195 / 226
第九章
193.一方通行の恋
しおりを挟む「バッカじゃねーの。アタシ達の話にめり込んで来るんじゃねーよ。お前マジでキモいんだけど」
「盗み聞きなんて趣味悪くない? 黙ってあっち行ってな」
「やっぱり駒井が好きなんじゃねーの?」
「木村と駒井、結構お似合いよ~」
「告って付き合っちゃえよ」
「何? アタシ達が木村の恋のキューピット役? 超笑える。キューピットなんて勘弁してよ」
三人組は、割って入ってきた挙句に咲を守る木村が気に食わず集中攻撃のターゲットに。
一方、緊迫している状況を目の当たりにした私達は、静かに様子を見守る事にした。
木村は嫌味に一切耳を貸さず、凛と立ち向かう。
「お前らはどうして駒井の悪口を言うの? 悪意がなかったとしても、この話が本人の耳に入ったら傷付くだろ。それに、俺がこの場から離れるのは、お前らが悪口をやめてからだ!」
きっぱりとそう言うと、三人組は嫌気に満ちた目で互いに合図し合った後、鼻であしらいながら再び冷淡な目を向けた。
「説教くせぇ奴。木村ごときが偉そうに」
「あんたが勝手に話に突っ込んで来たんだろ。あんたが先に引っ込めよ」
「いいよ、沙織。こんな奴相手にするのも面倒臭いからあっち行こ。こんなのと話してても時間の無駄無駄」
三人組は去り際に嫌味ったらしくひとことずつ文句を言って、正面の木村を避けながら順々に階段を下りて行った。
「ばぁーか、勝手に駒井と仲良くやってろよ」
「お熱い王子様ですこと。オホホ」
「アタシ達に説教してんじゃねーよ。てめぇは不愉快なんだよ」
木村は暴言に頭にきていたが、最後までじっと耐えていた。
私達がいる廊下から木村までの距離は、およそ4メートル。
当然、私達がすぐ側にいるなんて気付くはずもないし、やり取りが張本人の耳に入ってる事すら知らない。
それでも、最後まで男らしく咲の存在を守り抜いた。
三人組を見届けている木村の背中を瞳に映した私達は、お互い口を黙らせたまま。
ふと咲の様子が気になって目線を当てると……。
ボンヤリしたような目から大粒の涙を左右非対称にポロポロと滴らせていた。
目線の先には階段に一人取り残されている木村。
僅かな感情を覗かせる咲に思わずひとこと漏れた。
「咲……」
「………わかってる。わかってるから、何も言わないで」
震えた声でそう言うと、俯きざまに滴る涙を右手の甲で拭う。
咲の言葉は核心を得るものじゃなかったけど、その意味がわかったから隣からそっと手を握った。
翔くんが忘れられない咲。
その傍らで咲を思い続けている木村。
一方通行の恋。
まだ未来はぼやけてるけど、咲に明るい未来が訪れる事を心から願っている。
0
あなたにおすすめの小説
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる