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第七章
62.割り切りたい間柄
しおりを挟むーー体育の授業後。
日向はマスクを外したまま体育館前に設置されている水道の蛇口を最大限にひねり、ドバドバと音を立てている流水を両手ですくって水しぶきを上げながらバシャバシャと顔を洗った。
顔を下げたまま水道の上に置いてるタオルに手を伸ばすと、誰かから「はい」と声をかけられてタオルを渡される。
下を向いたままタオルで顔を拭いてズボンのポケットからマスクを取って装着してから見上げると、そこには陽翔の姿があった。
「そんなに早くマスクを装着したくなるくらい素顔を見られたくないの?」
「見られたくないね(正体をバラしたらエンジョイ出来なくなるし)」
「キレイな輪郭してるのに」
「……見てんじゃねーよ。で、俺になんか用?」
日向は水道の上に置いてるメガネを取って装着する。
左手に握っていたタオルを首にかけると、二歩先を進んで背中を向けた。
すると、陽翔は後ろから言った。
「早川に気があるの?」
「……どうしてそんな事聞くの?」
「仲がいいのが気になって。早川から聞いたよ。2人は幼馴染なんだってね」
「んっ??? 俺とあいつが幼馴染?」
俺は身に覚えのない関係性に驚いて奴の方へ振り返った。
あいつめ……。
いつ俺を幼馴染に仕立て上げたんだよ。
しかも、その件について何も言われてないし。
「違うの?」
「……想像に任せるよ(あいつ、時給を50円引いてやるからな)」
「そっか。……実はさ。俺、早川にアプローチしてるんだけど、あと一歩が届かなくて。阿久津だったら心の距離の縮め方を知ってるんじゃないかと思って」
「あれ? 2人は付き合ってんじゃないの?」
「……いや、まだ」
渡瀬は2人が付き合ってると言ってたけど、本人は否定している。
一体どこで情報が錯綜したんろう。
しかも、どいつもこいつも自分に自信がないのか、人の気持ちを詮索してくる。
「お前さ、早川のどんな所が好きなの?」
「んー、透明感があって誰に対しても優しいところ。自分が絶対に損をする事がわかってても、人の為に動いちゃう不器用なところも好きかな」
日向は陽翔の気持ちを聞くと同時に結菜を思い描いた。
確かに二階堂の言う通り。
あいつはお人よしというか、お節介というか……。
渡瀬と繋がっていたいからパシりになっててもいいと思ってた。
それに、ミカの件もずっと気にしてた。
でも、二階堂はあいつが髪を切った途端に態度を変えてきたから表面的なところしか見てないと思ったけど、実はそうでもないんだ。
「てっきりあいつが髪を切って可愛くなったから近づいたと思ってた」
「いや、それよりずっと前。……でも、阿久津も早川が可愛いと思ってるんだね」
「……あのさ、揚げ足取らないでくれる?」
「あはは、ごめんごめん。でも、早川に興味がないなら気にしない事にするよ。……じゃ、先に戻るね」
陽翔は清々しい笑顔で更衣室に向かって行くが、水道前に取り残された日向はしらけた目を向けた。
確かに結菜は女として興味がないけど。
ただの家政婦の1人だけど。
地味な同級生の1人だけど。
あいつの言い方や聞き方が、なんかめちゃくちゃムカつく。
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