62 / 115
第七章
61.心の闇
しおりを挟むミカちゃんを発見してからすかさず日向に連絡した。
すると、スマホのスピーカー越しから「良かった」と力が抜けたような声が届く。
安心してる様子が伝わった途端、遠くにいても気が気じゃなかったんだなぁと思い知らされた。
ミカちゃんを無事に発見したところまでは良かったけど、スマホしか持たない状態で家を飛び出したから、鍵がなくて家には戻れなかった。
彼が公園へ到着するまでの間、砂場でミカちゃんと一緒に遊んでいると、約40分後に暗闇の隙間から彼と堤下さんが駆け寄ってきた。
彼は砂場で遊んでいるミカちゃんの小さな身体を両手でギュッと抱きしめる。
「ミカ……。勝手に家を飛び出しちゃダメだって何度も何度も注意したのに。心配したよ」
「ごめんなさい」
「怪我や怖い思いはしてない?」
「してないよ」
「もう勝手にいなくなっちゃだめだよ」
「お兄ちゃんの腕の力が強くて苦しいよ」
私は泣き崩れそうなほど心配している彼を見た途端、胸がズキッと傷んだ。
無責任な自分に後悔の波が押し寄せるばかり。
彼はミカちゃんを抱っこしてスクッと立ち上がると、私の正面に立った。
「迷惑かけてごめん。それと、近所中を探し出し回ってくれてありがとう」
「ううん。こっちこそごめんね。私が目を離したのが原因だから……」
「そんな風に思ってないよ。お前がいてくれて助かったし」
彼はそう言うと、穏やかな眼差しで私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
てっきり責められると思っていたのに「助かった」だなんて……。
それまで責任を取って仕事を辞める事しか考えてなかった。
でも、まだ続けていいんだと思ったら心がスッと軽くなった。
日向はミカを腕から下ろして手を繋いで喋りながら家方向に歩き出すと、結菜は小走りで後を追って会話に入った。
五歩後ろで一部始終を見ていた堤下は、2人の心の距離感が想像以上に接近している事が伝わる。
ーーマンションに帰宅後。
結菜がキッチンに立って食事の支度を始めると、日向はミカの部屋に行って家を飛び出した理由を訊ねた。
すると、ミカはモジモジとしたままおもちゃ箱に向かうと、中からしわくちゃになった一枚の紙を取り出して目の前に差し出した。
日向は紙を開いて内容をざっと目で追う。
「父兄参観のお知らせ? 参加者の締切日が明日になってるけど、どうして今まで出さなかったの?」
「……」
ミカは口を閉ざしたまま表情を曇らせる。
日向は次第に手紙が出しにくかったのではないかと察すると、ズボンのポケットからスマホを取り出してスケジュールアプリを開いた。
「幼稚園からの手紙はもう二度と隠しちゃダメだよ。ミカがこの手紙を出してくれないと、幼稚園でお兄ちゃんだけが仲間はずれになっちゃうよ」
「だって、お兄ちゃんは仕事が忙しいから……」
プリントの日付に目を向けると、発行日は約10日前。
それまでおもちゃ箱の中で静かに眠っていたと同時にミカの心の中にしまわれていた。
しかも、手紙を隠してた理由は、俺が仕事で忙しいと思ったから。
俺は幼いミカに気をつかわせてしまうほど心にブレーキをかけさせていた事を知る。
「お兄ちゃんの仕事なら気にしなくていいよ。それより、この手紙がちゃんとお兄ちゃんの元へ届けられなかったら、行けるものも行けなくなっちゃうんだよ。ミカはお兄ちゃんが幼稚園に来て欲しいと思ってくれないの?」
「……ううん。来て欲しい」
「じゃあ、これから秘密は無しだからね。約束」
「うん! 約束」
ミカと小指同士を重ねてゆびきりげんまんをした後、プリントに名前を書いてお便り帳の中に挟んだ。
家出をしなければ気づけなかったミカの心の闇。
忙しい俺に言いにくくて、ストライキしたくなるほど思い悩んでいたのだろう。
『ミカちゃんの事なんだけどね。もしかしたら、何か悩みを抱えてるんじゃないかなぁと思ってて』
以前、結菜に指摘された時に素直に耳を傾けていれば、ここまで辛い想いをさせなくて済んだのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる