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第九章
202.本音
しおりを挟む「咲……」
「理玖くんはセンスがいいから、またアクセサリーをプレゼントしてくれたりして」
「……」
「愛里紗はいいな。いつも大切にされてるから幸せだよね。きっと、マフィンも喜んでくれたんでしょ」
「咲……」
「ネックレスも理玖くんが見つけてくれたんだよね。愛里紗には優しくてカッコイイ彼氏がいるから羨ましいよ」
咲の涙を見てから目を覆いたくなるような過去が脳裏を駆け巡っていたけど、理玖の話題まで着手された途端、頭がいっぱいに……。
「さっきから理玖、理玖って……。どうして都合が悪くなったら理玖の話をするの?」
「えっ……」
「いつもそう。話を逸らせば翔くんを思い浸ってる姿を誤魔化せるとでも思った? しかも理玖を都合よく巻き添いにしないでよ」
気付いた時には本音と感情をむき出しにしていた。
走り出した感情はブレーキが効かないくらい先を行く。
「私、そんなつもりじゃ……」
「辛いなら辛いって言えばいいじゃん。別れてからも忘れられないって。卒業アルバムをこっそり見るくらい好きだって。咲はどうして本音を胸の中にしまうの? 」
「愛里紗……」
「何よ……。バカみたいに遠慮しちゃってさ。素直になればいいじゃん」
「…………」
私達は仲直りしてからも本音でぶつかり合わなかったから、いつまで経っても間の壁は取り払われなかった。
仲直りしてからも心の距離が存在している。
「私達は親友なのに溝がある。咲だって気付いてるでしょ? 私は咲が大好きなのに何の力にもなれてない!」
私達の間に価値のない時間なんて存在しない。
咲と過ごした約2年間は、私にとって代わりが利かないくらい大切な宝物だから。
それに、感情を誤魔化す為に理玖の話題へシフトしたのも気に食わなかった。
「ごめん。……愛里紗、ごめんね」
咲の充血した瞳からは、大粒の涙がポロポロと不揃いに滴る。
それを見た瞬間、ハッと我に返って必要以上に責めた事を後悔した。
咲は様々な事情が入り組んで傷付いてる事を誰よりも知っているのに、あと少しの配慮が足りなかった。
「ごめん……。言い方がキツかった」
咲とはもう二度と喧嘩をしたくないから、反省と同時に頭を下げた。
すると、咲は指先で涙を拭って首を横に振る。
「……ううん、私が悪かったの。確かに愛里紗の言う通り、胸の内を語るかどうか悩んでた。でも、本音で言っていいなら遠慮なく言うね」
「うん……」
「愛里紗は親友だけどライバルだった。残念ながら、翔くんは今でも愛里紗が忘れられないんだよ」
「咲……」
「私、どう足掻いても愛里紗には勝てないの。普通、あれだけ意地悪をされたら嫌いになるよね。自分でもどれだけ惨めな人間かわかってた。でも、愛里紗は私を嫌いになるどころかいっときも手を離さなかった。
ケンカをしてても悪口を言ってる一組の子達の中に突っ込んで行って、「咲は小さい頃から教師になるのが夢なんだよ」って、「悪口を言っていいのは親友の私だけだよ」って。溢れんばかりの愛情で包み込んでくるんだもん。そんな人に勝てる訳がない。本当は諦めたくないし、無意識に写真を見たくなってしまうほど恋してる。
でもね、翔くんの好きな人が愛里紗だから諦められる。今この瞬間も私を心配してくれてるし、感謝の気持ちしかない。……親友でいてくれてありがとう。ライバルでいてくれてありがとう。世界で一番愛里紗が好きだよ」
咲はそう言うと、肩を震わせながら涙を溢した。
愛里紗は想いが充分に伝わると、あっという間に目頭が熱くなった。
「ありがとう……。私も咲が大好きだし、これからもずっと親友でいたいと思ってる。……それと、いっぱいごめんね」
咲を固く覆っていた鎧がポロポロと剥がれていくうちに、私も涙が止まらなくなった。
本音を吐かせつつも自分は本音を吐く事が許されない。
だから、同時に謝った。
心の中に健在している翔くんへの想い。
それに加えて、翔くんが今でも私に恋心を寄せている事に気付いている。
咲、ごめんね。
ズルいよね、……私。
これからも咲を大切にしていきたいから、翔くんへの恋心は胸の中にしまわせてね。
その代わり、翔くんとの関係は断ち切るから。
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