オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第七章

68.冷やかす声

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  ーー今は3年生の球技大会中。
  順番待ちをしてる私とみちるは、校庭が一面に見渡せる階段に腰をかけて、現在行われているA組とD組の男女混合チームのサッカーの試合を見守っていた。
  E組の私たちはこの試合の次に参加する予定だ。

  昨晩はあいつのせいで眠れなかった。
  ドラマにどっぷりハマってラブ度が最高潮を迎えていた時に、突然ソファの背面に押し倒されてあいつに言われた衝撃的なセリフ。

  

『どうしたら俺を好きになってくれる?』

『お前を独り占めしたい。今から他の男に目が行かなくなるくらい俺色に染めていい?』



  恋するような眼差しを向けてあんな事を言われたら、誰だって本気にしちゃうよ。
  あいつがプロの俳優という事を忘れてつい鵜呑みにしてしまったけど、よくよく考えたら私たちはそんな関係じゃないし。
  それに、先取りサービスって何なのよ。
  意味がわかんない。


  結菜は昨晩の事を思い出しながらボーッと試合を見ていると、目線の上部からペットボトルのオレンジジュースが下りてきた。
  すかさず振り返ると、そこには体操着姿の陽翔が眩しい笑顔を向けている。



「お疲れ。ジュースどうぞ」

「わっ、ありがとう!」



  結菜はジュースを両手で受け取って喜ぶと、みちる空気を読んでサッと立ち上がった。



「二階堂くん登場したから私は退散という事で」

「気を使わせてごめん……」


「いーのいーの。お2人さん、ごゆっくり~」

「もう!」

「桜井、サンキュ」



  結菜はみちるがコートの端でスタンバイしている同じチームの男子の輪に入っていく所を見届けると、陽翔は結菜の隣に腰を下ろした。



「早川はこれからサッカーの試合に出場するんだよね。球技大会の冊子に書いてあったから」

「うん。二階堂くんはもう何かの試合に出たの?」


「出番はこれから。俺はバスケの試合に出るよ。クラスの点数稼ぎたいし」

「二階堂くんが出場したら絶対勝てるよ。相手もバスケ部員が出場したらいい試合になりそうだね。後で応援に行くね!」


「うん、待ってる」



  陽翔はニコリと微笑みながらそう言うと、地面に触れてる結菜の右手に自分の手を重ねた。
  結菜は目を驚かせると、陽翔は顔を熱らせながら言った。



「ちょっとだけこうしててもいい?  試合前に早川のパワー貰いたいから」

「えっ!  あっ、うん……」



  私達は友達以上で恋人未満の関係。
  もしかしたら、クラスメイトは私たちが交際してると思ってるかもしれない。
  だから手が繋がってても後ろめたい気持ちなんて一つもない。

  ……はずなのに。
  私は何故か人目を気にしている。

  なんか、気まずくて。
  なんか、よそよそしくて。
  どうしたらこの状況を切り抜けられるかなとか、ひどい事ばかり考えてる。
  きっと羞恥心が邪魔してるせいだと思うけど、それが彼に知られたらショックを受けるはず。

  しかし、そんな矢先……。



「あっちっち~。イチャイチャするなら他所よそでやってくんない?」



  私たちの背後で冷やかす声が降り注いだ。
  2人同時に振り返ると、そこには通行中の日向が嫌みったらしい目線を向けて去って行く。
  日向と目が合った瞬間、私は二階堂くんの気持ちも考えずにとっさに右手を引っこ抜いてしまった。

  でも、気づいた時にはすでに遅し。
  ハッとした目を二階堂くんに向けたら、彼の顔から笑顔が消えていた。



「ごっ……、ごめん!  恥ずかしくて……つい……」

「こっちこそ、いきなり手を重ねてごめんね。学校でこんな事されて恥ずかしいよね」


「……」



  結局、全く悪くない彼が謝る始末。
  雰囲気をぶち壊した私なのに……。
  彼は一切私を責めないから、心の負債が重なっていく。

  この時は、二階堂くんを大切にしていこうと考えている心とは裏腹に、いつしか芽生えていた心の変化に気づかぬまま身体が反応していた。

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