The Knights of Ronud ~現代聖剣奇譚~

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第一章 契約

名目と実情

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 そこからは打ち合わせと事前に聞いていた情報通りに進行して行った。しかし、ニュースや新聞で自分が寝ていたり、情報を遮断されていた時期の事を後で知ったが酷いものであったことが確認された。
 まず生存者は自分以外いなかったとの事であった、未だ行方不明となっているが、生存は絶望的であろうという事であった。一年生52名、引率教師4名、が一気に亡くなるという大惨事であった。
 何故自分だけ助かったのだろうか?その疑問に対しヒルダは細かく状況を聞いた上で、憶測混じりだがと付け加えながら説明を開始した。元々あの神事は剣を祭る伝承に起因していたものであり、どこかに安置、もしくは埋没していた剣が山津波の影響で表面に出てきた、山津波に呑み込まれた彼が無我夢中で偶然それを掴んだ、しかもその掴んだ手はその少し前に切り傷ができており、そこから流れた血によって剣との契約が成立したのではないか。というものであった。
 剣との契約が成立したことによって、剣の加護が発生し守られた可能性が高いというが、そもそも契約が成立という概念やこの剣がなんなのか、という点も踏まえて分からないことだらけであった。
 彼女に聞いても、調べないとその剣がどのような物なのかは分からず、本国戻れば調査もできるだろうとの事であったが、少なくとも硬直が解けた為か、危険が去った事を感知したためか、剣が手から離れた事は喜ばしいと感じていた。
 自分以外の全員の生存が絶望と言ってもそれほど悲しみはなかった、やはり交流が碌になかったのが大きかったかもしれない、もしマスコミがその様子を見たら悪魔のように報道したかもしれないが、現実感のない話が連続して感覚がマヒしてしまっていたせいかもしれない。
 その点理事長は役者だった、山津波の被害で生徒達を失い悲しみに打ちひしがられる姿を熱演していたのだが、放漫経営が叩かれ出すと、一転しマスコミ相手に罵声を発っし、被害に合った生徒、教師の名前も碌に憶えていない事が発覚、その態度が連日ワイドショーを賑わせ、とどめとばかりに国税局の調査などで完全に悪い意味で『時の人』になってしまった。
 そのあまりの悪役ぶりに生存者である建部の存在はかなり薄まり、解散命令も出た後で『悲劇の生存者、心の傷を癒やすため海外留学へ』などと少し報じられるに留まった、さすがにあまり追いかけると逆に世間の反発を招くとの配慮があったのかも知れない、真意は分からないが、そこまで熱心な追及がなかった事だけは事実であった。



 留学するという事実は報道されたが、出発日時は伏せられ、「そっとしておいてほしい」そんなコメントを発表したこともあって、静かに出発することができた、注目を集めてくれた理事長にこの時ばかりは極少だが感謝したものであった。
 彼女とのコミュニケーションはまだまだスムーズにはいかず通訳もいなくなってしまったため、出国の際にはには二人だけでかなり緊張した、命を狙われる危険性はもうないだろうと思われたが、16歳の彼に美女との二人旅で緊張も意識もするなと言うのは無理な相談であった。
 しかし落ち着いて考えると次から次に疑問もわいてくる、まず何故彼女だったのだろうか?戦闘力の高い暗殺要員なのだろうか?
 しかし彼女に暗殺者の役割が向いているとは思えなかった、腕がどのレベルなのかは理解できなかったが、少なくとも容姿の問題で不可ではないだろうか?日本ではなんのかんの言っても東洋人以外の人種は目立つ傾向にある、目立つ暗殺者など論外であるというのは素人でもわかりそうなものであるから。
 言語的な問題で日本語にかなり精通した彼女が選ばれたというのは納得できない、これまでのやりとりで分かったのだが彼女の日本語は片言レベルであり、しかもかなり偏りがある、正規の教育で身につけたものではなく映画などメディアによって身に着けた知識であるような気がした。
 こんな時すんなり聞ければいいのだが、やはりスラスラと英語で話しかけることなどできないため、非常に面倒な思いをしていた。

 搭乗時間までの間、向かい合ってラウンジで座っていたが、彼女は手荷物からなにやら本を取り出し読み始めた。一体どんな本を読むのだろうか?そんな事が気になったが、バリッとしたスーツを着た金髪の美女が本を読む姿は非常に様になっていた、20代半ばくらいであろうか?バリキャリ風にしては若干若すぎる気がするが自分が普段読むラノベや漫画などとはまったく縁がないであろう事がその雰囲気から見て取れていた。
 いったいどんな本なのだろうか?向かい合っているだけに横から覗く事もできず、好奇心のためだけに不審な行動をとる事も控えたかった、表紙にはしっかりとカバーが被せられており、題名は全く分からなかったが、そこで違和感に気付いた。カバーに大手有名書店のロゴが入っていたのだ、だとするとその本は日本で買い求めた物である可能性が高く、あの書店は海外から輸入販売されている書物を扱っているのだろうか?そんな形で疑問は膨らんだ、大きさからして写真集や、画集ではないように思え日本語が不自由な彼女が何故日本の書物を読めているのだろうか?もしかしたら魔法のようなものの力を使って何とかしているのであろうか?次々に湧いてくる疑問にどうしても我慢できなくなり聞いてしまった。

「What is it?」

 彼の英語の発音が微妙なのかいつも少し間を置くようにして返答を開始するが、今回は返答をせず無言でカバーの掛かった本を差し出してきた、手に取って中を確かめてもいいという意思表示であることは明白であったので、ゆっくりと中を開いてみた。

『漫画かよ!』

 彼の心の叫びであった。
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