九龍城の恋

布椎嵐

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 母さんが大埔に行ってから、2ヶ月が過ぎた。
 叔母さんの商売を手伝って、元気にやっているらしい。稼いだお金を私に毎月仕送りしてくれている。母さんはよく言っていたが、私が大学に行くことを望み、私の将来のためだと言っていた。そのために毎月必ず仕送りをすると約束していた。母さんが行く前に、私は看護師になろうと思っていることを話し、そのために看護学校へ行くために勉強する予定だと伝えた。母さんは大賛成してくれ、「欣怡ならきっとなれる」と言ってくれた。
 私は安心して勉強に励むことができた。母さんのいなくなった部屋は広さを感じて寂しい時もあるが、近くにはキョンも住んでいるし1人でもやっていけた。
 仕事は相変わらずサイファで働いているが、もうサイファも移転に向けて準備を進めていた。今月、サイファのさよならパーティが開催される予定で、九龍城の常連客やキョン達も来る予定だ。、、、本当にサイファがなくなってしまうことを実感する。オーナーや、アニタ、お馴染みのお客さん達、、。会えるのはあと何回だろうか?
 残された時間をきちんと大事にしていかなければならない。
九龍城に住んでいる住人も、立ち退きを受け入れている人たちが増えてきた。数えきれないくらいに存在している部屋も、どんどん人が出て行っていることだろう。少し、人の行き交いが少なくなってきたようにも思える。九龍城に人が少なくなるということは、キョン達のシノギにも影響する。最近、キョン達の13Kは九龍城外にもナワバリを広めている。いずれなくなる九龍城だけだと、稼げない。どんどん外に出なければいけなくてはならない。それもあり、最近キョンは非常に忙しい。なかなか2人でゆっくりする機会もないくらいだ。今度のサイファのさよならパーティに顔を出すと言っていたから、そこでゆっくり会えるのが楽しみだ。

