九龍城の恋

布椎嵐

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 入口の前には、ミンが仲間と立っていた。私が13Kの彼らに連れてこられたのを見ると、満足そうに笑みを浮かべた。
 「、、、よお、ジェイド。久しぶりだな。元気だったか」
 私は彼に対して嫌悪感を抑えることができなかった。目を逸らして、黙った。
 カイは、ミンと仲間たちにいった。
「彼女を連れてきた。兄貴と、ヤンの所に連れて行ってやってくれ。くれぐれも手荒な真似をするなよ」
「わかってる。度胸があるな。もう2度と出てこれないかもしれないぞ。俺らはこの中は熟知しているが、ジェイドは何もわからない。キョンは知っているかもしれんが、あいつは俺たちにボコボコにされてくたばっちまっているしな」
 ミンは低い声で笑った。
 チェンは怒りをなんとか抑えようとしているのがわかった。
 ミンは私を見て、顎を入口の方に動かした。
「ついてこい。キョンのところに連れて行ってやる」
 私は黙って、ミンと彼の仲間のところについて言った。場内に入る前に、振り返ってチェンを見た。
 彼は緊張した顔つきで私に向かって頭を下げた。
 ミンが私の前に、ミンの仲間が私の後ろについて歩く形で進んだ。こちら側の九龍城の中に入るのは初めてだ。薄暗く、狭い空間なのは13K側の城内と変わりない。店舗が所々にある、何の店舗だろう。中をちらっと目で追うと、「店舗の中に座ってタバコをふかしている女性と目があった。薄着の格好をしている。気だるい感じの表情をしていた。
「ここは、売春宿だ。以前、お前に言っただろ?いい商売があるって」
 ミンが言った。
「お前も、もったいないな。あんなバーで働くよりも、もっと稼ぐ方法はいくらでもあるのに」
「、、、、」
 私は黙って聞いていた。反応してやるものか。
「こっち側の、俺たちのナワバリは13K側のエリアより、治安が悪い。薬物中毒、売春宿、賭博の数が多い。そっち側にもあるだろうがな。九龍城は政府も介入しない無法地帯だ。何でもござれさ」
 ミンは1人で話をつづける。
「お前、キョンと何かあったのか?キョンが、お前に興味を持っているという噂は聞いたが。」
 私は、小さな声で答えた。
「、、、何もないわよ。ただ、サイファにも来てくれるお客さんの1人よ」
もうだいぶ歩いた。何回も道を曲がり階段を登り、薄暗い中を歩いた。自分が今何階にいるのかさえわからない。1人で出れる自信はない。九龍城の無茶苦茶な建築方式が作り出した結果だ。ペンシルみたいな細い建物がいくつもくっつきあってできているのだから。
「俺は、キョンがお前に興味を持っていると思っている。だから、お前をこの件に巻き込んだ。お前に何があったら、奴のメンツが立たないし、何より奴自身がひどく悲しむだろう」
 そう言って、ミンは薄暗い城内の一角にある扉の前で歩みを止めて振り返った。
「、、、さて。ここがキョン達がいる部屋だ。ここまでの道は複雑だっただろ?頭で記憶する余裕なんてないくらいに。」
 ミンはポケットからタバコを出して火をつけた。煙を吸い込み、ゆっくりとはき出した。
「ここまで来れたから、キョンとヤンは解放してやる。俺たちは、どっかへ行っちまうがな。ジェイド、最後に聞くぞ。お前が俺の女になれば、お前はこのまま俺たちを案内して城内に出してやる。キョンとヤンも一緒だ。どうだ?」
 ミンは笑っていた。完全にゲームとしてこの状況を楽しんでいる。こんなことをしてでないと、何も得ることができないのか。
 私は、ミンを睨んで言った。
「、、、お断りよ。私は、絶対ここから出て行くから。キョンとヤンも私が連れて行く」
ミンは仲間達と笑った。
「残念だな、、。最後のチャンスだったのに」
