The Knights of Ronud ~現代聖剣奇譚~

一弧

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第一章 契約

違和感

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 外見に騙されるという事はしばしある、ゴツイ見た目のおっさんがスイーツ好きであったり、いかにもきつそうな外見の女性がゆるふわ系のファッションを好むなど、そこまで珍しい話ではない。彼女が漫画を読んでいたこともそこまで問題ではなかったのだが、彼にはそのギャップがすんなりとは受け入れられなかった。
 彼のそんな様子から何を考えているかまでは読み取れなかったが、彼女は知り得る知識の単語を羅列して見せた。「バカ」「センパイ」「オニーチャン」「シネ」、日常会話でも使わなくはないが、やはりアニメ等で多く使われそうな単語を自慢げに語って見せた。これが偽装工作であるなら逆にすごいと思わせると同時に、観光のついでに志願したのではないだろうか?そんな事を考えてしまっていた。
 ただ、この会話の後はかなり、薄くなっていた警戒心が完全になくなったのも事実である、というより病院で政府関係者が現れた時点で半ば腹は括っていた、もし仮にどんなに抵抗しても国家を相手に叛逆を起こすとか、逃亡を図るなど絶対に成功するわけがないと思えたからだ、そこまで組織力のある相手から単身逃げ延びることなどまさに漫画か映画の中でしか可能だとは思えなかったのだ。

 試しに飛行機の中では彼女の喰いつきそうな話題を振ってみたら、面白いように喰いついてきた、初対面で「死ぬか殺されるか選べ」と言った人物と同一人物かどうかが疑わしい気さえした、よく考えたらそのセリフさえ微妙に芝居がかっている、いかにもアニメに出てきそうなセリフである。
 彼女は非常に熱心に色々と語り出した、病院で説明をする際に努めて事務的に話していた時とは声のトーンが明らかに違った。趣味の話になると熱心に語るのはどこの世界でも一緒なのだとは思ったが、彼女の知識は自分よりもはるかにディープであり、ついて行けない部分が多かった、中には日本と外国とで題名が異なる物もあり、スマホで絵を見せられると納得するケースもあったが、絵を見せられても知らない物も多く非常に対応に苦慮してしまった。

 まぁ沈黙が続く時間が24時間も続いたらさすがに困ってしまっただけに、趣味レベルの雑談で時間を潰しながらの空の旅ができた事は僥倖であった。
 空港に着くと、送迎の車が来ており、その車に乗って案内されたところは意外にも普通のアパートメントだった。隠し通路などがあり、地下になんらかの空間があるのだろうという予想はあっけなく裏切られ、そこは本当に普通のアパートメントであった。入り口から入るとそのまま二階に上がる階段があり二階部分が住居となっている、普通の作りで一人暮らしにはかなり広いくらいであった。
 荷物を置くと彼女は明日朝迎えに来ると言って帰ってしまった。てっきり本部のようなところに連れて行かれるものと思っていただけに拍子抜けしてしまった、しかしフライトによる時差呆けもあったが、一応無事に到着した旨を日本の両親に電話で報告すると、そのまま眠りにつき朝を迎えた。

 翌朝迎えが来たが意外な事に徒歩であった、来るまでの送迎をイメージしていただけに完全に拍子抜けしてしまった、そのまま電車の駅に向かうと、定期券を作るように促され、所定の用紙に書き込みを行い、事前に用意するように言われていた写真を使用した、日本の定期と違いイギリスでは定期券が2分割され、一つには写真が張り付けらえ他人が使用できないようになっていた、自動改札が導入されたら、どのように変化するのか疑問だが、とりあえずそういうものなのだと納得し、定期券を購入し電車を待った。
 電車の乗り心地は普通であったが、シートを区切るように手すりがついており、一人一人の区分がはっきりしている造りに非常に好感が持てた、幅をとる隣の人間との過剰な接触を妨げる事が出来るのは地味に嬉しかった。ただしすごいデブはどうやって座るのだろうか?そんな疑問が頭を離れなかった、相撲取りなどはまずこの区切りでは座れないのではないか?そんな事も考えてしまった。
 しかし、少し前まで生きるか死ぬかというギリギリの状態であったのが、今は完全なお上りさんとかして異国を楽しんでいる事に違和感を感じたりもしたが、それよりも世界中に影響力を持つ組織に電車で普通に向かうという事に違和感を感じずにはいられなかった。

