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11時に交代のアニタが出勤してくると、仕事の終わりだ。つき合ってくれたヤンに声をかけ、お礼をいった。
家まで送っていくというヤンに、「すぐそこだから大丈夫!」と返事をした。私の住んでいるマンションは目と鼻の先なのだ。しかも、眠らない街・香港はこんな時間でもメイン通りはとても明るい。人もまだ通りを歩いている。
私はこの雑多な雰囲気がとても好きだ。ゆっくり散歩して帰りたくなってしまう。
九龍城の出口から出ると、壁にもたれてタバコを吸っているキョンがいた。相変わらず派手な柄のシャツをきて、ジーンズをはいている。
彼は私に気づく。
「、、、おう、終わったか」
ドキンと心臓が飛び出る。なんで、ここにいるの、、。
「仕事は終わりだけど、、どうしたの?!どうしてここに?」
「待ってた。お前の仕事が終わるのを。」
「どうして、、?」
キョンはタバコの煙を吐き出すと、地面に捨てて足で火を消した。
「、、、送っていくよ、家まで」
キョンはそう言って、私に背中を見せて先を歩き出した。何だか状況が掴めなくて、ぼーっとつったっていると、キョンが5メートル先から振り向いた。
「来ないのか。」
「あ、あの、、ちょっとすぐに家に帰らずに散歩しようと思ってて!」
「散歩、、、?」
キョンが眉をしかめる。
「うん、散歩。ほら、まだ外は人がいるからいいかなって、、」
それを聞くと、キョンは深いため息をつき、私を見た。
「、、、お前、自分の置かれている状況わかっているのか?」
「、、、、う、うん」
「ミンの奴らがまだそこら辺でお前のこと狙ってるんだぞ?あいつ、まだお前のこと諦めていないし、俺のこと目の敵にしてる。いつ、お前を餌にして俺をおびき寄せるかわからない。お前、、、あいつにまた襲われるぞ」
「、、、、」
「だから、、、。」
キョンの厳しい指摘に、俯いて黙ってしまった私に気づく。キョンはまた軽くため息をつき、気を取り直したような声で私にこう言った。
「、、、しょうがねえから俺がつきあってやる、お前の散歩。来いよ。ジェイド」
キョンはその大きな男らしい手を私に差し出した。
”来いよ。ジェイド”
初めて名前で呼んでくれた。
そして目の前に差し出された手を見て、私は心がなんとも言えず温かくなった。
顔を上げて笑顔で「ありがと、、」といい、彼の手を握る。
キョンは何も言わず、そのまま私の手を引き歩き出した。
大きな背中。ぶっきらぼうだけど、その行動には優しさが溢れている。私の手を強く掴んで離さない、彼の手。夜の香港は、心地よい空気が流れている。無数の窓に灯る灯り。みんなまだまだ眠らない。その灯り一つ一つがとても綺麗なのだ。
彼は振り向かずに言った。
「どこにいくんだ?」
「あ、どこにでも、、、。適当にぶらぶらしようかと、!」
「そっか。じゃあちょっとついてきな」
キョンはそのまま、通りを真っ直ぐに行き、途中小道に入って坂を登って行った。
どこへ行くんだろう、、?不思議に思っていると、5分くらい歩くとその場所が見えた。高い丘の上の公園だった。九龍城の近くにこんな場所があったなんて、マンションがごちゃごちゃしている香港では驚きだった。
「ここって、、、」
「俺がたまにくる公園。ここから、よく九龍城を眺めている。」
目の前には、夜の九龍城の全貌が見渡せた。夜の九龍城はとても綺麗。窓の灯りが素晴らしい夜景を作り出しているのだ。その雰囲気はどこか憂いを帯びていて、切なくさせる気がする。
「綺麗ね、、、」
私は思わずつぶやく。
キョンも私の隣でタバコの火をつけ、ゆっくりと吸い始めた。
「、、、綺麗かな。俺が生まれ育った場所だ。ガキのころから、何百回とここからこの景色を見た。見ながらいろんなことを考える。俺の生みの親のこと、ボスのこと、ミンのこと、ヤンたち兄弟分たちのこと、今後の生き方のこと、九龍城がなくなってしまうこと。、、そして、お前のこと」
私はキョンを見た。キョンも私を見てこう言った。
「お前、、俺の女になるか?」
その言葉に私の心臓は急に早く脈を打ち始める。キョンは九龍城を見ながら、そのまま言葉を続けた。
