初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

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第一章

10.引っ越しの理由

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✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼



  ーーいま何時くらいだろう……。

  空を見上げると、暗闇の隙間からパラパラと小雨が降っている。
  道路脇の街灯や、車道を行き交う車、そして住宅明かりが歩道を歩いてる私と彼を照らしていた。

  時たま何処かの家の夕食の香りが鼻に漂ってくる。

  3月は暦上春だけど、朝晩は真冬のように冷え込む。
  日中に家を出たから軽装のまま。
  お腹はグゥーっと音を立てている。



  現在小学六年生の私達は、子供同士で夜遅くに出歩くのは初めてのこと。
  私達の親は遅い時間まで帰宅しない我が子を近所中探し回っているに違いない。

  でも、大人の心配とは裏腹に、私達は掴まらないように警戒しながら身を潜めていた。



「ここならきっと見つからないよ」



  彼はそう言うと、毎日のように遊びに来ている神社の本殿裏に周り、雨が降りかからない軒下に移動して建物の一部に腰を下ろした。

  二人とも服に付着している水滴を手でパッパと振り払う。
  落ち着いたタイミングで雨音のBGMに被せて言った。



「ねぇ、谷崎くんはどうして引っ越しする事になったの?」

「俺んち、両親が離婚するんだ」



  瞼を落として悲しみの表情を浮かべる彼の瞳が、私の心を窮屈にさせる。


  ーー今日、谷崎くんが他の街へ引っ越す日だった。
  でも、彼は長年住んでいる街を出るのが嫌で、引っ越し準備に取り掛かっている母親の目を盗んで、私と一緒に街中のあちこちに逃げ回った。

  そして、最終的に行き着いたのは、二人の思い出がたっぷり詰まっている街の小さな神社。


  彼は拳をギュッと握りしめると、勢いよく太ももに叩きつけた。



「母さんが卒業を機に家を出ようって……。父さんとは同じ町に暮らしたくないって。それどころか、父さんには二度と会うなって言うんだ」

「……」


「俺はこの街が好きだから離れたくないのに……。母さんは俺の気持ちなんかちっとも考えてくれねーよ」



  俯きながら力強く気持ちを吐き出す彼の瞳からは、ポロポロと大粒の涙が次々とこぼれ落ちている。
  隣に座る私にも深い悲しみが伝わってくる。
  そして、黙って話を聞いてるうちに自然と目頭が熱くなっていく。


  上着のポケットからハンカチを手に取って、彼の瞳から溢れる涙を染み込ませた。
  すると、彼は突然私の両手首をギュッと握りしめて30センチ手前まで身体を引き寄せた。



「俺、この街から離れたとしても愛里紗とは離れたくない」



  瞳の中は真剣そのもの。
  つめたく冷えきった指先からも痛いほど気持ちが伝わってくる。



「私も谷崎くんと離れたくないよ……」



  愛里紗は涙を流して声を震わせながら翔に伝えた。



  翔は離婚を決断した母親を困らせようと思って昼間から逃げ回っていた。
  自分が忽然こつぜんと姿を消したら、引越しだけでも考え直してくれるんじゃないかと思っていたから。

  一方の愛里紗は、親を困らせるつもりはなかったが翔の味方についた。
  自分が力になれば少しは状況が変わるかもしれないと思ったから。



「コレ、持っていて」



  翔がゴソゴソと右ポケットから取り出して愛里紗に手渡したのは、ラインストーンが入っているピンクのイルカのストラップ。



「これは?」

「少し前に小遣いで買ったんだ。コレ、俺とお揃い」



  翔は反対の手で色違いのブルーのイルカのストラップを指に絡ませて愛里紗に見せた。



「カワイイ……。ありがとう!  谷崎くんとお揃いだなんて嬉しい……」

「俺らが離れ離れになったとしても、このストラップがいつか引き合わせてくれるかもしれないから大切に持ってて」


「うん!  大切にするね!」



  愛里紗は顔をほころばせながらストラップを両手でギュッと握りしめていると……。
  小さな町に響き渡るほどの大きな声が段々近づき、神社の軒下に身を潜める二人の耳まで届いた。



「愛里紗~!  どこに居るの?」

「翔~!  聞こえたら返事をしてちょうだい」



  お互いの母親が一緒に探している声が聞こえると、翔は人差し指を口元に当てた。



「しっ……。話は後にしよう」



  翔は愛里紗の肩を抱いて足元に身を潜めた。

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