紫煙のショーティ

うー

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ミエリドラ

第三話

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 家族とは一体何かしら? 私にはそれがわからない。一体何のためにあるのかしら? 心安らぐもの? 最後に帰る場所? いいえ、どれも違うわ。
 私には家族がいない、どう産まれたのか、何処からやってきたのか、気が付けば魔王をやっていた。自分のやる事は分かっていたわ。
 今まで残酷な事も沢山してきたし見てきた、慣れたと思っていたけど流石にこれは────

 飛び起きてしまった。一部とはいえアイリスの記憶が流れ込んできた。それは凡そ一般的な子供時代ではない。母との死別、それからの父の様々な暴力、まるで奴隷のような生き方をしてきたのね。
 はぁ、仕方ないとはいえ覗き見るような事をしてしまったわ。この事を知ればアイリスは私から離れていってしまうかもしれない。知られないようにしなくては。
「うなされていたが」
 剣を地面に起き、座りながら壁にもたれるナグモが目を覚まし飛び起きた私を見て、そう言った。汗を手で拭いながら大丈夫と私は答えた。
 隣で眠るアイリスの傷は大方癒えていた。流石私の眷属だわ。この分だと目を覚ますのは一時間ぐらいかしら? 早く言葉を交わしたいわ。
「貴女は寝なくても大丈夫?」
「人前で寝るのは苦手でな」
 肩を竦めながら笑うナグモが何かに気付いたのか、地面に置く剣を手に取り柄を掴み立ち上がった。
「……これじゃぁ眠れないわね?」
「全くだ」
 水中から多数の死体が起き上がってきた。どうやらずっと近くにいたようね。そのまま進まなくて良かったわ。
 ナグモが素早く数体のゾンビを切り伏せた。この速さは一朝一夕で出来るものではないわね。彼女の手の硬さも、努力の際に出来た証みたいなものでしょうね。故に強い。元から才能はあったのだろうけど、驕ること無く努力し続けた天才の強さ、って凄まじいのよね。
 それにしても死体は一度燃え始めると楽しいわね。指を噛み、その血で掌に魔術式を描いている私は火の魔術を使い、死体を燃やしていった。湿っているのか着火しにくいのが難点だわ。
 そうこうしているうちに死体は数を減らしていった。しかし、一体の死体がアイリスの側まで近寄っていたのを気付けなかった。間に合わない、と思ったがその心配はなかったようね。
「顔近っ!! キモっ!」
 目を覚ましたアイリスが腕のホルスターに入れているナイフで、死体の頭を飛ばした。
 私はついキョトンとしてしまった。何せ、まだ目を覚ますとは思っていなかったからだ。眷属になるとはいえ、まだ結界の中よ?
「アイリス!!」
 私は彼女を抱きしめた。最初は驚いていたアイリスだけど、すぐに可愛らしいいつもの笑顔を見せてくれた。良かったわ、本当に良かったわ。
 残りの死体はナグモが倒し、もう一度落ち着く事にした。アイリスも目覚めたばかりだしね。
「いやぁ、まさかまた意識が戻るとは思わなかったよ」
「ナグモだ」
 軽く自己紹介をしつつ、握手を求めるナグモをじーっと見つめるアイリスは、次に自分の手を見つめた。何か気になるのかしら?
 どうしたの、と問いかけるとううん、と首を横に振った。
「何不自由無く、自分の意思で動かせるって幸せな事なんだな、って思って」
 ニコッとナグモの手を握り締めてそう答えるアイリスが何を思ってそう言ったのかは、彼女の記憶を覗いた私には分かる。
 自身の母の最期を思い出しているのでしょう。病に伏し、歩くことさえままならなくなり、最後には寝たきりとなり、息を引き取る。そんな最期はゴメンだわ。
「もう体は大丈夫?」
「うん!」
「全く、デタラメだな」

