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第九章
205.会いに来た彼
しおりを挟むーー神社を訪れた日から一夜明けた、日曜日の夕方。
おじいさんからのアドバイスを思い巡らせて一日中ボーッとしていた私に思いもよらぬ急展開が訪れた。
ピーン ポーン……
インターフォンが鳴って、リビングにいる母親が受話器を取ってモニター越しに問いかけた。
「はい、どちら様でしょうか?」
『今井と申しますが、愛里紗さんはご在宅でしょうか?』
「えぇ、少しお待ち下さいね」
母親はマイク部分に手を添えると、大きな声で二階の部屋にいる愛里紗を呼んだ。
ベッドに転がっていた愛里紗は呼びかけに気付くと駆け足でリビングに向かった。
受話器を受け取ってモニターに目を移すと、そこには翔の姿が。
急展開に思わずドキッとする。
母親は、名字が変わってすっかり大人びている翔が、小学生の卒業式の日に愛里紗と泣き別れた谷崎と同一人物という事に気付かない。
また翔くんに会えるなんて思いもしなかった。
もう二度と会えないと思っていたから、急に会いに来ても心の準備が整わない。
玄関扉を開けると、門の先には等身大の翔くんの姿が。
残念ながら、姿を見るだけでも自然と意識が吸い寄せられていく。
「いま、時間ある?」
「うん……」
「話をしよう」
無表情でそう言う彼に黙ってコクンと頷いた。
部屋に上着を取りに行ってから、門で待機している彼の元へ。
彼は目線を外すと、後について来るようにと無言で背中を向けた。
一体、何の話をするんだろう。
先日は突き放すような言い方をしたから、もう縁が切れてしまったと思っていた。
翔に連なって歩き始めた愛里紗だが、咲や理玖の事が次々と蘇ってしまい、前に向かわせている足とは対照的に心は後ろ向きになっている。
この街は、日が沈みかかると自然と人通りが少なくなる。
いま歩いている歩道は、片手で数えられるくらいの人数しか姿が見えない。
腕時計の針は17時を越えた。
木々に遮られている街灯が一斉に灯る。
翔くんの背中を見るのはおよそ1ヶ月ぶり。
近くにあっても実は遠い広い広い背中。
無邪気に遊んでいたあの頃とはまるで別人のよう。
この背中は、数ヶ月前まで咲が見てきた光景だ。
翔くんと理玖は、顔も体つきも性格も雰囲気も全て対照的。
理玖は私に背中を向けない。
お互いの顔を見て賑やかに肩を並べて歩く事が多かった。
でも、翔くんは背中を向けたままでひとことも語らない。
背中で足音を聞き取っている。
だから、信号を渡りそびれて足を止めた時は、すぐに気づいて戻ってきてくれる。
背中を向けてても気に留めてない訳じゃない。
地面に擦れている足音を身体全体で感じ取っている。
わざとゆっくり歩いたとしても、彼ははぐれないように歩調を合わせてくれるだろう。
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