キミの言霊は恋の色を描く

伊咲 汐恩

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4.10分後の告白

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 教室に戻ってくると、佳奈となずなが待ってましたと言わんばかりに私の元へ駆け寄ってきた。
 二人のキラキラした目を見た途端、現実に引き戻される。

「告白どうなったの?」
「もちろん勅使河原とうまくいったんでしょ!」
「えっ……」
「こらぁ~、隠さないでよ。二人だけの秘密とかなしだからねぇ!」
「耶枝が告白したんだから勅使河原も喜んでたでしょ。きっと、鼻の下を伸ばしてたんじゃない?」
「ま、まぁね……」

 残念ながら、失恋してすがりついた挙げ句に保留になったなんてかっこ悪くて言えない。そのうえ、入学直後から達成していた言霊が途切れてしまったなんて……。
 いてもたってもいられなくなり、「ちょっとジュース買いに行ってくる」と言って教室から逃げた。自販機の前に行き、スマホアプリを操作してジュースを購入。勅使河原くんのことで頭がいっぱいになりながら……。
 
 人に興味がない……か。それに、人を信じることを忘れたって。過去に辛いことがあったのかな。自分に関わってほしくないから、私を助けてくれたときに名乗り出なかったのかな。
 ペットボトルを片手にぼーっとしたまま教室に向かっていると、後ろから「あのっ」という男性の声で引き止められた。
 振り返ると、そこには先日保健室に連れて行ってくれた隣のクラスの大芝くんが。その瞬間、お礼を言いに行くのを忘れていたことを思い出す。

「柴谷さんが倒れたときに僕が保健室に連れて行ったんだけど、もう大丈夫なの?」

 またいつもの”お決まり”が伝えられる。

「あ……、うん。大丈夫。あのときは助けてくれてありがとう。お礼を言うのが遅くなってごめんね」
「ううん。全然いいよ。……実は、以前から柴谷さんのことが好きなんだ。助けたのはほんとに偶然で、なんていうか、その……」

 告白が失敗した直後のせいもあって少しだけ彼の気持ちがわかる。10分前に勅使河原くんに告白をして、10分後には別の人から告白をされるなんて、なんか変な話。

「私のどこが好きなの?」

 勅使河原くんも同じことを思ってたに違いない。片想いは一方的に想いを寄せることだから。

「渋谷さんに一目惚れしちゃって」

 相変わらず顔が目的……か。振り返れば一度も中身を見てもらえることはなかった。だから”お決まり”が嫌。

「ごめんなさい。さっき彼氏が出来たばかりだから大芝くんとは付き合えない」

 彼にそう言って場を離れた。勅使河原くんが本物の彼氏になってくれたわけじゃないのに、私ったらバカみたい……。 

「そうだ! 善は急げって言うくらいだし、早速勅使河原くんにメッセージを送ってみよっと!」

 私はスマホを取り出してから『放課後、駅前のスターマックス行かない? 勅使河原くんが来るまで待ってるね♡』とLINEメッセージを送信した。
 これが新たなる難題の火種になることも知らずに。
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