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8.俺と裕喜の過去
しおりを挟む――俺は自宅の部屋のベランダの手すりに腕をかけ、風に髪を揺らされながら夜空を見上げていた。
さっきはびっくりした。柴谷さんが見せてきた画像には驚くほど成長していた裕喜の姿があったから。唇の横のほくろが特徴的だから本人に違いない。
裕喜は小学4年生の頃からの親友だった。俺たちの間に事件が起きたのはいまから5年前の小学校からの下校中、片側道路の道端で弱ってる子猫を発見した。俺はぐったりしている子猫を抱きかかえると、いまにも死んでしまいそうなほど虫の息と知る。
「病院に行ったほうが良さそうだけど、俺たちだけで野良猫を連れて行っても受け入れてくれないよね」
「じゃあ、俺が誰か呼んでくるよ。瑠依はそこで待ってて」
「うん。頼んだ」
俺は言われた通りその場にとどまった。しばらく経つと、ポツンとなにかが頬へ落ちた。見上げると、放射状に雨が降り注いでいる。
季節は秋。風は生温かくもあるが、子猫が濡れてしまったらいまの状態が悪化すると思って身にまとっているウインドブレーカーを脱いで子猫を包んだ。守りたい小さな命。助かって欲しいと祈りながら。
どれくらい時間が経ったかわからないけど、びしょびしょになった体で子猫を抱きかかえ続けていた。
次第に街灯がつく。この時点で17時すぎ。待ち続けた時間はおよそ2時間半にも及ぶ。俺は代わり映えしない現状に苛立ちを覚えて約束をやぶることにした。
向かった先は、先ほどの場所から徒歩9分のところにある裕喜の家。
インターホンを押して扉から出てきたのは裕喜の母親だった。俺は濡れた髪のまま「裕喜を呼んでほしい」と伝えると、おばさんは全身を撫でるように見てきたあと、「ごめんね、出かけちゃったの。いまタオルを持ってくるから、ちょっと待っててね」と言って部屋の奥に消えていった。
俺は予想を遥かに超えた現状に拳が揺れた。あいつの言葉を信じてやまなかったのに。
予定があるなら先に言えばいいし、たった徒歩9分の距離だから「用事がある」とひとこと伝えてくれてもよかったのに。そしたら速攻家に帰って、母親に頼んで動物病院へ連れて行くことができたのに……。
俺はおばさんの戻りを待たずに玄関を飛び出した。悔しい気持ちでいっぱいだけど、先にやらなきゃいけないことがある。
自宅に戻ってから母親に事情を説明して車で動物病院へ向かった。受付終了2分前に病院へ滑り込んで診察してもらえることに。
子猫はそのまま入院。ケース外からスースーと眠っている様子を見てホッと胸をなでおろす。
――裕喜が俺を裏切ったのは、これで三度目。
一度目は5年生の頃、廊下に展示してある絵を裕喜がほうきで破いたくせに罪を俺になすりつけてきた。
二度目は6年生の春、父兄参観の代休日にクラス仲間と遊ぶことになったけど、集合場所が変更されたにもかかわらず連絡係の裕喜は俺にその旨を伝えなかった。おかげで一人元の集合場所で待ちぼうけに。
三度裏切りを繰り返した時点で話を聞く気にはなれなかった。砕けそうなほどの力で歯を食いしばったのはこのときが初めて。やがて人を信用するのが怖くなって人とのコミュニケーションを遮断するように。
――それから半年後。
裕喜は別の中学校へ行き、進学を機に縁が切れた。もう二度と会いたくなかったから、清々していたところだったのに……。
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