15 / 170
第二章 | 江戸のストーカー、麦をくれる
江戸のストーカー、麦をくれる 其ノ玖
しおりを挟む
麦芽つくりは、まず麦を洗うところから始まる。
店に帰ると、なおは早速大麦をざるに開けた。ざざっという小気味のいい音と共につやつやとした大麦が現れる。
「まずはこのくらいで実験かな」
いきなり全量使って失敗しました、といったのでは元も子もない。
なおはざるに小さな山ができたくらいで、藁袋を持ち上げた。
この気温であれば3~4日もあれば発芽するだろから、その結果をみて本格的に麦芽の仕込みを行うつもりだった。
なおはゴミなどがはっていないか、大麦をざるに少しずつ広げていった。
麦はさらさらとしており、手を入れるとひんやりとしていて心地がいい。
薄茶色の殻に包まれた大麦は、小さいながらもぽってりと存在感があって、先ほど飲んだ麦湯の香りが漂ってくるようだった。
「それにしても、やっぱりちょっと小さい気がするんだよなあ」
なおは麦を一粒持ち上げると、日にかざした。
普段から見ているのは麦芽になった大麦だから一概に比較するのは違う気もするが、それでも形が違う気がするのだ。
いつも見ている麦は、もう少し細長いような気がする。
「ちょっと食べてみるか」
なおは麦を2~3粒口の中に放り込んだ。
ガリガリとかみ砕くと、少しえぐみはあるものの、柔らかな香ばしさが口の中に広がる。
そしてしばらく噛み続けることで現れるほのかな甘み。
「あまみはしっかりあるけど、少し弱いというか、すっきり気味すぎるか……??」
舌で麦の情報を少しでも舐めとろうとしていると、つるが笠を持って現れた。
「ずっと外で作業していたら暑いでしょ。これよかったら被って」
そうって笠をなおに渡してくれる。
藁で編んであるであろうそれは、頭に乗せるとしっかりと日差しを遮ってくれた。
「リアル笠!よく時代劇とかで見るやつじゃん。実際被ってみるとかなり涼しいのな。ありがと」
お礼を言うと、つるは「別に」といった風に肩をすくめ、なおの側にしゃがんだ。
「それで?さっきから変な顔して口動かしてたけど何してんの?」
「ああ。なんかこの麦、俺が知ってるものと少し違う気がしてさ。味はどんなもんなんだろうって確認してたとこ」
「で、どうだったの?」
つるが真剣な顔でなおを覗き込む。
「んーなんとなくだけど、あまみの質?みたいなもんが少し違う気がすんだよな。
でもビール造るときに麦芽の味を確認してたわけじゃないし、自信はない」
「ふうん」
そういうとつるは麦をつまみ、やにわに前歯で噛んだ。
「……うん。麦だね。麦だ」
それ以上の感想が出てこないのだろう。黙ってもぐもぐと口を動かしている。それを見て、なおはあははと笑った。
「麦だよな!ま、なんにせよやってみないことにはわかんないか」
なおは麦をざるごとたらいの中に移した。
たっぷりとした水に麦はゆっくりと沈んでいく。
「水に漬けるんだ」
麦の様子を興味深そうに見ながらつるがいう。
「そうそう。まずはこのまま2日間くらい水漬け。水を1日3回くらい変えて、酸素いれてあげながら置いておいておく」
「へえ」
そういうとつるは立ち上がり、なおを見下ろしながら言った。
「せいぜい酔っぱらって水替え忘れないようにしてよね。
ま……もしもの時はわたしも手伝ってあげてもいいけど」
相変わらず睨みつけるような顔をしているものの、その目の奥はだいぶ柔らかく見える。
(キツイように見えて、なんだかんだで優しいんだよな)
でも口に出すと怒られそうだったので、なおは「よろしく頼むわ」と笑いながら言った。
店に帰ると、なおは早速大麦をざるに開けた。ざざっという小気味のいい音と共につやつやとした大麦が現れる。
「まずはこのくらいで実験かな」
いきなり全量使って失敗しました、といったのでは元も子もない。
なおはざるに小さな山ができたくらいで、藁袋を持ち上げた。
この気温であれば3~4日もあれば発芽するだろから、その結果をみて本格的に麦芽の仕込みを行うつもりだった。
なおはゴミなどがはっていないか、大麦をざるに少しずつ広げていった。
麦はさらさらとしており、手を入れるとひんやりとしていて心地がいい。
薄茶色の殻に包まれた大麦は、小さいながらもぽってりと存在感があって、先ほど飲んだ麦湯の香りが漂ってくるようだった。
「それにしても、やっぱりちょっと小さい気がするんだよなあ」
なおは麦を一粒持ち上げると、日にかざした。
普段から見ているのは麦芽になった大麦だから一概に比較するのは違う気もするが、それでも形が違う気がするのだ。
いつも見ている麦は、もう少し細長いような気がする。
「ちょっと食べてみるか」
なおは麦を2~3粒口の中に放り込んだ。
ガリガリとかみ砕くと、少しえぐみはあるものの、柔らかな香ばしさが口の中に広がる。
そしてしばらく噛み続けることで現れるほのかな甘み。
「あまみはしっかりあるけど、少し弱いというか、すっきり気味すぎるか……??」
舌で麦の情報を少しでも舐めとろうとしていると、つるが笠を持って現れた。
「ずっと外で作業していたら暑いでしょ。これよかったら被って」
そうって笠をなおに渡してくれる。
藁で編んであるであろうそれは、頭に乗せるとしっかりと日差しを遮ってくれた。
「リアル笠!よく時代劇とかで見るやつじゃん。実際被ってみるとかなり涼しいのな。ありがと」
お礼を言うと、つるは「別に」といった風に肩をすくめ、なおの側にしゃがんだ。
「それで?さっきから変な顔して口動かしてたけど何してんの?」
「ああ。なんかこの麦、俺が知ってるものと少し違う気がしてさ。味はどんなもんなんだろうって確認してたとこ」
「で、どうだったの?」
つるが真剣な顔でなおを覗き込む。
「んーなんとなくだけど、あまみの質?みたいなもんが少し違う気がすんだよな。
でもビール造るときに麦芽の味を確認してたわけじゃないし、自信はない」
「ふうん」
そういうとつるは麦をつまみ、やにわに前歯で噛んだ。
「……うん。麦だね。麦だ」
それ以上の感想が出てこないのだろう。黙ってもぐもぐと口を動かしている。それを見て、なおはあははと笑った。
「麦だよな!ま、なんにせよやってみないことにはわかんないか」
なおは麦をざるごとたらいの中に移した。
たっぷりとした水に麦はゆっくりと沈んでいく。
「水に漬けるんだ」
麦の様子を興味深そうに見ながらつるがいう。
「そうそう。まずはこのまま2日間くらい水漬け。水を1日3回くらい変えて、酸素いれてあげながら置いておいておく」
「へえ」
そういうとつるは立ち上がり、なおを見下ろしながら言った。
「せいぜい酔っぱらって水替え忘れないようにしてよね。
ま……もしもの時はわたしも手伝ってあげてもいいけど」
相変わらず睨みつけるような顔をしているものの、その目の奥はだいぶ柔らかく見える。
(キツイように見えて、なんだかんだで優しいんだよな)
でも口に出すと怒られそうだったので、なおは「よろしく頼むわ」と笑いながら言った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
