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第八章 | 守銭奴商人 vs 性悪同心
守銭奴商人 対 性悪同心 其ノ拾玖
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寝間着も相変わらずの派手さだ。見たこともないような色合いの生地に、思わずここが夢の中なのではと錯覚しそうになる。
「何者かに夜道で襲われた。ここに押し入ってくる可能性もある」
小西は押し殺した声で、矢継ぎ早に状況を伝えた。
「……ふうん」
金ちゃんはじろりと小西たちを見回すと、「あらやだ。二枚目じゃない」と甚五平に向かってにんまりと笑った。
「さっさと麹室にでも行けばぁ?こんな入口に固まってたら、わたしは怪しいものです、って言ってるようなもんじゃない~」
「しかし……」
「誰か来たらわたしが対応しておくわよ。あ~めんどくさい。夜更かしはお肌の大敵なのに~」
そういうと、金ちゃんはずいっと扉の前に立ちふさがった。
「向こうは武器を持っていて、何人いるかわからないんだぞ?!」
先ほどの恐怖が再び蘇り、背中にぞわりと嫌な気配が走る。容赦なく斬りかかってくるような奴らだ。この蔵の引き戸など容易にぶち破って侵入してくることだってありうる。
それに……
小西は金ちゃんの横顔に目を走らせた。
この男は本当に信用できるのだろうか。喜兵寿たちの話によれば、たいそう金に執着のある男だという。麹室に自分たちを閉じ込め、それを追っ手に金で売ることだってあり得る。麹室は密室だ。気密性を高めるため、入り口意外に逃げ場はない。そんな場所に本当に逃げ込んで大丈夫なのだろうか。自ら捕まりにいくようなものではないか?
そんな小西の葛藤を見透かしたように、金ちゃんはにっこりと笑った。
「わたしはね~お金が大好きで、とぉっても信用しているの。あんたたちはわたしにお金を払った。だからお金に恥じるようなことはしない」
その時、引き戸がコンコンっと叩かれる音がした。
「……夜分遅くに申し訳ない」
くぐもった男の声。蔵の中に緊張が走る。
「はあ~い。いやだ、こんな夜中にまったく何の用?!」
(ほら、さっさといきなさい!)
金ちゃんに追い払われるようにして、小西たちは奥の麹室へと走り出した。仕込み蔵を抜け、釜場を曲がる。麹室の扉を開けたとき、遠くで引き戸が開く音が聞こえた。
「……!!」
4人は無言のまま、出来るだけ音をたてないよう部屋の中へと飛び込んだ。むわっと全身を包み込むような熱気と麹のにおい。そしてそこには何事かと目を丸くしている喜兵寿と直がいた。
「なんだよそんなに慌てて」
ぜいぜいと肩で息をしている小西たちを見て、直がけらけらと笑う。
「そんなに心配しなくても、麹はちゃんとつくってるって。ってかねねと甚五平じゃん!ひさしぶりだな。何してんの?」
「何してんのじゃないだろ!」
喜兵寿が直の後頭部をひっぱたく。
「どうみてもただごとじゃないことぐらいわかるだろ。馬鹿か」
「そんなん普通にわかんねぇだろ。馬鹿って言った人が馬鹿なんです~」
「はあ?!」
2人の掛け合いに、小西は全身の力が抜けていくのを感じた。非常時に垣間見える「日常」はありがたいものだ。頭の中が冷静になっていく。
ガタガタと震えているつるをねねに任せると、甚五平に扉の前に立つように指示する。そして喜兵寿と直を呼び寄せると、何が起こったのか一部始終を話した。
「何者かに夜道で襲われた。ここに押し入ってくる可能性もある」
小西は押し殺した声で、矢継ぎ早に状況を伝えた。
「……ふうん」
金ちゃんはじろりと小西たちを見回すと、「あらやだ。二枚目じゃない」と甚五平に向かってにんまりと笑った。
「さっさと麹室にでも行けばぁ?こんな入口に固まってたら、わたしは怪しいものです、って言ってるようなもんじゃない~」
「しかし……」
「誰か来たらわたしが対応しておくわよ。あ~めんどくさい。夜更かしはお肌の大敵なのに~」
そういうと、金ちゃんはずいっと扉の前に立ちふさがった。
「向こうは武器を持っていて、何人いるかわからないんだぞ?!」
先ほどの恐怖が再び蘇り、背中にぞわりと嫌な気配が走る。容赦なく斬りかかってくるような奴らだ。この蔵の引き戸など容易にぶち破って侵入してくることだってありうる。
それに……
小西は金ちゃんの横顔に目を走らせた。
この男は本当に信用できるのだろうか。喜兵寿たちの話によれば、たいそう金に執着のある男だという。麹室に自分たちを閉じ込め、それを追っ手に金で売ることだってあり得る。麹室は密室だ。気密性を高めるため、入り口意外に逃げ場はない。そんな場所に本当に逃げ込んで大丈夫なのだろうか。自ら捕まりにいくようなものではないか?
そんな小西の葛藤を見透かしたように、金ちゃんはにっこりと笑った。
「わたしはね~お金が大好きで、とぉっても信用しているの。あんたたちはわたしにお金を払った。だからお金に恥じるようなことはしない」
その時、引き戸がコンコンっと叩かれる音がした。
「……夜分遅くに申し訳ない」
くぐもった男の声。蔵の中に緊張が走る。
「はあ~い。いやだ、こんな夜中にまったく何の用?!」
(ほら、さっさといきなさい!)
金ちゃんに追い払われるようにして、小西たちは奥の麹室へと走り出した。仕込み蔵を抜け、釜場を曲がる。麹室の扉を開けたとき、遠くで引き戸が開く音が聞こえた。
「……!!」
4人は無言のまま、出来るだけ音をたてないよう部屋の中へと飛び込んだ。むわっと全身を包み込むような熱気と麹のにおい。そしてそこには何事かと目を丸くしている喜兵寿と直がいた。
「なんだよそんなに慌てて」
ぜいぜいと肩で息をしている小西たちを見て、直がけらけらと笑う。
「そんなに心配しなくても、麹はちゃんとつくってるって。ってかねねと甚五平じゃん!ひさしぶりだな。何してんの?」
「何してんのじゃないだろ!」
喜兵寿が直の後頭部をひっぱたく。
「どうみてもただごとじゃないことぐらいわかるだろ。馬鹿か」
「そんなん普通にわかんねぇだろ。馬鹿って言った人が馬鹿なんです~」
「はあ?!」
2人の掛け合いに、小西は全身の力が抜けていくのを感じた。非常時に垣間見える「日常」はありがたいものだ。頭の中が冷静になっていく。
ガタガタと震えているつるをねねに任せると、甚五平に扉の前に立つように指示する。そして喜兵寿と直を呼び寄せると、何が起こったのか一部始終を話した。
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