 そろそろこの馬鹿げた騒動に終止符を打たなければならないわね。この騒動は多分だけど、呪いだわ。
 規模の大きな呪いを発動するには魔法の技術ではなく、魔術の知識が必要となってくる。そうなれば、並の魔術式では到底不可能。
 水路を真っ直ぐ行くと、とても広い空間へと出た。案の定そこには魔術式が描かれていた。とても古い呪い、こんなものを今時の若い魔法使いが知っているはずもない。膨大な魔力も必要になってくるわ。かなり長い時間を要するはずだけど一体何者かしらね。
「こんな場所にお客様なんて、珍しいですね」
 今回の騒動の黒幕は彼女のようね。とんがり帽を目深に被り、グレーのマントで身を隠していた。魔法使いの正装ね。だけど、それに身を包んでいるということはやる気満々、という事かしら。
 その後ろには黒いローブの集団がいた。協力関係なのか、それとも部下なのかは分からないけど、彼女が強力な仲間であるのは変わりないでしょう。
「あぁ、貴女が魔王アリス、ですか。なるほど、確かに……」
 こちらを値踏みするような目付きで、魔法使いは 私を見つめていた。そして私の少し後ろにいるアイリスにも目をやった。アイリスがどういう存在なのか気付いたのか、不愉快そうにした。
 魔法使いは眷属を嫌う。力をコピーした眷属を嫌う。何故なら、魔法使いには個人特有の魔法がある。私の場合、代償物のマジックアイテム化ね。それは魔法使いにとってアイデンティティであり、己が魔法使いだと言う証なのよ。それを簡単に、それも努力をもせずに使えるようになってしまう眷属は、努力家が多い魔法使いからすれば、嫌われても仕方ないのかもしれないわね。私は嫌いじゃないけど。
「そこまで愚かな人物だとは知りませんでした。まぁ、人間に仇なすという愚行を行っている以上、聡明な方だとは思いませんがね」
 ハッキリと言ってくれるわね。どうやらこの若造は余程自分の魔法に自信があるようね。どうその自信がへし折ってやろうかしら。と言ってもここは彼女の領域、そう簡単にやられるほど馬鹿ではないでしょう。
「アリス様に失礼ではありませんか!!」
「はいはい、アリスアリス、喧しいですね」
 魔法使いが大きく手を広げると、黒いローブの集団が突然その場に倒れた。リーダーらしき人物を残して。
「そんなに昔の魔法使いが凄いのですかね? 魔法は日々進化しています。貴女が魔法の第一人者であろうが、時代錯誤の魔法では私には、この黎明の魔女マリアに火の玉一つ掠りませんよ」
 ブチっと、自身の何かが切れたのが分かった。ナグモとアイリスには手を出さないよう伝え、私はアイリスからマスケット銃を貸してもらった。
 この生意気な魔女様には磔すら生温いわ。マスケット銃を片手に、私は一歩前に出た。すると、倒れた黒いローブの集団が再び起き上がった。呻き声を上げながら、こちらへとにじり寄ってきた。
「このエリアでは魔法は使えませんよ。どうしますか? 魔王、魔王アリス、始まりの魔女アリス」
「ごちゃごちゃとうるさいわね。私は魔王よ、そう魔王アリス、私に不可能は無いわ。例え、それがどんな不利な状況だとしてもね。だからこその、魔王なの」
 そう、私は魔王アリス、全てを喰らい全てを無に帰す存在、なんて昔は言ってたけど今思うとめちゃくちゃ恥ずかしいわ。思い出しただけで悶えそう。
 私はため息を吐きながら、マスケット銃を肩に担ぎ、死体となってしまったローブの集団を見つつ、マリアとか言う魔法使いに対して喋りかけた。
「それで、貴女は何がしたいのかしら?」
「魔王を超える魔法使いとなる、ただそれだけです」
 なるほど、私はいわば目標という事かしら? ふふ、そんな簡単に私を追い越そうだなんてさせないわ。
 魔法が使えなくとも、この武器は使える。何故なら、このマスケット銃は大地の魔力を必要としない。自身の中にある魔力から消費していくの。だから、これは普通の魔法使いが使えばすぐに枯れてしまう代物よ。
 マスケット銃を片手で構えた。狙いは死体となったローブ集団。後はただ引き金を引けば、おしまい。
「何もしないのかしら」
「貴女の実力を見てみたいだけですよ」
 いいわ、その挑発に乗ってあげるわ。見せてあげるわ、私のちょっとした本気を。
 引き金を引いた。暴れ馬のように跳ね上がろうとする銃身を抑えながら、私はマリアに向かって歩き始めた。銃口は死体から外さず顔だけ彼女に向けた。そのニヤついた顔に腹が立つわ。自信満々で、他人を見下したようなその目付きが私には我慢ならない。
 マリアは何もせず、本当にただ見ているだけで死体を全滅させる頃には、彼女は飽きたふうに髪の毛を弄っていた。
「はぁ……ちょっと時間、かかりすぎじゃぁないですか?」
「いちいちムカつくわね」
 本当にむかつく女だわ。私は煙の出る銃口をマリアへと向けた。おぉ怖い怖い、とマントを脱ぎ捨てたマリアの体には、魔術式が彫られていた。レザーベストとアームカバーから見える部分にも、びっしりと見えており、それが体全体にあるのは容易に想像出来る。
「貴女…………そこまでして力が欲しいの?」
「えぇ、力が欲しいですね。だからこそ、私は自分の強さを魔王を殺す事によって証明する」
 黒ローブのリーダーの元へと近付いて行き、彼の頭を掴むマリアは魔力を溢れ出させた。
 魔力を持ち合わせていない人間が、突然膨大な魔力に晒されるとその身を変化させる。そう、アイリスが恐れたあの化け物のようにね。そう、私達は最初から見られていたのね。あの化け物を寄越したのもマリアでしょう。
「ここは一つ、手駒で勝負でもしましょうか」
 そう提案してきたマリアは、アイリスに目をやった。なるほど、けどそれは出来ないわ。彼女はまだ目覚めたばかりで力の制御が難しいでしょうし。
「……アリスさん、私やるよ」
「何を言っているの、貴女は目覚めばかりで……」
 アイリスの決意した目を見てしまえばそれ以上、何も言えなかった。分かったわ、分かった分かった。だからそんな目をしないでちょうだい? 私はアイリスにマスケット銃を手渡し、マリアを睨みつけた。
 彼女の手駒は歪となったリーダー、それにしてもアイリスが手駒だなんて、酷いことを言うものね。
「アイリス、頑張りなさいよ」
 私はそう言ってアイリスの後ろへと下がり、歪な存在を前にして震える彼女の背中を見つめていた。
 頑張りなさいよ、アイリス。
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