タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~

ルッぱらかなえ

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第七章 |老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する

老舗酒蔵の次男、麹で覚醒する 其ノ弐拾肆

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たらふく料理を食べ、あとはゆっくり酒でも飲むか。となったところで、幸民が口を開いた。

「それで?これからどうやってびいるを造るんだ?」

誰もが気になっていたものの、触れられずにいた話題。視線が一気に直と喜兵寿に集まる。

「ビール?そりゃあ造るに決まってんだろ。な、喜兵寿」

あっけらかんと話す直に苦笑しながら、喜兵寿は「ああ」と頷いた。

「……日本酒は造らない。でも日本酒造りの知識は喜んで提供する」

ここにいる人間で、過去のことを知っているのはつるだけだ。しかし全員が喜兵寿の事情をくみ取ったかのように優しく頷いた。

「いい目だな。嬉しくて仕方ない、という色をしている」

ふわりと目を細めた小西の言葉に、喜兵寿は慌てて後ろを振り返った。そうだ、この人は酒を飲んだ人間の感情だか、本心だったかがわかるのだった……!意味がないとはわかりつつも、見えないなにかを吹き飛ばそうと手で扇いでみる。

「別に隠すこともなかろう。酒は人の心を映し出す鏡。酒を愛する人間が造る酒は間違いなくうまい。それに」

小西は喜兵寿のお猪口へと酒を注いだ。

「日本酒造りであれば、ワシにもできることは多い。びいる造りに金しか出せんと思っていたが、技術も提供できるのは嬉しいことだ」

「おい!ワシのほうがもっといろいろできるからな!」

小西の言葉を遮るように、幸民が叫ぶ。

「知っての通り、化学に関してワシの右に出るものはいない!時代は化学だ。火打石なしで火をつける発明はお上にも絶賛されているからな。ワシさえいれば、びいる造りなんてたやすいもんだ」
「わたしもいるよ!」

どさくさに紛れ、夏が喜兵寿の腕にしがみつく。

「この麦はもう必要ないのかもしれないけど……出来ることならなんでもやるから。頼ってくれていいんだからね!」

わいわいと盛り上がる皆を見ながら、つるは「よかったね」と喜兵寿の肩を叩いた。

「わたしさ、ずっとお兄ちゃんの造ったお酒飲んでみたかったんだよね」

「だから、日本酒は造らないと言ってるだろう

眉根をひそめる喜兵寿を見て、つるはくすくすと笑う。

「はいはい。わかってるって。でも一部でも携われば、そこにその人から生まれた命が吹き込まれるわけでしょう。わたしはお兄ちゃんの“それ”を飲めることが嬉しいんだよ」

つるの言葉は、祖父や父がよく言っていたことだった。麹をつくるとき、もろみをつくるとき。どんな工程においても、酒は造り手から命を吹き込まれ続けている。それが交じり合い、新たな存在へと昇華することで、うまい酒になるのだと。

「……そうだな」

喜兵寿はお猪口の中身をぐっと飲みほした。

口ではなんと言おうと、本当は心の奥底では嬉しくて仕方なかった。「酒を造る」そう心を決めてから、指先は興奮で震え続けているのだ。

やるからには全力を尽くそう。喜兵寿は姿勢を正し、直に向き直った。

「直、教えてくれ。びいるを造るために俺は一体どうしたらいい?」

出発前に手助けしてくれる酒蔵の確保はできている。原料調達も問屋か、酒蔵にお願いすればすぐに手に入るだろう。頭の中で醸造の手はずを整理しながら喜兵寿は言った。

「えーーーー、だからそれがわかんないんだって」

「は?」

直の言葉が一瞬理解できず、「どういうことだ?」と聞き直した。

「だから。どうやってびいる造ったらいいのか、まだわかんないの!日本酒にヒントがありそうな気はするんだけどさあ。いまいちよくわかんないんだよね」

「は?いや、だって日本酒の技術が必要って……」

「そうそう!そんな気がするんだよね。だから日本酒技術をつかったビール、一緒に考えようぜ!よろしくな相棒!」

にっこり手を差し出した直を見て、喜兵寿はぐっと言葉を飲み込み、そのままそれを日本酒で流し込んだ。
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