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第九章
201.見てはいけない現場
しおりを挟むーー今日は数ヶ月ぶりに咲が泊まりに来た。
離婚した両親の元を離れた後は、実家の近所でお兄さんと一緒にマンションで暮らしている。
咲は新生活の家事に追われて泊まりに来るのは随分久しぶりだった。
我が家は相変わらず父は出張で不在の為、夕飯は咲と母と私の三人で済ませた。
今日のメニューは咲の好きなカレーライス。
母は肉と野菜を炒める時に必ずにんにくも一緒に投入。
隠し味にすりりんごも入れるほどカレー作りに拘っている。
母の腕前は確かなのに、娘の私は料理のセンスがない。
普段からお手伝いをしないから当たり前か。
咲は華奢なのに、お代わりしちゃうほど母のカレーが好きだ。
まるで友達のように仲が良い私の母と久々の再会に、食卓には柔らかな笑顔が三つ揃った。
ところが、ここ最近咲との関係が良好で平穏に過ごしていた私に、再び心を乱される事件が起こった。
私達は食事を終えてから一旦部屋へ移動した。
じゃんけんで私が先にお風呂に入る事になり、咲には部屋のテレビを観て待っててもらう事に。
約30分後、お風呂から出て部屋の扉を開けて機嫌良く声をかけた。
「咲~。次お風呂どうぞ~!」
……と言って扉の奥の咲の背中を見た途端、1秒前の笑顔が消えた。
何故なら、咲は本棚前で小学校の卒業アルバムを開いてすすり泣きしていたから。
てっきりテレビを観て待ってると思ってたのに、悪い意味で予想を裏切られる事に……。
それは、心の傷があからさまになった瞬間でもあった。
「咲……」
多分見てはいけない現場だった。
でも、気づいた時には呟いてた。
咲は背中から声を聞き取った瞬間ハッと驚くと、目をゴシゴシ擦って不自然な笑顔で振り返った。
「あはは……、アルバムを勝手に見ちゃってごめんね」
目を細めて笑っても、誤魔化しようが無いほど目が充血している。
「あ、ううん……」
軽く首を横に振ったけど、正直どう反応したらいいか分からない。
咲はアルバムを本棚に戻すと、普段通りの明るい声で言った。
「あっ、そうだ! そろそろホワイトデーだね。理玖くんは何をプレゼントしてくれるのかな」
アルバムを開いたという事は間違いなく翔くんを見ていたのに、話題を逸らして心境を隠した。
翔くんの件に触れて欲しくないという態度が丸見えな上に、関係がギクシャクし始めている理玖の話題。
わだかまりはやがて風船のように膨れ上がる。
「咲……」
「いいなぁ。バレンタインは頑張って手作りしたからお返しが楽しみだね」
バレンタイン前日の件を伝えてないから、咲は私の悩みを知らない。
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