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第九章
195.代わりがきかないネックレス
しおりを挟むそれから昨日翔くんと行ったカフェに出向いて、店員にネックレスの件を尋ねた。
でも、見つからなかった。
ショックが重なると、店を出てから深いため息が溢れる。
すると、理玖は頭をポンポン二回叩いた。
「諦めるしかないな。代わりに新しいのを買ってやるから」
「ううん、新しいネックレスじゃダメ。もう少し探したい」
「愛里紗」
「あのネックレスじゃなきゃダメ! 理玖から貰ったあのハートのネックレスじゃなきゃ……。代わりなんてないから」
愛里紗は、今は無きネックレスの定位置に手を当てながら感情的になって涙を零した。
紛失したネックレスは理玖自身。
私が大切にしなかったから姿を消してしまった。
だから、翔くんを忘れる決意と理玖を大切にしていく為にネックレスに執着していた。
理玖は涙がポロポロと溢れ落ちていく愛里紗を見ると、肩を組んで穏やかな目を向けた。
「じゃあ、暗くなるまで探すか」
「うん……」
カバンの中から取り出したミニタオルで涙をひと拭きしてから、カフェに背中を向けて再びネックレスを探しを始めた。
昨日翔くんと駅で会った後は、そんなに歩き回ってはいないから、記憶を頼りに二人で分担しながらカフェ付近を探し回った。
すると、店を出てから5分もしないうちに、4メートルも離れていない理玖から思わぬ歓喜の声が上がった。
「おい! あった! 愛里紗ー! ネックレス見つかったよ」
「嘘っ! どこに?」
「ここに落ちてた」
理玖は地面にキラリと輝いているネックレスを跪いてつまみ上げると、ニカッと満面の笑みを浮かべた。
ーーしかし、ネックレスが落ちていた先。
そこは長年温めていた気持ちを吐き出した翔くんが背中から抱きしめてきた場所だった。
「見つかって良かったな。もう落とすなよ」
理玖は私の目の前に来て、受け皿にしている両手にネックレスを滑らせた。
その瞬間、翔くんに抱きしめられた姿がフラッシュバックしてしまい、無邪気な笑顔でネックレスを渡す理玖に申し訳なさでいっぱいに。
「ここに落ちてたんだ……」
一日ぶりにネックレスの重みを感じると共に掠れた声が漏れた。
しかし、よく見てみると足で踏みつけられてしまったかのようにハートを囲んでいるフレームが歪んでいる。
落とす前までは綺麗な形を保って輝き続けていたのに、落としてしまった後は一晩冷たい雨にさらされた挙句に傷を負いながら持ち主が現れるのを待ち望んでいた。
ごめんね。
寂しかったでしょ。
辛かったでしょ。
一人ぼっちにしちゃってごめんね。
後悔の念に苛まれた愛里紗は、ネックレスに謝るように両手で握りしめて、溢れ出す涙を抑えるようにネックレスの入っている拳を目に当てた。
「壊れちゃった……。お気に入りだったのに」
「また買ってあげるから、そんなに泣くなって」
「ううん、これがいい。このネックレスじゃなきゃ意味がない」
「愛里紗……」
「理玖から貰った日から宝物だから、今まで壊さないように毎日身に付けて大切にしてたのに」
愛里紗は自分に強く言い聞かせるようにネックレスを強く握り締めた。
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