オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第七章

61.心の闇

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  ミカちゃんを発見してからすかさず日向に連絡した。
  すると、スマホのスピーカー越しから「良かった」と力が抜けたような声が届く。
  安心してる様子が伝わった途端、遠くにいても気が気じゃなかったんだなぁと思い知らされた。

  ミカちゃんを無事に発見したところまでは良かったけど、スマホしか持たない状態で家を飛び出したから、鍵がなくて家には戻れなかった。

  彼が公園へ到着するまでの間、砂場でミカちゃんと一緒に遊んでいると、約40分後に暗闇の隙間から彼と堤下さんが駆け寄ってきた。
  彼は砂場で遊んでいるミカちゃんの小さな身体を両手でギュッと抱きしめる。



「ミカ……。勝手に家を飛び出しちゃダメだって何度も何度も注意したのに。心配したよ」

「ごめんなさい」


「怪我や怖い思いはしてない?」

「してないよ」


「もう勝手にいなくなっちゃだめだよ」

「お兄ちゃんの腕の力が強くて苦しいよ」



  私は泣き崩れそうなほど心配している彼を見た途端、胸がズキッと傷んだ。
  無責任な自分に後悔の波が押し寄せるばかり。
  彼はミカちゃんを抱っこしてスクッと立ち上がると、私の正面に立った。



「迷惑かけてごめん。それと、近所中を探し出し回ってくれてありがとう」

「ううん。こっちこそごめんね。私が目を離したのが原因だから……」


「そんな風に思ってないよ。お前がいてくれて助かったし」



  彼はそう言うと、穏やかな眼差しで私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
  てっきり責められると思っていたのに「助かった」だなんて……。
  それまで責任を取って仕事を辞める事しか考えてなかった。
  でも、まだ続けていいんだと思ったら心がスッと軽くなった。


  日向はミカを腕から下ろして手を繋いで喋りながら家方向に歩き出すと、結菜は小走りで後を追って会話に入った。
  五歩後ろで一部始終を見ていた堤下は、2人の心の距離感が想像以上に接近している事が伝わる。


  ーーマンションに帰宅後。
  結菜がキッチンに立って食事の支度を始めると、日向はミカの部屋に行って家を飛び出した理由を訊ねた。
  すると、ミカはモジモジとしたままおもちゃ箱に向かうと、中からしわくちゃになった一枚の紙を取り出して目の前に差し出した。
  日向は紙を開いて内容をざっと目で追う。



「父兄参観のお知らせ?  参加者の締切日が明日になってるけど、どうして今まで出さなかったの?」

「……」



  ミカは口を閉ざしたまま表情を曇らせる。
  日向は次第に手紙が出しにくかったのではないかと察すると、ズボンのポケットからスマホを取り出してスケジュールアプリを開いた。



「幼稚園からの手紙はもう二度と隠しちゃダメだよ。ミカがこの手紙を出してくれないと、幼稚園でお兄ちゃんだけが仲間はずれになっちゃうよ」

「だって、お兄ちゃんは仕事が忙しいから……」



  プリントの日付に目を向けると、発行日は約10日前。
  それまでおもちゃ箱の中で静かに眠っていたと同時にミカの心の中にしまわれていた。
  しかも、手紙を隠してた理由は、俺が仕事で忙しいと思ったから。
  俺は幼いミカに気をつかわせてしまうほど心にブレーキをかけさせていた事を知る。



「お兄ちゃんの仕事なら気にしなくていいよ。それより、この手紙がちゃんとお兄ちゃんの元へ届けられなかったら、行けるものも行けなくなっちゃうんだよ。ミカはお兄ちゃんが幼稚園に来て欲しいと思ってくれないの?」

「……ううん。来て欲しい」


「じゃあ、これから秘密は無しだからね。約束」

「うん!  約束」



  ミカと小指同士を重ねてゆびきりげんまんをした後、プリントに名前を書いてお便り帳の中に挟んだ。

  家出をしなければ気づけなかったミカの心の闇。
  忙しい俺に言いにくくて、ストライキしたくなるほど思い悩んでいたのだろう。



『ミカちゃんの事なんだけどね。もしかしたら、何か悩みを抱えてるんじゃないかなぁと思ってて』



  以前、結菜に指摘された時に素直に耳を傾けていれば、ここまで辛い想いをさせなくて済んだのかもしれない。

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