The Knights of Ronud ~現代聖剣奇譚~

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第一章 契約

和解

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 結局二人の話は明け方近くまでかかり、それでも終わらなかった。やはり会話がうまく成立しない事には、伝わる情報量にもおのずと限界が生じてしまった。
 建部が理解したのは、右手に握られた剣が常識の枠外の物である事、彼女達はそういった物が世に出ないように管理する組織の人間であるという事、そういった物を欲しがり狙う存在がいるため早急に回収の必要があったこと、経緯は分からないが剣と契約がなされており剣だけ奪っても意味がないこと、そのくらいが分かった所で時間切れとなった。
 最後に伝えた事は襲撃しない事を約束するから、大騒ぎしないようにしてくれ。という内容であった、もちろん彼はもう少し詳しい説明を欲したが、どうしても日本語でのスムーズな会話が不可能であり、彼も英語によるコミュニケーションなど片言以上には不可能であった。
 彼女が消えたあと、床に小さな穴が空いている事、窓ガラスが綺麗に斬られている事に気付いたが、知らぬ存ぜぬ、気付いたらそうなっていた、そういう言い訳をするしかないのであろうと、そんな事を考えていたが、その点を追及される事はなかった。
 なぜなら、午前中に別の病院への転院が決まったということで、特に目立った会話もないまま転院となり、あとで追及されるのではないか?という不安は杞憂に終わった。
 リムジンで連れられた新しい病院は県でもっとも大きな病院であり、与えられた病室はVIP専用の個室であった。彼女が敵対行動を止めて懐柔へシフトチェンジしたことにより、裏から手が回ったのだろうか?そんな事を考えてしまった。

こちらの病院の昼食もやはりたいした変化はなかった、味より科学的に考えられた栄養や消化について優先されて考えられた結果なのだろう、もう退院までの食事は諦めよう、そんな思いで昼食を終えた彼のもとに意外な来訪者があった。
 正面から堂々と彼女が4人の男性を連れて現れたのだった。自分達の自由になる所におびき寄せて抹殺しやすくするつもりなのであろうか?そんな事を考えながら彼女を見るといつもの剣は袋に包まれており、知らない人物が見れば剣道の竹刀を携帯しているように見えたかもしれない。
 彼の警戒の色を察してか、同行の男の一人が口を開いてきた。

「初めまして、建部大和君だね?私は外務省、総合外交政策局の山下と申します、本日は通訳を兼ねて参りました、彼女から色々説明があると思われますので、本日は少しお付き合いください」

 彼女が引き連れてきた男性陣はみな外見からは日本人に見え、たしかに殺し屋のような雰囲気は見えない、彼女がサクッと殺した後の死体処理のために呼んだ仲間ではないか?と一瞬考えたが、皆スーツ姿で死体処理なら白衣などを着ているだろうな、と少し安心しながら通訳を介しての会話をスタートさせた。

「My name is Hild.」

「私の名前はヒルダです」

 『そのくらい分かるわボケ!』正直そう思ったが、それで確信できた、こいつら日本の役人だ、こんなことまでマニュアル通りにやる連中など、日本の役人くらいしかいないだろう。そんな事を考えながら話は進めて行ったが、時々分かり切った通訳まで行うので、ヒルダと名乗った女性も少し苦笑いするシーンがあった。

 さらに細かく分かった事はイギリスに本拠地がおかれた団体で『Knights of Round』というのが彼女の所属する団体であり、日本以外の各国もその存在は認知している事、基本的にお互いに不干渉の姿勢を持つ事、そのような事実も分かった、しかしどうしても納得のできない部分があり、そこは質問としてぶつけた。

「こうやって話合いだってできるのに、何故最初は殺そうとしたんですか?」

 通訳を介しその質問が伝えられると彼女はバツの悪い顔をして、少し言い訳をするようなそぶりをしているのが伝わった、さすがに複雑で言っている事は理解できかったが、そういう時の態度は万国共通なのだと、少し面白く感じた。

 危険性が未知数であり、きちんと確認作業などを行った場合、手遅れになって大災害を招く可能性もあるとの事であった、本当は無益な殺生はしたくないため、だからこそ看護師は殺さず当身で昏倒させるにとどめた、などと言っていた。少し呆れ気味な建部の顔を見て、一緒にいた男達も少し不憫そうな顔をしていた。

「微妙に関係ない質問かもしれないんですが、何故こんなにいるんですか?凶悪犯の尋問とかでもないでしょうに」

「ああ、それは全員所属が違うんからなんだよ、『縦割り行政』とか聞いたことない?警察、公安と文科省から来てるのが彼らだよ」

 建部の知識でも公安が所謂いわゆるテロ対策とかスパイ対策などの組織である事はテレビの知識などから知っていた、さらに警察と文科省からも人が来ている事に若干の疑問を感じていたが、後ろの男の一人がおもむろにしゃべりかけて来た。

「内密にしてもらえるなら少し話せるけど、約束できるかな?」

 ここまでもとんでもない話のオンパレードだったのにここに来て更に内密とはなんだろう?そんな怖いような気もしたが、好奇心から「はい」と返事をして聞くことにした。

「君の通っていた学校の理事長に近いうちに逮捕状が出る予定なんだ、公文書偽造、詐欺、なんかだね、誤解しないで欲しいんだが、今回の一件とはまったく無関係で前から内偵調査を行っている時にこんな事になったんだ」

 あの理事長ならやりかねない、それは理解できた、今このことをマスコミに言えば内偵調査が無駄になってしまうかもしれない、それ故に口止めを指示した、それも分かる、ただそんな事は直接は関係なのではないだろうか?そんな疑問にはさらに別の男が口を開いた。

「あの学校ね文科省から解散命令が近く出される予定なんだよ、内情がひどすぎてね、そのうち新聞やニュースでやると思うから今は詳しくは言わないがね。学校が解散となると学生は近隣の学校に学力により割り振られたりするんだけど、君は彼女とも話したんだが留学なんてどうかと思ってね」

 とんでもないことを言い出したとしか思えなかった。しかし在校生がいる段階で学校解散ってどんだけ出鱈目な経営してたんだよ、と呆れてしまったが、あの理事長ならあり得ると納得もしてしまっていた。それほど普段日頃から出鱈目な言動の目立つ男であった。

「それって彼女の所属する組織の下でしばらく監視下におかれての生活ってことですか?」

 その発言は彼女に通訳され、彼女の発言もまた通訳を介して伝えられたが、結果は予想通りであった。監視下といっても幽閉や軟禁にはほど遠く、生活費の一切は支給され、組織からの手当も出る、しかも海外留学としての履歴までしっかり用意するというかなり好条件を提示された。
 同時に断ったら断れるのだろうか?そんな事が頭を過ったが、怖くて聞けなかった、会ってすぐ殺そうとした人物にそれ以上の譲歩を求める事は危険としか思えなかった。

「OK」

 言って、彼女の方に手を差し出し握手を求めた、条件を受け入れる、その意思表示のつもりであった、彼女もその意図を察し、微笑みながら手を握り返してきた。

「ちなみに握手は男性から求めるのはマナー違反です、海外に留学するなら覚えておいた方がいいですよ」

 通訳のくせに余計な事を言い出した、こいつ本当に日本の役人だろうか?今更ながら心配になってしまった。
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