「、、、俺は、何にも持ってない。もしかしたら、明日死ぬかもしれない。お前を泣かせるかもしれない。いつもお前のそばにいてやれないかもしれない。、、、でも、できる限りお前のそばにいたいし、泣かせたくない。」
そこでキョンは少し苦笑した。
「そして、、そんな簡単に死ぬつもりもない」
キョンはタバコを捨てると、言った。
「どうだ、、?九龍城が取り壊された後、俺と来ないか?」
「どこへ、、、?行くの」
「俺は香港から離れない。俺は香港人だから。他の土地で生きていく想像がつかない。13Kとして生きていくのは変わらないと思うが、、、でも、また新しい場所で生きるんだろうな。今のように」
「キョンは、九龍城が好き?」
私の問いに、キョンは少し考えてこう言った。
「好きでも嫌いでもないな。俺にとって複雑な場所なんだ。いいことも悪いことも、あそこには俺の全てがつまっている。俺が両親といた場所、捨てられた場所、そして13Kとして生きている場所」
黙る私に、キョンは続けていう。
「、、、心配ない。お前とお前の母親を引き離すつもりはない。お前の母親と今まで通り暮らしてもいいし、俺と暮らしてもいい。どっちにしろ、今からそう遠くない土地で生きてく。俺は死ぬまで香港にいる。」
私は自分の心の声がなんと言っているか知っていた。「彼と生きたい」と心はいっていた。
父さんが昔言っていた事がある。全ては自分の『心』が決めると。頭でごちゃごちゃ考えたりせずに、自分の『心の声』に従え、それが正解だと。私はそれを信じて生きてきた。そして、それは正しいと今でも思っている。
彼の顔をしっかり見据えてこういった。
「、、、行く。この九龍城がなくなったあと、あなたについて行く。」
「後悔はしないのか?」
「今まで、全て自分のことは自分で決めてきたから。後悔したことなんかないよ。あなたを好きになったことも」
キョンは私の腕をつかみ、自分に引き寄せ強く抱きしめた。
「お前を守る。ミンの奴らからも、悲しいことからも」
私は目を閉じて、彼を強く抱きしめ返した。
キョンの腕の中は彼のなんだか懐かしくなる匂いと、タバコの香りがして、そしてとても温かかった。
いつも守られているのは嫌だった。
私も彼を守れるくらい強く生きたいと思った。
家まで送っていくというヤンに、「すぐそこだから大丈夫!」と返事をした。私の住んでいるマンションは目と鼻の先なのだ。しかも、眠らない街・香港はこんな時間でもメイン通りはとても明るい。人もまだ通りを歩いている。
私はこの雑多な雰囲気がとても好きだ。ゆっくり散歩して帰りたくなってしまう。
九龍城の出口から出ると、壁にもたれてタバコを吸っているキョンがいた。相変わらず派手な柄のシャツをきて、ジーンズをはいている。
彼は私に気づく。
「、、、おう、終わったか」
ドキンと心臓が飛び出る。なんで、ここにいるの、、。
「仕事は終わりだけど、、どうしたの?!どうしてここに?」
「待ってた。お前の仕事が終わるのを。」
「どうして、、?」
キョンはタバコの煙を吐き出すと、地面に捨てて足で火を消した。
「、、、送っていくよ、家まで」
キョンはそう言って、私に背中を見せて先を歩き出した。何だか状況が掴めなくて、ぼーっとつったっていると、キョンが5メートル先から振り向いた。
「来ないのか。」
「あ、あの、、ちょっとすぐに家に帰らずに散歩しようと思ってて!」
「散歩、、、?」
キョンが眉をしかめる。
「うん、散歩。ほら、まだ外は人がいるからいいかなって、、」
それを聞くと、キョンは深いため息をつき、私を見た。
「、、、お前、自分の置かれている状況わかっているのか?」
「、、、、う、うん」
「ミンの奴らがまだそこら辺でお前のこと狙ってるんだぞ?あいつ、まだお前のこと諦めていないし、俺のこと目の敵にしてる。いつ、お前を餌にして俺をおびき寄せるかわからない。お前、、、あいつにまた襲われるぞ」
「、、、、」
「だから、、、。」
キョンの厳しい指摘に、俯いて黙ってしまった私に気づく。キョンはまた軽くため息をつき、気を取り直したような声で私にこう言った。
「、、、しょうがねえから俺がつきあってやる、お前の散歩。来いよ。ジェイド」
キョンはその大きな男らしい手を私に差し出した。
”来いよ。ジェイド”
