タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~

ルッぱらかなえ

文字の大きさ
111 / 170
第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する

老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ弐拾参

しおりを挟む

幸民の家に戻ると、「きっちゃん!おかえり!」と真っ先に夏が駆け寄ってきた。

「においが近づいてきていたから、そろそろかなと思ってた!体調わるい?大丈夫?」

そういってぎゅうっと着物の裾を掴む。

「突然申し訳なかったな。なんの問題もない。そちらは……」

「おおおお!おいおいおいおい!鮨じゃん!なんで鮨食ってんの?」

喜兵寿の言葉をさえぎるように、直が大声で叫ぶ。見れば膳の上に色とりどりの寿司が並んでいた。

「松の鮨とは馴染みでな。屋台を横付けして握ってもらった。つるがいる手前、おいそれとは食べに行けないからな」

幸民がお猪口を傾けながら、にやりと笑う。

「まじかよ!師匠すげえな!鮨屋呼ぶとか富豪じゃん」

「鮨屋なんてこんな庶民の食べ物、大したことはない。まあ、松の鮨は鮨屋の中でも別格だから、家に呼べるやつは他にいないと思うがな」

「ほうほう!さすが師匠!ありがとう!」

直はドヤ顔の幸民の横に座ると、「いっただっきまーす!」と勢いよく食べ始めた。

「うおおおお。ひさしぶりに食う鮨はやっぱうめえなあ!鮪に穴子、これは小肌か?いいね。うまいね。それにしても、ちょっとでかくないか?」

ずっしりと重さのある鮨は、握り飯くらいの大きさがある。いろいろなネタを食べたいのに、これじゃあすぐに腹いっぱいになってしまいそうだ。

「なにいってんだ。昔から鮨はこの大きさだろ。仕事帰りに、ちょちょっと腹を満たして帰る。これが鮨の楽しみ方」

喜兵寿の言葉に、直は「まじか……」と呟いた。そんな牛丼かき込んで帰る、みたいな気軽さで鮨を食べるなんて聞いたこともない。直がびっくりしていると、家の外から「小西さま~、小西さまはいらっしゃいますか~?」と声がした。

「お、頼んでいたものが届いたようだ」

何事かと皆が外の様子をうかがっていると、小西はたくさんの日本酒、そして膳を抱えて戻ってきた。

「下の町では深川八幡前の『伊勢屋』がうまいと聞いておったからな。一度口にしてみたくて頼んでみた。ついでに浮世小路の『百川』の料理も頼んでおいたから、もう間もなく届くだろう」

涼しい顔で料理を並べる小西をみて、喜兵寿は思わず叫んだ。

「伊勢屋に百川って……下の町の高級料亭じゃないですか!」

「ああ、そうなのか?」

「そうですよ!あの店が家まで料理を届けてくれるなんて話、聞いたことありませんよ」

喜兵寿が震えながら言うも、小西は「ならよかった」と薄く笑っただけだった。

「昔馴染みが下の町にいてね。うまい店があるというからお願いしてみたんだ。つるはずっと家にいるのだろう?たまにはうまいものでも食って、息抜きしてほしくてね」

その言葉を聞いた幸民は「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」と、噛みつかんばかりの形相で小西を睨みつけた。

「別につるは息など詰まっておらんわ!」

「そうなのか?ならよかった。こんな狭い家に閉じこもらなければならないから、ワシはてっきり」

二人のやりとりを見ながら、直はこっそりと喜兵寿に耳打ちをした。

「にっしー、悪気なくナチュラルにマウント取るタイプだな。こりゃあ犬猿の仲にもなるわけだ」

「お前の言ってることは正直半分くらいわからんが、言いたいことはよくわかるぞ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...