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第二章 | 江戸のストーカー、麦をくれる
江戸のストーカー、麦をくれる 其ノ玖
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麦芽つくりは、まず麦を洗うところから始まる。
店に帰ると、なおは早速大麦をざるに開けた。ざざっという小気味のいい音と共につやつやとした大麦が現れる。
「まずはこのくらいで実験かな」
いきなり全量使って失敗しました、といったのでは元も子もない。
なおはざるに小さな山ができたくらいで、藁袋を持ち上げた。
この気温であれば3~4日もあれば発芽するだろから、その結果をみて本格的に麦芽の仕込みを行うつもりだった。
なおはゴミなどがはっていないか、大麦をざるに少しずつ広げていった。
麦はさらさらとしており、手を入れるとひんやりとしていて心地がいい。
薄茶色の殻に包まれた大麦は、小さいながらもぽってりと存在感があって、先ほど飲んだ麦湯の香りが漂ってくるようだった。
「それにしても、やっぱりちょっと小さい気がするんだよなあ」
なおは麦を一粒持ち上げると、日にかざした。
普段から見ているのは麦芽になった大麦だから一概に比較するのは違う気もするが、それでも形が違う気がするのだ。
いつも見ている麦は、もう少し細長いような気がする。
「ちょっと食べてみるか」
なおは麦を2~3粒口の中に放り込んだ。
ガリガリとかみ砕くと、少しえぐみはあるものの、柔らかな香ばしさが口の中に広がる。
そしてしばらく噛み続けることで現れるほのかな甘み。
「あまみはしっかりあるけど、少し弱いというか、すっきり気味すぎるか……??」
舌で麦の情報を少しでも舐めとろうとしていると、つるが笠を持って現れた。
「ずっと外で作業していたら暑いでしょ。これよかったら被って」
そうって笠をなおに渡してくれる。
藁で編んであるであろうそれは、頭に乗せるとしっかりと日差しを遮ってくれた。
「リアル笠!よく時代劇とかで見るやつじゃん。実際被ってみるとかなり涼しいのな。ありがと」
お礼を言うと、つるは「別に」といった風に肩をすくめ、なおの側にしゃがんだ。
「それで?さっきから変な顔して口動かしてたけど何してんの?」
「ああ。なんかこの麦、俺が知ってるものと少し違う気がしてさ。味はどんなもんなんだろうって確認してたとこ」
「で、どうだったの?」
つるが真剣な顔でなおを覗き込む。
「んーなんとなくだけど、あまみの質?みたいなもんが少し違う気がすんだよな。
でもビール造るときに麦芽の味を確認してたわけじゃないし、自信はない」
「ふうん」
そういうとつるは麦をつまみ、やにわに前歯で噛んだ。
「……うん。麦だね。麦だ」
それ以上の感想が出てこないのだろう。黙ってもぐもぐと口を動かしている。それを見て、なおはあははと笑った。
「麦だよな!ま、なんにせよやってみないことにはわかんないか」
なおは麦をざるごとたらいの中に移した。
たっぷりとした水に麦はゆっくりと沈んでいく。
「水に漬けるんだ」
麦の様子を興味深そうに見ながらつるがいう。
「そうそう。まずはこのまま2日間くらい水漬け。水を1日3回くらい変えて、酸素いれてあげながら置いておいておく」
「へえ」
そういうとつるは立ち上がり、なおを見下ろしながら言った。
「せいぜい酔っぱらって水替え忘れないようにしてよね。
ま……もしもの時はわたしも手伝ってあげてもいいけど」
相変わらず睨みつけるような顔をしているものの、その目の奥はだいぶ柔らかく見える。
(キツイように見えて、なんだかんだで優しいんだよな)
でも口に出すと怒られそうだったので、なおは「よろしく頼むわ」と笑いながら言った。
店に帰ると、なおは早速大麦をざるに開けた。ざざっという小気味のいい音と共につやつやとした大麦が現れる。
「まずはこのくらいで実験かな」
いきなり全量使って失敗しました、といったのでは元も子もない。
なおはざるに小さな山ができたくらいで、藁袋を持ち上げた。
この気温であれば3~4日もあれば発芽するだろから、その結果をみて本格的に麦芽の仕込みを行うつもりだった。
なおはゴミなどがはっていないか、大麦をざるに少しずつ広げていった。
麦はさらさらとしており、手を入れるとひんやりとしていて心地がいい。
薄茶色の殻に包まれた大麦は、小さいながらもぽってりと存在感があって、先ほど飲んだ麦湯の香りが漂ってくるようだった。
「それにしても、やっぱりちょっと小さい気がするんだよなあ」
なおは麦を一粒持ち上げると、日にかざした。
普段から見ているのは麦芽になった大麦だから一概に比較するのは違う気もするが、それでも形が違う気がするのだ。
いつも見ている麦は、もう少し細長いような気がする。
「ちょっと食べてみるか」
なおは麦を2~3粒口の中に放り込んだ。
ガリガリとかみ砕くと、少しえぐみはあるものの、柔らかな香ばしさが口の中に広がる。
そしてしばらく噛み続けることで現れるほのかな甘み。
「あまみはしっかりあるけど、少し弱いというか、すっきり気味すぎるか……??」
舌で麦の情報を少しでも舐めとろうとしていると、つるが笠を持って現れた。
「ずっと外で作業していたら暑いでしょ。これよかったら被って」
そうって笠をなおに渡してくれる。
藁で編んであるであろうそれは、頭に乗せるとしっかりと日差しを遮ってくれた。
「リアル笠!よく時代劇とかで見るやつじゃん。実際被ってみるとかなり涼しいのな。ありがと」
お礼を言うと、つるは「別に」といった風に肩をすくめ、なおの側にしゃがんだ。
「それで?さっきから変な顔して口動かしてたけど何してんの?」
「ああ。なんかこの麦、俺が知ってるものと少し違う気がしてさ。味はどんなもんなんだろうって確認してたとこ」
「で、どうだったの?」
つるが真剣な顔でなおを覗き込む。
「んーなんとなくだけど、あまみの質?みたいなもんが少し違う気がすんだよな。
でもビール造るときに麦芽の味を確認してたわけじゃないし、自信はない」
「ふうん」
そういうとつるは麦をつまみ、やにわに前歯で噛んだ。
「……うん。麦だね。麦だ」
それ以上の感想が出てこないのだろう。黙ってもぐもぐと口を動かしている。それを見て、なおはあははと笑った。
「麦だよな!ま、なんにせよやってみないことにはわかんないか」
なおは麦をざるごとたらいの中に移した。
たっぷりとした水に麦はゆっくりと沈んでいく。
「水に漬けるんだ」
麦の様子を興味深そうに見ながらつるがいう。
「そうそう。まずはこのまま2日間くらい水漬け。水を1日3回くらい変えて、酸素いれてあげながら置いておいておく」
「へえ」
そういうとつるは立ち上がり、なおを見下ろしながら言った。
「せいぜい酔っぱらって水替え忘れないようにしてよね。
ま……もしもの時はわたしも手伝ってあげてもいいけど」
相変わらず睨みつけるような顔をしているものの、その目の奥はだいぶ柔らかく見える。
(キツイように見えて、なんだかんだで優しいんだよな)
でも口に出すと怒られそうだったので、なおは「よろしく頼むわ」と笑いながら言った。
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