 駅を降り少し歩くと彼女はある方向に指をさした、その方向をみると日の丸の国旗が掲げられており、日本大使館があるから、用があったら行くように言われた、イメージがどんどんずれてきてしまっていた、もっと秘密結社で働く裏社会の一員のようなものをイメージしていたのに完全に普通の人である。
 もっと空港を降りた瞬間に敵の襲撃があり、そこで剣を抜いて斬りあいを行う、敵の方が格上で押されている所に援軍が来て事なきを得る。そんな展開を期待していただけに完全に拍子抜けした気分になっていた。 
 さすがにそんな軽口までは叩けず、彼女の後を着いて行くと古いが堂々とした建物に入って行った、そこに辿り着くまでも古い建物は数々あり、その建物だけが異彩を放っているわけではないだけに、これまた普通の印象を受けてしまった。
 中は部分的に近代的な改修が行われていたがやはり雰囲気のある建物で、さすがに普通のオフィスビルとは違った重厚さを持っていた。一室に通され椅子に座りしばらく待っていると、知らない人物が入って来て普通に話しかけてきた、軽い自己紹介の後に、制限時間は1時間がんばってねと言い、数枚の紙を目の前の机に置いた、内容を確かめるとそれは英語の試験だった。『なにこれ?』それが偽らざる本音であった、普通やるにしても魔力の属性を計るとか能力の潜在値を計るとか、そういうものを期待していたのに完全に期待外れであった。
 試験内容は本当に英語能力を計る物であった、文法能力や前置詞の使い方など、学校でやった記憶はあったが、問題文まで全て英語で書かれているだけに、かなり緊張感を持って試験に臨むこととなった、しかし試験官は普通に本を読みながら適当に時々時間を見るだけでそこからは緊張感の欠片も感じ取れなかった。正直八つ当たり気味な感情なのは自分でも理解できているが、腹が立った。
 1時間が経過して、試験が終了すると、明日以降の予定が書かれた紙を渡された、ザッと目を通してみると、英語の授業をする内容のみが書かれていた、さすがに目の前の男に、どういうことか尋ねると、とりあえず英語の授業を受けてればいいという非常にイメージからずれた回答が返って来た。
 唖然としてながら部屋から出ると、ヒルダが待っており、迷うと困るから今日は送って行くとの事であった、確かに初めて来ただけに微妙に帰り道に不安を感じていたのでその申し出はありがたかった。

 丁度お昼という事で途中でランチとなったが、外食産業は明らかに日本の方が選択肢、内容ともに上だと感じられた、街並みの雰囲気等は無味乾燥とした日本のオフィスビル群に比べ、かなり古くからある建物を修復を繰り返しながら景観を大切にするロンドンの街並みは美しいと感じたが、外食産業に関しては日本の圧勝だと声を大にして言える、そう感じてしまった。
 食事はサンドウィッチと紅茶の簡素なものであったが、丁度いい機会だったので今日感じた違和感について正直に言ってみた。空港で襲撃されるんじゃないかと思っていた事、テストとして魔力の属性を計るとかすると思っていた事、彼女は拙い英語と時々日本語まじりで説明する内容を真剣に聞いていたが、すべて聞き終えると、堪えていた笑いを爆発させるように大笑いをはじめ周りの注目を集めていた。
 ひと時笑い終えると、たしかにアニメや漫画ではよくある展開だと、思い出したようにまた笑い出した。
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