Exスキル『能力100万倍』で、あべこべ世界で苦しむ奴隷達の『低価値スキル』を超優秀に！ただし、『性欲100万倍』の副作用付きですが...。

第四章 「マリナ」のお店

第61話 二度死んで巡り合えた人

 「店長ー！降りて来て下さい！オーダーがたまっています！」と、階段下から大きな声が聞こえた。

　ローファンの切羽詰まったような声が、緊急事態を知らせるサイレンのように響き渡った。ローファンの声には焦燥感と混乱が入り混じり、2階フロアの空気を一瞬で変えた。

　ローファンの声に少しイラっとした麻璃奈が、「もう！せっかく運命の人に出会えたのに！」と声を上げた。

　麻莉奈は俺に向かって、「ごめんなさいね。まだお仕事が残っているの。下にお客さんもいるし、あと1時間だけ待ってもらえないかしら？たくさんの料理を腕によりをかけて作ってくるから、ちょっと待っていてね♡」と優しい笑顔でほほ笑んだ。

　なんて優しいんだろう。一世を風靡したカリスマ女優から、こんなに優しい言葉をかけてもらえるなんて...信じられない。

　でも...やっぱり気になる。何でナイメール星に麻璃奈がいるんだ？もし問題がなければ、彼女に尋ねてみたい。

　俺の頭の中で疑問が渦巻いていた。麻璃奈がナイメール星にいる理由が理解できない。

　一人悶々としている俺に対して、麻璃奈は「そうそう、智也君と仲間のみんななら、もちろんここに泊まっていいわよ。部屋ならたくさんあるし。あと...智也君だけ私の部屋に来る？」と、また違う意味で悶々とする発言をして、俺の心を揺さぶってきた。

　あ、あまり俺の心を揺さぶらないで...。

　照れくさそうで困った様な、間抜けな顔をする俺に対し、麻璃奈は「ふふふ、本気よ♡私の好みにドンピシャですもの。いいのよ～、お姉さんのお部屋に来て♡」と、ねっとりとした表情で俺を誘ってきた。


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　そんな俺と麻璃奈のやり取りに業を煮やしたメルが、「いい加減にご主人様を困らせないで下さい！」と、麻璃奈に対し怒気を含んだ声で威嚇し、強めの殺気を放った。

　メルは明らかに、いらだっている。麻璃奈が俺を奪うと思っているのか、凄く不安そうな表情をしている。

 「こら、メル！敵じゃないって！」

　俺がメルを注意すると、メルは「ぐぅっ」と苦しそうなうめき声を上げた。どうやら、俺の命令に背いたと首輪が判断し、自動的に首を絞めたのだろう。

　こらこら首輪！そんなことまで望んでいないって！

　全く奴隷の首輪の奴...非常に厄介な代物だ。

 「メル、大丈夫か！！」と、とっさに苦しそうにするメルを抱きしめる。

　メルは俺の胸の中でガタガタと震え、「メ、メルは大丈夫です。ご、ご主人様！メルはご主人様の望むことなら何でも致します！喜んで身体を差し出します！贅沢品もいりません！で、ですから、メルを捨てないで下さい！ご、ご主人様を失ったら、わ、私は...！！」と、悲しみと絶望の表情を浮かべながら叫んできた。

　それはもう、首輪がしまった苦しみによるものではない、麻璃奈が俺を奪い去ってしまうのではないかという恐怖心にさいなまされている様だ。半狂乱になっている。

　メイもクラリスも、俺に対しては非常に甘い。しかし、俺が絡むと、他者に対して恐ろしいほどの敵意を向けることがある。そして冷静さを失う。特にメルに顕著に表れる。まだ直接攻撃をしないだけありがたいが、麻璃奈に向けて殺気を放ち、無力化させようとした。


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　メルの殺気を正面から受けた麻璃奈は、苦しそうな表情を浮かべながらも、「くっ！すごい殺気ね。主人の命令に逆らってまで...。でもね、私も負けないわよ！やっと巡り会えたんだから！二度死んでやっと巡り会えた人なんだから！それに一度は自ら死を選んだし！」と、メルを見据えた。

　体を震わせながら、大きな声で叫んだあと、近くに置いてあった牛刀包丁をまた手に持ち、メルの殺気を床に薙ぎ払うかのような手の動きをした。

 「ふう～。言っとくけど奴隷ちゃん達、私は争うつもりはないわ。本当に彼を好きになっただけよ。やっと巡り会えた、運命の人にね♡」

　そして、インリンもサラも何が起こっているのか訳が分からない様な表情をして、麻璃奈をじっとみつめている。

　麻璃奈は二人に向かって、「ごめんね、インリン、サラ。夕食の場を台無しにしちゃって。まさか、あなた達が智也君を連れて来てくれるとは思わなかったわ。本当に感謝してる...。何が何だか分からないと思うけど、後でちゃんと説明とお礼をするからね」と謝りながら頭を下げた。

 「マリナ！旦那と知り合いだったのか？」困惑した表情でインリンは麻璃奈に聞いた。

 「ううん...初めてよ。本当に。ただ、智也君は私を何度も見たことがあるの。でも、私たちは初めて出会ったの。嘘は言っていないわ。分からないとは思うけど、一時間だけ待って頂戴。ちゃんと説明するから」


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　今まで俺に見せていた優しい笑顔が一瞬で消え、厳しい表情に変わり、従業員たちを見つめた。

 「ローファンとあと2名は、この場の掃除を大至急して！新しい料理と飲み物の補充を！ザイフは1階にいるお客様に説明を。1時間でお引き取りを願いたいと告げて。その代わりお代は頂かなくていいわ。それでも揉めるなら金輪際その客たちは出禁よ！」

 「はい！分りました。お嬢様！」

　麻璃奈の指示に従い、従業員たちは一糸乱れぬ返事をし、彼女に頭を下げた。

 「とりあえず、いろいろなおつまみを作ってくるから、後でゆっくり話しましょう」

　そう言って階段を駆け下りようとした麻璃奈は、ふと振り返り、「智也君、絶対に残ってね。話したいことがあるから」と懇願するような表情で訴えた。そして、ザイフと一緒にさっそうと一階へ駆け降りて行った。

　な、何だか分からない事ばかりだ。

　何で...2年前に事故死した清水麻璃奈がナイメール星にいるんだ？事故死じゃない？それも...自ら命を絶った⁉

　それに、俺が好みのタイプ？地球人の麻璃奈が？もうぐちゃぐちゃだ...。