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第六章

133.1日ぶりの自宅

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  ーー街を包み込んでいる空が静寂に包み込まれた頃。
  翔と別れた愛里紗は、一日ぶりに自宅に戻った。

  インターフォンのモニター越しの母の声が届くと、ダークな声のままインターフォン越しに伝える。



「ただいま……」



  約一日ぶりの娘の声を聞いた母親は、バタバタと足音を立てながら玄関扉を勢いよく開けた。
  心配している表情に目線を合わす気などない。



「愛里紗、昨日はごめんね。あんたの言う通りお母さんが間違ってた」



  母の第一声は昨日の謝罪。
  だけど、受け入れる気などさらさらない。



「ごめんなさい」



  無表情のまま小声で謝ったのは、無許可のままノグの家に泊まりに行った事。
  家を飛び出して心配かけた事に違いないから、それについて謝っただけ。

  手紙を隠した事は簡単に許せる問題ではない。
  だから、今はどんなに頭を下げても、これ以上の言葉をかける気はない。



  家に上がろうとして玄関床に目を向けると、そこには男性用シューズが揃えられていた。
  そのシューズは父親のものではない。



「理玖くんが来てるから早く部屋に行ってあげて。あんたの帰りをずっと待っていたから」



  そう……。
  足元に置いてあるのは理玖のシューズ。
  デートをすっぽかした挙句、一日以上連絡を絶っている私を心配して来てくれたのだろう。

  時計の針はもうすぐで20時。
  一体いつ頃から待ってたの……。



  愛里紗は二階に上がって部屋の扉を開けると、理玖は正面のベッドに腰を下ろしていた。
  肘杖つき口元に両手を当てて、見たこともないような険しい表情をしている。


  理玖は帰宅に気付くと、上目遣いで目線を合わせた。
  すると、愛里紗は罪悪感で胸がチクッと痛む。



  さすがの理玖でも、デートをすっぽかした上に1日以上も音信不通だったから怒ってるに違いない。

  ーーそう思ったのも束の間。
  理玖はベッドから立ち上がって愛里紗の手を引くと、両腕で包み込むように抱きしめた。

  ガバッ……


  ぴったりと隙間なく密着した身体。
  お互いの鼓動が伝わりそうなほど腕は力強いし、少し苦しい。



「……っ良かったぁ!  身が無事で」

「えっ」


「事件や事故に巻き込まれてたらどうしようかと思ってた」

「理玖……」



  理玖は約束をすっぽかして音信不通だった事に怒ってた訳じゃない。
  空白の間にずっと私の身を案じていた。

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