 ミンは、仲間達と来た方向とは違う方向に去っていった。1人残された私は、錆びついた扉を開けると、軋むような音とともにゆっくり開いた。
 チカチカ光っている切れそうな電灯の下に、縛られたヤンと頭から血を流し、痣だらけになったキョンが倒れているのを見た。
「キョン、、、!」
 私は駆け寄ると、床に倒れているキョンの頭を抱えた。頭から血を流している。意識がない。体もひどく殴られているようだ。
「ジェイドさん!来てくれたんですね。俺は平気ですけど、兄貴が、、、!」
 隣にいるキョンはそこまでひどくはない。私は慌ててヤンの両手を縛っている縄を解いた。両手が自由になったキョンは、縛られたとこが痛むのか手首を触っていた。
「俺らでここを出られるかどうか、、。俺も九龍城の全てを知っている訳じゃない。ここの中は複雑すぎて、一度入ったら出てこれないとまで言われている通りだ。」
 ヤンも不安そうな顔をしていた。私は、意識を失ったままのキョンを見つめた。闇雲に動くより、キョンの意識を回復させて脱出するしかない。
 私はそっとキョンの顔に触れた。軽く頬を叩く。
「、、、キョン。、、、私よ。聞こえる?」
 キョンは、ピクっと少し反応した気がした。
 私とヤンは顔を見合わせる。反応がある。そこまで重症じゃないのかもしれない。
 私は続けてキョンに話しかけた。
「起きて、、、!私たち3人、ここで終わるわけにはいかないのよ。必ず3人でここを出るんだから!」
 キョンがまた反応し、うっすらと目を開けた。ぼうっとした顔をしている。
「キョン!」
「兄貴!俺です!ヤンです」
 キョンは、段々と意識がはっきりしていくようだった。身体を動かそうとすると、痛みが走ったのか顔を顰めた。
「ヤン、、、。お前、大丈夫なのか。ミンは、、?」
 ヤンはキョンの上半身を起こしてあげた。
「兄貴、ミン達は俺たちを九龍城内に残して行っちまいましたよ。こんなとこに置き去りにされて、俺たち戻り方もわからない状態です」
 キョンは状況がのみこめてきたらしかった。殴られたことを思い出しているようで、悔しげな表情をし、小さな声で「大丈夫だ。ここから出られる」と言った。
 ヤンは途端に嬉しそうな表情をした。
「大丈夫ですか?ここからすんなり出られます?」
「ああ、、、。俺はここで育ってるから、隅から隅まで知ってる。ミンもそこまで俺が九龍城に詳しいなんて知らなかったんだろう。、、、しかしあの馬鹿めちゃくちゃやりやがって、、」
キョンが痛さで顔を顰める。あちこち痛むのだろう。頭から出ている血が心配だ。
「早く病院に連れて行かないと、、、」
 キョンは私の方を見た。途端に、厳しい顔になり、怒りをあらわにした。
「お前も、巻き込まれたのか、、。あいつ、、」」
 ヤンはキョンの肩に腕を回し、担ぐ体制をとった。
「ジェイドさん、俺が兄貴のこと担ぎますから、俺らの後ろに歩いてください」
 負傷しているヤンはそういってくれたが、私は首を振った。
「ううん、私もキョンを担ぐのを手伝う。2人でやったほうが楽でしょ」
 私もキョンの空いている右側の方を担いだ。キョンはふらつきながらも歩けそうだ。
「さあ、行きましょう。早くここから出ないと」
 キョンは頷いた。
「まずは、10メートル程歩いたところの廊下を右にまがれ。すぐそばに階段があるはずだ。そこを下り、目の前に井戸が見えてくる。」
 キョンの道案内は驚くほど的確だった。本当に九龍城を知り尽くしており、城内の全てを頭のなかにインプットしているのだった。私とヤンは言われるままに、階段を下り、右に曲り左に曲がり、複雑な九龍城の城内を歩いた。1人だと絶対に出てこれないだろう。出てこれたとしても、ものすごく時間がかかるに違いない。今は一刻も早くキョンを病院に連れて行かなくては。
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