 サイファのさよならパーティの当日、私は気合を入れておしゃれをすることに決めていた。着ていく服は、母さんが若い頃に来ていたチャイナドレス風のワンピース。17歳の時に母さんからもらったものだ。柄は黒の生地に赤いバラがたくさん散りばめられているデザイン。太ももまでスリットが入っていて、丈は膝下くらいの長さだ。とても美しく、小さい頃からこのドレスが大好きだった。特別な日が来たら、着ようと心に決めていた。パーティは18時からだ。それまでにシャワーを浴びて、ドレスを着て、髪をアップにまとめて、お化粧を念入りにしよう。私は鏡をみながら、支度を始めた。
 16時半には身支度が終わった。パーティ準備のために、早めにサイファに行かなければならない。パーティを楽しむと同時に、私は従業員だから。私は椅子にかけてあったバッグを取り、マンションをでた。履き慣れないハイヒールは歩きにくい。、、、でもチャイナドレスにはハイヒールだ。マンションから、九龍城までの道のりをゆっくりハイヒールで歩いた。城内に入り、少し歩くとすぐにサイファのネオンサインの看板が見える。
「お疲れ様です」
 私が店に入ると、オーナーがビールの瓶を冷蔵庫に運んでいるところだった。
「ああ、ジェイド、お疲れさま、、、」
 オーナーの目が私に釘つけになる。口が空いたまま塞がらないとはこのことだという表情をしている。
「オーナー、、、?どうしましたか?私の格好、どこかおかしい、、?」
 オーナーは、はっと正気に戻り、こういった。
「いやいやいや!!!おかしいなんてとんでもない!あまりにドレスが似合って、セクシーな感じに変身しちゃってるから、びっくりしたよ!どうしたの、その格好!」
「あ、母さんが若い頃に着ていたワンピースを、、。やっぱり古臭いですかね?」
「古臭いなんてとんでもない!!めっちゃめちゃ似合ってるよ!こんないい女を放っておく男はいないよ、、、。キョンはいい女をゲットしたよ、本当に。。」
 あまりのオーナーのベタぼめぶりに、なんだか恥ずかしくなってきた。そんなにセクシーな感じだったのかな。
その後にきたアニタにも同様のリアクションをされ、「本当、あんた最高に色気あるね~!いつもその格好してたら?」とお言葉をいただいた。
 私はますますみんなの前に立つのが恥ずかしくなってきた。
18時から店はオープンし、それと同時に常連のお客さんが来店してきた。いつもはそんなに顔を見せない、ドクター李、魚肉団子工場のオーナー、ラウさんも顔を見せてくれた。みんなそれぞれに、サイファの思い出、九龍城であった様々な事柄について懐かしそうに、楽しそうに話をしていた。そして、みんな私の格好を褒めてくれた。
いつもの倍以上にお客さんが来てくれ、店はとても忙しかったが、いろんなお客さんと話ができてとても楽しい時間だった。20時ごろになると、ヤンが仲間2人と顔を出してくれた。
「ジェイド姐さん!」
「ヤン!久しぶりじゃない?最近忙しそうだったから」
 ヤンは口に手を当てて、私を頭から足まで観察し胸に手を当てて倒れる素振りをした。
「ジェイド姐さん、その格好やばいな。そのドレスが似合いすぎます。つうか、、、姉さんが美人すぎて色気ありすぎてやばいです!兄貴の恋人じゃなかったら、今すぐ付き合って欲しい」
 私は笑って、彼らにビールの瓶を出した。
「やあね、大袈裟な。もう、みんな褒めてくれるから嬉しいんだけどね。来てくれてありがとう。このビールは私の奢りね。みんなお仕事ご苦労様!」
ヤンと彼の仲間の2人の青年は嬉しそうに、会釈をして「ほんとですか!ありがとうございます!」といった。ヤンは最近、この若い青年たちといることが多い。弟分的な感じなんだろう。まだ、18歳くらいに見える。
「ジェイド姐さん、こいつら新入りなんすよ。俺が今教育係として色々教えてやっているところで。名前は、ショーンと、ロイといいます。何かあったら相談に乗ってやってください」
ヤンに紹介された2人の新人が、私に向かってぺこっと頭を下げる。
「初めまして、ジェイド姐さん。キョンの兄貴や、ヤンの兄貴から色々噂聞いてます」
「こんにちは。よろしくお願いします。」
なんだか、ヤンに雰囲気が似てる新入りだった。ちょっとおバカで素直そうな青年だ。
「ヤンもなんだか偉くなったのね。」
「いやいや。兄貴が最近ボスの代わりに色々動いて忙しいんで、俺も色々助けなければならないんですよね。兄貴、最近仕事に対する集中力が半端なくて、めっちゃ働いていますよ。俺もあんまり会えてないくらい」
「私も最近あまり会えてないわよ。今日、何時ごろ来るのかな?」
「今、ボス同士の話し合いの場にボスの代わりに出席してるんですよ。多分、もうそろそろ終わって、顔出してくると思うんですが、、」
そんなたわいもない話をしている内に、15分ほど時間がすぎていった。私がお客のお代わりのビールを冷蔵庫から出そうとしていた時だった。
「あ!兄貴来た来た!こっちです。遅いっすよ!」
 ヤンの声が聞こえ、私も後ろを振り返った。
 その瞬間、目にキョンの姿が飛び込んできた。
 彼はいつもの派手な柄シャツとジーンズという格好ではなかった。グレーのスーツに身を包み、ブルーのネクタイをしめ、髪はきちんとセットされていた。
まさに、テレビから抜け出てきた俳優のような感じだった。
キョンは、カウンターにいる私たちに気づき、こっちにやってきた。
「、、、遅れて悪かったな。会議が長引いた」
 キョンは私の目の前に座り、私をみた。
お互い、それぞれの格好に驚いて、数秒間何も言葉が発することができなかった。そしてキョンからようやく出た言葉が
「お前、その格好どうした、、?」
だった。
 私も目の前のキョンがあまりにも素敵すぎて、顔が赤くなるのを感じて、こういった。
「あなただって、その格好どうしたの??いつもと違いすぎて、なんだかびっくりしちゃって、、」
 ヤンが、ニヤニヤしながらキョンの肩に手を回して私をみた。
「兄貴も姐さんもお互いの恋人の格好に惚れなおしちゃいました?ジェイド姐さん、うちの兄貴、最高でしょ?まさに13K の看板スターですよ。こんなイケてる男そこらへんにいます?」
キョンも顔が赤くなっているのに気づいた。それを隠すかのように、ヤンの頭を叩く。
「おい、ヤン。俺のことより、こいつの格好の方が問題だろ。色気だしすぎじゃないか?男を簡単に引き寄せるぞ」
ヤンは気にしないように、キョンの肩をバシバシ叩いた。
「はいはい、兄貴やきもち焼かないでくださいよ!ジェイド姐さんが美人なのは、最初っからでしょ。この格好しなくても、ジェイド姐さんと付き合いた男はごまんといます。」
「もう、ヤン、もう私のことはいいの。さ、みんなで乾杯でもしましょ」
 私はキョンにサンミゲルのビールを置くと、自分もビールを開けた。
 私、心臓がドキドキして止まらない。目の前にいるキョンは本当にカッコいいから。本当に、この人と付き合っているのか疑問に思ってしまう。
キョンは片頬に肘を突き、左手でビールを持った。
「、、、お前ら、お疲れ様。乾杯」
「乾杯~ーーー!」
 冷たいビールが美味しかった。私は普段お酒は飲まないんだけど、今日は特別だ。
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