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第六章 | クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花
クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花 其ノ拾
しおりを挟む運ばれてきたのは山盛りの白飯と鯛の塩焼き。そこに野菜を使った小鉢が数種類。
「これ、もてなされすぎじゃないか?」
高座に座る小西に聞こえないよう、直は喜兵寿にこそこそと耳打ちをする。
「ホップくれて、こんなに豪華な昼飯まで出してくれてさ。実は後でめっちゃ金とか請求されんじゃね?喜兵寿、金持ってるか?」
「確かに怪しいな……ちなみに金はそんなにない」
「だよな……なあ、臓器とか差し出せとか言われたらどうするよ?おいしい話ほど怖いもんはないって」
小西は昨日会ったばかりの人物。いくら今まで他の人にふるまう機会に恵まれなかったとはいえ、造った酒をうまいと言っただけでここまでしてくれるのは不気味だった。小西はと言えば、表情のわからない顔で黙々と食事をしている。
「ホップだけ持ってさっさと帰ろうぜ」
直と喜兵寿が小声で話していると、盆に乗ったたくさんの徳利が運ばれてきた。燗酒なのだろう。部屋の中にふわりといい香りが広がる。
「一昨年に造った酒だ。寝かした分まろやかさが増している」
酒が出てきた瞬間、二人は同時に喉をごくりと鳴らした。飲んだことがない酒にあがらえないのは酒飲みの悲しい性だ。ふたりは「いただきます」と箸を取った。
鯛の塩焼きは塩加減が絶妙で、歯ごたえがありつつも口の中でほろほろと崩れる。それを米と合わせれば箸を動かす手が止められなかったし、酒と合わせればお猪口に注ぐ手を止められなかった。
「明石の鯛だ。この時期に捕れるものは脂がのっていて最高にうまい」
小西は「うまい、うまい」と言って食べる2人の姿を見て、にっこりと笑った。
普段はクールな(クールという表現がいいのか、仏頂面という表現が正しいのかはわからないが)小西が笑うと、こちらまでも嬉しくなる。直は白米を酒でごくりと飲み込むと言った。
「にっしーはさ、昨日あったばかりの俺らになんでこんなに親切にしてくれんの?『人を見る目がある』って言ってたけど、俺らがいい人のふりしてるだけかもしんないじゃん」
(こいつはまた、直球で聞いたな……!)
喜兵寿はどぎまぎしつつも、黙って小西の顔を見る。
小西はしばらく何かを考えこんでいたが、小さな声で「……みえるんだよ」と言った。
「??」
みえる、とは何のことだろうか?喜兵寿と直が首をひねっていると、小西は「ああ!もう!頭がおかしいと思われるから言いたくなかったんだが!」と大きくため息をつき言った。
「酒を飲んでいる人を見ると、その後ろになんだかわからないが、塊のような、影のようなものがみえる。それは相手の心根が正直であれば桃色だったり、黄色にみえるんだが、相手に後ろ暗いところがあればどす黒く濁る」
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