初めて名前で呼んでくれた。
そして目の前に差し出された手を見て、私は心がなんとも言えず温かくなった。
顔を上げて笑顔で「ありがと、、」といい、彼の手を握る。
キョンは何も言わず、そのまま私の手を引き歩き出した。
大きな背中。ぶっきらぼうだけど、その行動には優しさが溢れている。私の手を強く掴んで離さない、彼の手。夜の香港は、心地よい空気が流れている。無数の窓に灯る灯り。みんなまだまだ眠らない。その灯り一つ一つがとても綺麗なのだ。
彼は振り向かずに言った。
「どこにいくんだ?」
「あ、どこにでも、、、。適当にぶらぶらしようかと、!」
「そっか。じゃあちょっとついてきな」
キョンはそのまま、通りを真っ直ぐに行き、途中小道に入って坂を登って行った。
どこへ行くんだろう、、?不思議に思っていると、5分くらい歩くとその場所が見えた。高い丘の上の公園だった。九龍城の近くにこんな場所があったなんて、マンションがごちゃごちゃしている香港では驚きだった。
「ここって、、、」
「俺がたまにくる公園。ここから、よく九龍城を眺めている。」
目の前には、夜の九龍城の全貌が見渡せた。夜の九龍城はとても綺麗。窓の灯りが素晴らしい夜景を作り出しているのだ。その雰囲気はどこか憂いを帯びていて、切なくさせる気がする。
「綺麗ね、、、」
私は思わずつぶやく。
キョンも私の隣でタバコの火をつけ、ゆっくりと吸い始めた。
「、、、綺麗かな。俺が生まれ育った場所だ。ガキのころから、何百回とここからこの景色を見た。見ながらいろんなことを考える。俺の生みの親のこと、ボスのこと、ミンのこと、ヤンたち兄弟分たちのこと、今後の生き方のこと、九龍城がなくなってしまうこと。、、そして、お前のこと」
私はキョンを見た。キョンも私を見てこう言った。
「お前、、俺の女になるか?」
その言葉に私の心臓は急に早く脈を打ち始める。キョンは九龍城を見ながら、そのまま言葉を続けた。
「、、、俺は、何にも持ってない。もしかしたら、明日死ぬかもしれない。お前を泣かせるかもしれない。いつもお前のそばにいてやれないかもしれない。、、、でも、できる限りお前のそばにいたいし、泣かせたくない。」
そこでキョンは少し苦笑した。
「そして、、そんな簡単に死ぬつもりもない」
キョンはタバコを捨てると、言った。
「どうだ、、?九龍城が取り壊された後、俺と来ないか?」
「どこへ、、、?行くの」
「俺は香港から離れない。俺は香港人だから。他の土地で生きていく想像がつかない。13Kとして生きていくのは変わらないと思うが、、、でも、また新しい場所で生きるんだろうな。今のように」
「キョンは、九龍城が好き?」
私の問いに、キョンは少し考えてこう言った。
「好きでも嫌いでもないな。俺にとって複雑な場所なんだ。いいことも悪いことも、あそこには俺の全てがつまっている。俺が両親といた場所、捨てられた場所、そして13Kとして生きている場所」
黙る私に、キョンは続けていう。
「、、、心配ない。お前とお前の母親を引き離すつもりはない。お前の母親と今まで通り暮らしてもいいし、俺と暮らしてもいい。どっちにしろ、今からそう遠くない土地で生きてく。俺は死ぬまで香港にいる。」
私は自分の心の声がなんと言っているか知っていた。「彼と生きたい」と心はいっていた。
父さんが昔言っていた事がある。全ては自分の『心』が決めると。頭でごちゃごちゃ考えたりせずに、自分の『心の声』に従え、それが正解だと。私はそれを信じて生きてきた。そして、それは正しいと今でも思っている。
彼の顔をしっかり見据えてこういった。
「、、、行く。この九龍城がなくなったあと、あなたについて行く。」
「後悔はしないのか?」
「今まで、全て自分のことは自分で決めてきたから。後悔したことなんかないよ。あなたを好きになったことも」
キョンは私の腕をつかみ、自分に引き寄せ強く抱きしめた。
「お前を守る。ミンの奴らからも、悲しいことからも」
私は目を閉じて、彼を強く抱きしめ返した。
キョンの腕の中は彼のなんだか懐かしくなる匂いと、タバコの香りがして、そしてとても温かかった。
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