、あの邪神……君を転生させた神だったんだ」

 あるとき、僕は噂を聞いた。『どんな願いをも叶える秘術がある』と。失われた遺跡を巡り、宝玉を集めて、秘密を知る黒魔術師に特別な魔法陣を描いてもらうと――神が現れる、って。
 僕はその噂にすがった。ボロボロになりながら宝玉を集めて、黒魔術師に依頼して……とうとう、神を召喚した。
 僕の前に現れた神は、願いを聞きもせず、こう言ったんだ。『貴様に、全てをやり直す機会を与えよう』と。

 ……思えばそれは、アイツの罠だった。アイツはただ、僕が何度も何度もやり直して絶望するさまをみて嘲笑いたいだけだったんだ。
 けれど何も知らない僕は、アイツに縋って、そして――記憶と強さを引き継いだ状態で、二度目の人生を始めることになった。


 二度目の僕は、追放されそうになっても粘って、君のパーティーに残り続けた。魔王との戦いで力になれるとは思わなかったけど、君を逃がすくらいの時間は稼げるかも、って思って。
 でも……僕の目の前で、君は死んだ。足手まといの僕を庇う形で。

 魔王の攻撃がセインを襲った。僕は肉盾になるつもりで、君と攻撃の間に割って入ったんだ。だけど……君は、そんな僕を突き飛ばして。『雑魚のくせにカッコつけてんじゃねえ』って、本当は怖かっただろうに、無理矢理笑って……。
 ……そして、君は死んだ。

「…………そ、それ、ほんとに俺か……? 他のヤツじゃなくて……?」
「ふふっ……。間違いなく君だったよ。君はいつもそうだった……僕のことを邪険にしてたって、いざ、目の前で僕がピンチになると庇ってくれるような。そういう、優しい人だった」
「そ、そりゃ……あれだ、フツーだろ!? い、いくらなんでも、顔見知りが目の前で死にかけるとか気まずいって……」
「やっぱり、君は優しいなあ……」
「う、うるせー!! いいから続き、聞かせろよ!!」
「ああ、ごめん! そうだよね、ええと……」

 セインが目の前で死んで、僕はやり直すことにした。
 今度はセインを守れるまで強くなろうとした。そのためには、たった一度の人生だけじゃ足りなくて……、僕は何度も何度も、セインを見捨ててやり直しを繰り返した。
 そうして、魔王を倒せるくらい強くなって、セインの仲間として魔王を倒して――そしたら今度は、魔王を倒した僕たちは、化け物扱いされて迫害されるようになったんだ。

「そ、そんな……!? なんで……」
「……魔王を倒せるなんて、普通の人からしたら化け物だもの。その力が自分たちに向くかも、って思ったら怖かったんじゃない?」
「ひでぇよ……、だって、おまえはそのために何度も何度もやり直して、努力して……」
「……ありがとう、セージ」

 魔王にトドメを刺したのは僕だったんだけど、セインは、それをパーティー全員の功績ってことにしてたのが仇になった。僕たちは揃って追われる身になった。
 最初は、パーティー揃って逃げていたんだけど、それだと追手を振り切れなくて……僕たちは散り散りになって。
 そして、王都でセインが捕まり、処刑された。

「ッ……!」
「なんだったかな……、国家反逆罪? そういう言いがかりをつけられて。すぐに助けに行ったけど、そのときにはもう、手遅れで……」
「…………」

 ……セージが言葉を失っている。
 そうだよね、別の時空のことだとしても、自分が死ぬ話なんて聞きたくないよね。ああ、もう少し言い方とか気をつければ良かったかなぁ……。

「……ごめんな」
「へ?」
「そ、その……前の人生のときの俺が、もっと、強かったら。おまえにそんな思いさせずにすんだのに」
「せ、セージが謝ることじゃないよ!? ……いつだって、君は強くてカッコよかったし……!」
「けど……!」
「今はただ、セージが、君が隣にいてくれて、僕の話を聞いてくれるだけで十分だから」
「……うん」

 こくりと頷くセージに、胸の奥が熱くなる。……なんとしてでも、今の幸せを守らなくちゃな、と強く思った。


「……で、話を戻すけど」

 またもセインを失った僕は、今度は、君と深く関わらなければいいのでは、と思いついた。

 君とは別のパーティーを組んで、冒険者として名を上げて……、だいたい今の人生と同じかな?
 僕らはライバルとして、他の冒険者にすら周知される関係にあった。
 魔王はいつでも倒せるけど、おおっぴらに倒すと面倒ごとになるから、こう……多数の冒険者で一網打尽、みたいな展開にできないかな、って考えてたんだ。

 自然な魔王討伐を演出するために、僕は、周囲とのコネ作りに忙しかった。セインと関わったら、また、僕のせいでセインが死んじゃうかもって思うと、遠巻きに見ていることしかできなかった。
 ……そうこうしているうちに、誰かが……多分、セインをよく思ってなかった冒険者グループが……君を罠にかけて。君は、冤罪をでっち上げられて、犯罪奴隷に堕とされることになった。

「……冤罪、なのか? 俺と違って?」
「今回の君のヤツだって、僕からしたらほとんど冤罪だよ……。だってセージ、最初っから僕を殺すつもりじゃなかっただろ?」
 そもそもセージが僕と暮らすことになった原因、犯罪奴隷に堕とされたきっかけの事件は、おそらく仕組まれたものだった。
 セージも薄々気づいているらしく、気まずそうに視線をそらす。

「う……。ま、まあ……な……。……軽い嫌がらせの依頼をしたんだよ、最初は。なんかだんだん話がデカくなって、おまえを殺さないと、俺の立場が無くなるとか脅されて……。……そんな気がしてきて、いつのまにか、」
「……それ、洗脳魔法使われてない……? ちゃんと調べたら、逆転無罪もいけるかも」
「い、いまはこの話はいいだろ。……それより、前の俺はどうなったんだ」
 セージに急かされ、僕は、続きを語る。


 ……君が奴隷に堕とされてすぐ、僕は、君を助けに行った。ただし、今回みたいに追放されてからじゃなくて、まだ留置場にいる段階で。
 君を――僕の専属奴隷として、買い取ったんだ。

「専属奴隷……、って、要するに、おまえの持ち物になるって契約だよな」
「……そう。普通の犯罪奴隷は主を持たない。だから、主が見つかるまでは、誰からでも最底辺の扱いを受けてしまう。……けど、きちんとした主がいれば、その人の所有物扱いになるから。他の誰かがセインをいじめることはなくなるはず、って……そう思って……」

 ……でも、そうはならなかった。
 ああ違うんだ、ちゃんと、他のヤツからセインを守ることはできたんだよ? ……でも僕は、奴隷と主の関係をさっぱり理解していなかった。ライバルとして意識してきた相手の奴隷になるって……セインがどんな気持ちだったか、考えもしなかった。

「……その人生の、『前回』のセインはね、僕が……僕の手で殺してしまったんだ」
「ッ……!?」
「もしかしたら……セージにとっては嫌な話かもしれないけど……続き、聞いてくれるかい?」

 ああ、セージはいま、どんな気持ちでいるんだろう。嫌われるかも。見放されるかも。
 怖くて怖くて仕方ないけど、でも……これからも彼とともに生きるなら、隠すわけにもいかないのはわかってた。

 セージが、神妙な顔をしてこくりと頷くのを見て、僕は続きを語りだす――。

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