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第六章
120.都合のいい盾
しおりを挟むうんともすんとも言わずに冷静に話を聞いていたけど、到底納得がいく話ではない。
好きだからとはいえ、私が谷崎くんに会いたがってた事を知りつつも、自分と同じ髪型をさせて告白に行った事がどうしても許せなかった。
繋がる。
繋がる繋がる……。
繋がるっ…………。
卒業アルバムを見た時の驚き様や、彼の名前を聞いた時の戸惑い方や、谷崎くんと判明しないように敢えて新しい名字で名前を言ったり、咲の家で中学時代の卒業アルバムを開いてたら物凄い剣幕で取り上げたり。
自慢気に彼氏の話をしてたのに、写真も見せないし、名前すらはっきり答えないなんて怪しいと思ってた。
「……ひどい。信じられない」
愛里紗はか細く震える声を発すると、その場から勢いよく立ち上がった。
ハッと見上げた咲は顔面蒼白に……。
だが、ノグに話を伝えた時のように、しっかり話し合えばわかってくれるものだと思っている。
「まだ話はまだ終わってないの」
「何言ってるの? これ以上話す価値なんてない」
愛里紗は既に限界を迎えていて、ワナワナと身を震わせた。
ーーしかし、次の瞬間。
思いも寄らぬ言葉が耳に届く。
「だって、愛里紗には理玖くんがいるじゃん」
咲は宥めるどころか、理玖の名前を挙げるとキュッと唇を結んだ。
愛里紗は耳を疑うあまり目を丸くする。
「えっ……」
「私も愛里紗もそれぞれ新しい道を歩んでいるんだよ。愛里紗には愛してくれる理玖くんがいる。でも、私には翔くんしかいない」
「咲……」
「だからお願い。翔くんの事は忘れて欲しい。……勝手で申し訳ないけど、後悔するくらい反省してるから、今までの事も許して欲しい」
咲はそう言って隣に立つ愛里紗に切実な目を向けた。
だが、愛里紗は身勝手な思考を押し進める咲が許せなくなると、全身の脈が暴れ出すくらい大きな鼓動に包まれた。
ドクン……ドクン……
何……言ってるの。
私が交際を思い悩んでいた時、咲は自分の恋を守る為に理玖を勧めていたの?
理玖と付き合えば、谷崎くんと再会しても諦めがつくから?
全て自分の幸せの為?
バイト先で谷崎くんの彼女だと知らしめる為に、わざわざ目の前で紹介したり手を繋いだりしたの?
最低……。
それに、理玖は都合のいい盾じゃない。
万が一、谷崎くんに会えたとしても先々を決めるのは咲じゃない。
私が会いたがっていたのを知ってて裏切ったんだから、悪意しか感じられないよ。
私自身が裏切られてるのに、反省してるから許してと言われても許せる訳ないじゃん。
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