72 / 226
第四章
70.元気のない咲
しおりを挟むーー塾の夏期講習が終了してから2日後。
空にはまだ夏の入道雲が残る中、いよいよ二学期がスタートした。
久しぶりに制服を着て、少し懐かしい教室の香りを無意識に嗅ぐ。
一学期最後の座席が何処だったか忘れてしまって記憶を遡りながら探した。
クラスメイトは、夏休み中の話題で盛り上がっている。
咲に夏休みの話題を面白おかしく話しても、話が耳に入っていないような空返事ばかり。
今日は元気がない。
時々フーッと声が漏れそうなほど深い溜息をついている。
先生が教卓に立っても、手元のシャープペンをクルクルと回して手元に目線を向けたままぼーっとした様子。
愛里紗は休憩時間に咲の元へ向かい、元気がない原因を探る事に。
「今日は元気がないよ? もしかして彼と何かあった? それとも両親がまた喧嘩したの?」
「ううん、何でもないよ」
「何かあったらいつでも相談にのるからね。遠慮なく何でも話して」
「うん、ありがとう」
該当しそうな要因をいくつか挙げてみたものの、当てはまるものは一つもない。
顔色があまり良くないし、語ろうとしない様子からすると、何となく話したくないのではないかと思った。
午前日課の為、日が高い時間に下校。
9月に入ったとはいえ、まだまだ日中の日差しは強くて焼け付くように暑い。
学校から一緒に帰っていた咲とは駅の改札を通り過ぎてからバイバイした。
今日は終始笑顔がない事がとても気になっていたが、必要以上に問い詰めなかった。
愛里紗と別れた咲は駅の階段を上ろうと足を踏み出した瞬間……。
突然背後から現れた誰かにグイッと手を強く引っ張られた。
「きゃっ!」
思わず悲鳴が飛び出す。
咲は胸をドキドキさせながらゆっくり振り向くと、そこにはおととい渋谷で会ったノグの姿が。
咲にとってノグは今一番会いたくない人。
そして、翔との関係を唯一知っている。
「駒井さん。話しようか。少し時間ある?」
「……うん」
厳しい目つきのノグに観念した咲は、額に汗を滲ませながら素直にコクンと頷いた。
先導するノグ。
そして、今にも逃げ出しそうなほど動揺している咲。
二人は上下線の階段に挟まれた駅構内のカフェに入った。
店内は窓側に並ぶカウンター席と、二人がけのテーブル席が十二席。
昼時という事もあって、サラリーマンやOLや学生などの客が入り混じっていて満席に近い。
ノグと咲はレジでそれぞれ紅茶をオーダー。
カウンターから紅茶を受け取って空いたばかりの席に座った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる