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第九章
194.隠しきれない感情
しおりを挟むーーバレンタイン当日の放課後。
駅までの道のりを咲と一緒に目で追いながら紛失したネックレスを探し歩いた。
でも、行きと同様どこを見回ってもネックレスは見つからない。
口から溢れる深い溜息と。
瞼の中に滲み出る涙。
消えたネックレスの行方にショックと動揺が隠しきれない。
次第に口数が減っていくと、咲は落胆している私に「すぐ見つかるといいね」と言って励ましてくれた。
駅の改札を過ぎたところで咲と別れてから1分と待たずに到着した電車に乗り込む。
扉に寄りかかり、コートのポケットからスマホを出して理玖にこれから待ち合わせ場所に向かう事と、ネックレスが見つからなかった件をSNSメッセージで報告した。
地元駅に到着してまばらな人並みに紛れ込んで行くと、理玖は改札の向こう側で到着を待っていた。
すぐに気付いてくれたけど、そこにはいつものような屈託のない笑顔じゃなくて、昨日別れた時よりも少しだけ晴れた表情だった。
一歩一歩距離を縮めていく度に、ネックレスを落としてしまった罪悪感と、本音を誤魔化す自分に胸が締め付けられていく。
でも、いつまでもモヤモヤしてられないから、無理に口角を上げて普段通りの自分を演じた。
「理玖~! お待たせ」
「よーしっ! じゃあ、ネックレスを探しに行くか」
「うん、ごめんね」
声をかけた途端、理玖は声を明るいトーンに上げて指を絡ませてきた。
だから、指先に力を加えて握り返す。
私は理玖の彼女だからこれが正解。
こうやって、一つ一つの事をしっかり心に言い聞かせながら、いつも通りの平和な日常に戻っていく努力を始めた。
「ネックレスを落とした場所の心当たりは?」
「昨日から考えてるんだけど見当がつかないの。今朝は通学路や駅や交番へ聞き回ったんだけど見つからなくて。学校にもないし、学校の最寄り駅にもなかった」
互いに目線を下に向けて紛失したネックレスを探し歩きながら、絡んだ指先と共に会話を繋いでいると……。
「あんまり聞きたくないけど……、あいつ……と会った場所とか」
理玖は言葉を途切れさせながら床に目をやっているが、繋いでいる指先に力が加わっていく。
それは、隠しきれない感情が露わになった瞬間だった。
「もしかして、ヤキモチ妬いてる? 指……痛いし」
「ごめん……。俺、やっぱりそうなのかな。あんまり余裕ないし……」
理玖は口元を左手で押さえて、駅の天井を見上げて拗ねた表情を隠した。
理玖は普段から気持ちをストレートにぶつけてくるタイプだけど、言葉以上の気持ちが今は指先一つから伝わってくる。
そんな小さな仕草が更に気持ちを追い込んでいく。
「あの時は翔くんに話があるって駅で引き止められて……。二人で駅ビルのカフェに入った」
俯きながら重い口を開いた。
別に責め立てられている訳でもないのに、まるで浮気の言い訳をしているかのよう。
「じゃあ、今からその店に行って落し物で届いているか聞いてみよう」
理玖はモテモテだから気持ちに余裕があるように見えていたけど、私の事になると目の色が変わる。
口には出さなくても、昨日の一件が理玖の言葉や仕草で本当に嫌だったんだなと痛感させられる。
それに、人前で怒ったり強引にキスをしようとした事なんて今まで一度もなかった。
理玖は私を手放したくないから。
翔くんに奪われたくないから。
私がはっきりと気持ちを伝えないから、不安色で覆われていた。
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