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第九章
192.繰り返される悪口
しおりを挟むーー昼休みは残り10分を切って、咲の手作りクッキーを配りに行った先の四組の教室から出て来た私と咲は、自分達の教室へ向かっていた。
その道中、紛失してしまったネックレスの話を伝えた。
「えーっ! ハートのネックレスを落としちゃったの? あんなに気に入ってたのに……」
「うん。フックが弱っていたのが原因だよね。だから、今日はバレンタインを楽しむと言うよりも、ネックレス探しがメインになるかも」
「校内とか学校の付近とか、駅方面は探してみたの?」
「登校中に簡単に目で探したり、あちこち聞いて回ったんだけど、何処にも見当たらなくて」
「そっかぁ……。じゃあ、ネックレスを探しながら帰ろうね」
「ありがと。今日中に見つかるといいなぁ」
ネックレス探しに協力的な姿勢を向けてくれた咲と教室前の廊下を歩いていた、その時。
「さっきさぁ、駒井が教室で堂々とクッキー広げててさ。男に配るつもりでわざわざ見せびらかしてるんだろうね」
三組の教室の向かい側にあたる階段から、以前と同じように咲の悪口が繰り広げられていた。
それが耳に届いた瞬間、肩を並べて進めていた足は二人揃えるように階段横で止まった。
咲と同じタイミングで声の主を辿るように階段に目を向けると、上り階段に直座りしてる二人と、向かいに立つ一人の計三人組が、髪をいじったり鏡を見てメイクを直したりしながら談笑していた。
その三人組とは、以前から咲の悪口をしつこく繰り返していた一組の女子達。
「フリーの男子に配る為にいっぱい作ったんじゃない?」
「とりあえずクッキーをばら撒いて気を持たせる作戦なのぉ? やっばぁ!」
「わはは! あいつならあり得る~。ブサイクのクセに巧妙な手口だねぇ。バレンタインだから気合い入りまくってんじゃないのぉ?」
三人組は以前と同じように悪口を執拗に続けている。
咲は悪口が始まった日から今日まで、出口の見えないトンネルで彷徨い続けていた。
悪口は注意したあの日以来聞かなくなったし、二度に渡って止めるように伝えたから少しは収まっていたと思ってたのに、どうしてわかってもらえないのだろう。
我慢の限界を迎えた愛里紗は、三人組の方へ乗り込もうとして階段側に一歩身を乗り出した。
咲は異変を察知すると、愛里紗の右腕を掴む。
「何しに行くつもりなの?」
「決まってるでしょ。咲の悪口をやめるように伝えに行くんだよ」
「そんな事しなくていい。あの子達なら放っておけばいいよ。私なら気にしないから」
「だって、言いたい放題でムカつくじゃん。咲の悪口なんて耐えられないし、絶対許せない!」
咲は愛里紗にこれ以上迷惑をかけたくないと思って、行かぬように引き止めた。
「私なら大丈夫だから。いちいち相手にしていたら相手の思うツボだし、そのまま放っておけばいつかは忘れるよ」
「悪口を聞き始めてからもう1年経つよ? 悪口は収まるどころかエスカレートしていく一方じゃん。もう我慢出来ないし黙ってられない」
咲は行く手を阻もうとするが、私はとうに堪忍袋の緒が切れている。
今回もまた注意をして、もう二度と悪口を言わないように釘を打っておこうと思っていた。
ところが……。
「駒井がブサイク? おいおい、顔をよく見てみろよ。お前らより100倍以上かわいいし、100倍以上性格がいいけどな」
階段側から三人組の方へ向けられた太く低い声が、付近で佇んでいる私達にも届いた。
目線を向けると、階段下からゆっくり現れた木村が三人組の前に立った。
気分を害された三人組は足を立たせて横並びになると、腕組んで木村に怒りの矛先を向けた。
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