16 / 49
15.胸の痛み
しおりを挟む「あ、そうだ。星河にお守り渡さなきゃ!!」
――転倒事件から四日後。
足首の捻挫もだいぶ回復してきた頃、ポケットに入れっぱなしにしていたお守りの存在を思い出した。
早く渡さないと、約三週間後にはコンテスト本番だ。
その間バイトも休んでいたから渡す機会がなかった。よし、今日こそは櫻坂さんがいない隙を狙って……。
と思っていたけど、櫻坂さんは休み時間の度に星河の席へ。
私もタイミングを見つけるのに必死で自然とそわそわしていた。付き合いたてだからしょうがないけど、改めてみると星河と一緒に過ごしていた時間がいまは全て彼女に充てられているんだなぁと痛感した。
休み時間どころか、昼食の時間も、移動教室の時も、放課後も櫻坂さんは星河の隣にいる。当然、二人きりでいる時は声をかけづらい。
このまま渡せないのかな……。
――五時間目の音楽の授業が終わって波瑠と一緒に教室に戻ってくると、櫻坂さんは自分の席で友達と一緒に喋っていた。
つまり、いまは星河の隣にいない。お守りを渡すチャンスかもと思い、隣の波瑠に聞いた。
「ねねっ! 星河はいま櫻坂さんと一緒にいないけど、どこに行ったかわかる?」
「音楽室を出てからずっと見てないね。なに、急ぎの用なの?」
「ううん。急いではないんだけどコンテストで優勝するようにお守り買ったから渡したくて……」
私はブレザーのポケットに入れたお守りを握りしめながら周囲を見回した。
しかし、どこにも星河は見当たらない。
「ふぅん……。コンテストの為にお守り……か。それって、幼なじみの域超えてない?」
「そんなことないよ。幼なじみなら応援するのが当たり前でしょ。審査員に星河の味とセンスを認めてもらいたいし、今回のコンテストが世界に羽ばたく第一歩になるかもしれないでしょ」
「へぇ~っ。すっごい意気込み。まるで自分のことを言ってるみたい」
「小さい頃から応援してるからね。私は長年星河の味のファンだし、絶対に優勝して欲しい」
私がお守りを取り出してぎゅっと握りしめていると、それを見た波瑠は言った。
「そんなにキラキラした目でいっぱい応援してるのに、あんた自身が無自覚だからこりゃ前途多難だわ」
「えっ、何の話?」
「うわっ、気づいてないんだ」
「え? なによー! 意味がわかんない……」
波瑠の言ってることはよくわからなかったけど、残り時間を使って廊下を探しに行った。
でも、やっぱり見つからなかった。
お守りを買った時は甘く見ていた。
いつでもお守りを渡せると思っていたのは、星河との関係をもっと気楽に考えていたから。
恋人ができるということがこんなに気を使うものだとは思っていなかった。
喋ることも、呼び止めることも、待つことさえままならない。遠くから眺めてチャンスを伺うだけ。ただの友達のはずなのに、少し接近するだけで注意されちゃうくらい私たちの関係は脆い。
なんか、胸の奥がズキンと痛む。どうしてかな……。
星河が毎週のようにお菓子を渡してくれた時はどう思っていたのかな。
当然、他の人の目も気になってたよね。最近は学校でお菓子を渡してくれる事がなくなったのは、そーゆー意味なのかな。
当たり前だったことが、当たり前じゃなくなったことを受け入れるのに時間がかかる。
そして、私自身はその当たり前に戻って欲しいとも思ったりして。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~
伊咲 汐恩
恋愛
高校三年生の菊池梓は教師の高梨と交際中。ある日、元彼 蓮に密会現場を目撃されてしまい、復縁宣言される。蓮は心の距離を縮めようと接近を試みるが言葉の履き違えから不治の病と勘違いされる。慎重に恋愛を進める高梨とは対照的に蓮は度重なる嫌がらせと戦う梓を支えていく。後夜祭の時に密会している梓達の前に現れた蓮は梓の手を取って高梨に堂々とライバル宣言をする。そして、後夜祭のステージ上で付き合って欲しいと言い…。
※ この物語はフィクションです。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
この作品は「魔法のiらんど、野いちご、ベリーズカフェ、エブリスタ、小説家になろう」にも掲載してます。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる