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第二章
22.二つのヨーヨー
しおりを挟むーー今日は町内会の夏祭りの日。
場所は普段から谷崎くんと一緒に遊んでいる神社。
レースカーテン越しに見える夕日を浴びながら、金魚柄の水色の浴衣に身を包んだ。
洗いたての長い髪は、母がかわいくおだんごに結ってラインストーン入りのピンを髪に差してくれた。
お祭りの開始時刻が近づいたので、うちわを帯に挿して慣れない下駄に足を通す。
年に一度きりの夏祭りは、仲の良い友達二人と一緒に行く約束をしていた。
「やっほー、あーりん! 浴衣かわいい~」
「ミキもノグも負けていないじゃん!」
「イヒヒ」
私達三人は普段見慣れないお互いの浴衣姿を見て褒め合う。
引っ越して来てから谷崎くんとばかり遊んでいたから、久々の女友達との外出に。
更に浴衣姿という事もあって不思議と新鮮な気持ちになった。
神社の小さな敷地の通路の両側には、所狭しと十もいかないほどの小さな露店が建ち並んでいる。
今年は初めて夏祭りに参加したけど、わんさか押し寄せている来場者数からすると、出店数は少ないような気がした。
露店前に行き交う人混みに飲み混まれてしまい、避けようとして身を縮こませていても互いの身体がぶつかってしまう。
私達三人は人混みではぐれないように、時たま手や腕を掴んでお互いの居場所を確認し合った。
焼きそば屋さん、お好み焼き屋さん、たこ焼き屋さん、フランクフルト店、わたあめ屋さん。
夕飯時の今はどの店も行列に。
食べたいものがあっても店には十数人の行列が出来ていてすんなりとは買えない。
店から漂ってくる香りを嗅ぎながら、ぐーぐーとお腹を鳴らして自分達の順番を待つしかない。
数少ない出店数の中、ヨーヨー釣り店でお手伝いをしている谷崎くんは少し忙しそうに接客をしていた。
「あれ、谷崎くん何してるの?」
ミキが一番最初に気付いて声をかける。
声に気付いた翔は、作業している手を止めて愛里紗達の方に目を向ける。
「俺、ここの神社の人達と知り合いでね。人手不足だから店を手伝ってる」
「一日しかないお祭りなのに大変だね」
「お仕事頑張ってね!」
幼いお客さんがわんさかと押し寄せ手を止められない彼に手を振ってその場から離れた。
新しい街の初めてのお祭り。
威勢のいいかけ声で近所を回るお神輿はタイミングが悪くて見れなかった。
母親に貰ったお小遣いは、焼きそばやわたあめやチョコバナナ代へ。
そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき……。
私達がお祭りで楽しんでいる中、遠目から見えた谷崎くんは休む事なく最後まで一生懸命働いていた。
賑わっていたお祭りも一通り周り終えてお腹いっぱいに。
夜が更けてきたので、私達は帰宅の途についた。
人の波に乗りながら友達と別れて神社の先の角を曲がった、その時。
「待って!」
聞き慣れた声が背後からしたので振り向くと、さっきまで忙しそうに働いていた谷崎くんが後ろから走って追いかけてきた。
「谷崎くん……。どうしたの?」
「ハァッ……ハァッ……っ、終業式の日に荷物を持って来てくれた事と、おにぎりのお礼をしてなかったから」
彼はそう言うと、先程までお手伝いしていたお店のヨーヨー二つを握りしめたまま目の前に差し出す。
「ええっ、悪いよ。荷物は先生に言われたから持って来ただけだし、おにぎりは谷崎くんに温かいものを食べさせたかっただけだから」
両手を横に振って遠慮がちにそう言う愛里紗に向かって、翔はヨーヨーを受け取らせるよう更にグイッと目の前に差し出した。
「このヨーヨー。お前が作ってくれたおにぎりみたいだろ?」
「もう!」
ニカッと意地悪を言う彼は、目を腫らして泣いていた先日から比べるとすっかり元気を取り戻しているように思えた。
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