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第六章
118.期末テスト
しおりを挟む12月の第一週目の今日から、二学期の期末テストが始まった。
裏返しで配布されたテストの問題用紙と解答用紙を、本鈴のチャイムと共に一斉に表に返さえた。
教室内は物静かで緊張感に包まれながらも、テスト期間前までに覚えた知識をフルに絞り出して、それぞれの解答用紙に結果を残していく。
昨日、谷崎くんとの念願の再会を果たした。
……ううん、彼はもう谷崎じゃない。
名字が今井に変わっていた。
でも、それ以上に衝撃的だったのは、咲と半年間交際していた事。
偶然とはいえ、現実がすんなりと受け入れられない。
将来を心配している母の期待に応えようと思って、普段より早めにテスト対策をしていたのに、昨日は嵐のように心をかき乱されてしまったせいか集中力が欠けていた。
ペンの滑りが悪くなっている解答用紙。
丸暗記したはずの簡単な方程式が思い出せずに、解答用紙に無意味にペンでトントンと叩く。
欠いた集中力と、壊れそうになっているハートのバランスが一定に保てない。
情緒不安定になっているせいか、涙が滴りそうになっていたから唇を強く噛み締めた。
静まり返っている教室内には、ズビッと鼻をすする音が漏れる。
だから、これ以上音が漏れないように息を止めた。
涙が出たら、あくびのふりをして制服の袖で拭えばいい。
小学生時代から昨日までの谷崎くんの姿を思い描き、すっかり興奮してしまった昨日は、帰宅後も勉強が手付かずで夜の寝付きも悪かった。
登校してからまだ咲と話してない。
今日からテストだから教室内はピリピリしていたし、昨日の咲達は何となく気まずい雰囲気に見えたから声をかけづらかった。
昨日は『明日話そう』って言っていたけど、一体何の話かな。
私がアルバイト先に出向いた事がやっぱり嫌だったから、それについて?
それとも、『彼と喧嘩していたけど、あの後に仲直りしたよ~』的な話?
でも、彼氏が谷崎くんだと知ったばかりだから、その話ならあまり聞きたくないかな。
愛里紗は昨日の事を延々と考えて気を落としてる間にテスト終了のチャイムが鳴って、解答用紙は席の後ろから順々に回収されていった。
「起立。………礼」
担任教師の終礼と共に期末テストの初日を終えた。
帰り支度を始めて次々と教室を出て行く生徒達は、まるで閉じ込められていた空間から解放されたかのように安堵の表情を伺わせる。
愛里紗も他生徒と同じく帰り支度をしていると、先に身支度を終えた咲は左肩に学生鞄をぶら下げて横から現れた。
咲は一晩泣き腫らしてパンパンになっている愛里紗の顔を見た瞬間、目をギョッとさせる。
「愛里紗。顔っ……」
「寝不足で腫れただけだから気にしないで」
笑って誤魔化したけど、何処か無理していた。
「今から少し時間ある? 大事な話があるから……」
「いいよ」
昨日、谷崎くんと手を繋いで交際宣言をしたあの瞬間から、咲は谷崎くんの彼女という見解に。
高校に入学してから一番身近な存在だったのに、今回の件で少し距離が生まれたような気がした。
他人事だと思っていた恋の応援は、知らぬ間に他人事ではなくなっている。
愛里紗は無言の咲の背中について歩き、昨日約束していた話をする為に校内の中庭へと場所を移した。
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