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第六章
119.大事な話
しおりを挟む到着してからベンチに腰を下ろした。
重い口がなかなか開けず、僅かに聞こえる周囲の音だけを拾っている状態に。
普段なら絶え間なく笑い合っているのに、今は二人して口を閉ざしている。
喧嘩をしてる訳でもないのに微妙な空気が流れているせいか、まるで恋人が別れ話をしているような雰囲気に。
表情が暗いから、やっぱり谷崎くんと何かあったのかな……。
なんて思いつつも、人の気持ちを気にしている余裕はない。
「あのね、愛里紗に言ってなかった事がある。今から大事な話をするから、最後まで聞いてくれる?」
「うん。何かな?」
咲はベンチに腰をかけてから2分後くらいに話を始めた。
この時点では、昨日店に訪れた事や、場の悪いところを見せてしまった件についてだと思っていた。
だが、咲はしなだれた髪で隠れ気味の口元から少し声を震わせて話し始めた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
中一の2月の終わり頃に何処かで落とした生徒手帳を職員室に届けてくれたのが翔くん。それが最初の出会いだった。間近で見た瞬間、瞳がきれいで瞬きをする間もなく恋に落ちた。
二年生で同じクラスになると、彼はいつも寂しそうに空を眺めていた。そんな様子を見る度に何を考えてるんだろうって。でも、後で知った。彼の両親は離婚をしているという事を。
同情している部分もあったけど、母性本能が刺激されて笑顔を取り戻してあげたいと思うように……。それから、告白をしてはフラれての繰り返しに。
進学を機に愛里紗と出会った。傍で支えてくれる優しさに心癒される日々を送り、いつしか何でも話せる親友に。
しかし、入学して半年経った頃から両親は不仲に。心の行き場を失う生活が始まった。不安な心はやがて翔くんに受け止めて欲しいと強く思うように。ロクに話した事もない相手を好きになるのは考えにくい話かもしれないけど、常識を覆すのが恋。
いつしか与えてあげたい気持ちと、与えてもらいたい気持ちに歯止めが効かなくなっていた。
三度目の告白しようと思って、相談するつもりで愛里紗の家へ。
しかし、そこには想像を絶する展開が待ち受けていた。
部屋のベッドに腰を下ろすと、机の上の開きっぱなしの卒業アルバムが目についた。
一旦興奮を落ち着かせる為に、アルバムを見せてもらう。
アルバムの中の愛里紗は幼くて可愛らしい。
いま現在は、明るくて、優しくて、ノリが良くて、芯がしっかりしていて、正義感があって、少しおっちょこちょいで、素直な性格。
昔から変わりないのかなぁと思って、当時はどんな子だったかと聞くと、愛里紗は話の延長線上で初恋の彼の話を始めた。
15分~20分くらい時間を忘れたように語っていたから、興味が湧いて初恋相手がどの人だか知りたくなった。
教えてもらったら、次は私の番。
告白の決意を伝える環境が整っていき、そのまま翔くんの話へ移行するつもりだった。
……でも、この人が初恋相手だと指をさした先に目を向けると、運命のイタズラとしか言いようがなかった。
何故なら、そこには幼き翔くんが写っていたから。
それを見た瞬間、決意を伝えようとしていた口が自然と閉ざされた。
中二の初めての告白の時、彼は『ごめん、忘れられない人がいるから』と言って断った。
あの時に言っていた『忘れられない人』とは、恋する瞳でアルバムに写る幼き翔くんを見て思い懐かしんでいる愛里紗だと悟った。
勿論諦めるつもりはなかったけど、この瞬間から焦っていた。
互いが忘れきれてない分、不意に再会してしまったら勝算はないと。
だから、急遽予定を前倒しにして翌日告白に行った。
愛里紗に同じ髪型にしてと注文したのは、身なりだけでも近付けば少しは彼の気を引けると思ったから。
当時はそれが悪いと思わないくらい思い詰めていた。
少しでも自分が有利になる方法はないかと考えたところ、両親の不仲という共通の悩みに行き着き、支えて欲しいと伝えた。
すると、彼は『好きになるかは分からないけど』と言って気持ちを受け入れてくれた。
きっと同じような境遇の私に同情したんだと思う。
でも、彼自身も忘れられない人への踏ん切りがついたかと……。
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