妖怪セプテット

うー

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妖怪トリオ

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 妖怪の姿をその目で見る事の出来る青年、賀茂 忠敬かも ただゆきはたまという妖狐と共に暮らしていた。しかし者、というのは何かとトラブルに巻き込まれやすかった。
 正体不明の妖怪と呼ばれる鵺、力の化身である鬼が起こした問題をノリと勢いで解決していた忠敬だった。

 夏に入り、気温も高くなった真夏のとある日忠敬は数ヶ月ぶりに登校した。席に座ると一人の女が話しかけてきた。

「賀茂君、おはよ。久しぶりや」

「あぁ」

 澤上江 継美かすがえ つぐみは元気な笑顔を浮かべては忠敬の前の席に後ろ向きに座った。

「何してたん? もしかして妖怪とかに捕まってたぁ?」

 冗談めかして継美は悪戯っぽく笑った。それを見た忠敬はため息混じりに言葉を発した。

「……妖怪なんて不確かなものを、存在するわけないだろう。馬鹿馬鹿しい」

「……賀茂君賀茂君、うちの存在全否定?」

「……冗談だ」

 チャイムが鳴り、担任が教室に入ってきた。体格の良い短髪の濃い顔の教師だ。忠敬が休学中に新しく赴任した教師だった。生徒指導と体育を担当している瓦 啓司かわら けいじだ。
 低音だが元気な声で啓司は朝のホームルームを始めた。

「日直、挨拶頼む。おっ、賀茂来てるじゃないか」

「あ、どもっす……」

「今日は全員揃ったな。よしよし、じゃぁ日直頼んだ」

 起立、礼、着席、と生徒達はやり慣れた行動を終わらせた。そこで忠敬は啓司にホームルームの後、職員室に来るように言われた。
 そして特に連絡事項も無かった為、ホームルームはすぐに終わり、忠敬は職員室に向かった。

「失礼します」

「おう。賀茂、単刀直入に聞くが、お前、イジメられているのか?」

 とある生徒から聞いたんだ、と忠敬の顔を見つめながらそう言った。忠敬は制服を捲り今朝付けられた、腕の痣を見せた。

「先生、自分は虐められているとは思っていません。良い気はしませんが」

「誰だ? 一体誰にやられたんだ?」

 忠敬はゆっくりと首を横に振った。そして答えた。

「大丈夫です。話は以上ですか? 自分はもう行きますよ」

「あ、おい!」

 忠敬はため息を吐きながら職員室を出ると自身の教室に戻る事にした。彼が教室に入ると騒がしかった教室内が一瞬静かになり、そしてまた騒がしくなった。
 忠敬が自分の席に座ろうとした時、足を引っ掛けられ転びそうになった。なんとか耐え、何事も無かったように忠敬は席に座った。

「賀茂君、相変わらずやられてんなぁ」

「いいさ。なんとも思わないからな」

 継美は笑みを浮かべながら楽しそうに忠敬を見ていた。忠敬は呆れた顔を作り継美に対してため息を吐いた。

「はぁ……それにしても暑いのによく絡んでくるもんだ」

「しょうもないなぁ。まっ、ええんちゃう?」

 忠敬が継美と喋っているその時、一人の男子生徒が忠敬に対して登校途中にでも拾ったのか、小石を投げ付けた。それは忠敬のこめかみに直撃した。

「いたっ……はぁ……」

「賀茂君? 大丈夫?」

 眉をひそめながら忠敬は小石を拾い上げた。そして、その男子生徒に対して目を細めた。

「……ッチ」

「あら? 賀茂君が舌打ちなんて珍しいんやない?」

 その少しあと、問題が起きた。授業が終わり、休み時間になった時忠敬は用を足しに行った。数人の男子生徒がトイレになだれ込むように入ってきた。

「おい賀茂」

「……なんだ」

 トイレを済まし、出ようとした時だった。忠敬は顔を殴られた。数人で囲み殴られた衝撃で倒れた忠敬を蹴った。

「うぜぇんだよ! 最近女と仲良いからって調子に乗ってんじゃねぇよ!」

 鼻や口から血を流す忠敬はふつふつと湧き上がる殺意を押さえていた。しかし、堰は切れた。

「……」

 指輪が鈍く光り始めた。忠敬は一人の生徒の足を掴むとそれを引っ張り転ばせた。それを見て蹴りが止まったほんの一瞬に忠敬は立ち上がり一人の生徒の襟を両手で掴み個室トイレの扉に向けて投げ飛ばした。扉は破れた。

「な……何してくれてんだ!」

「うるせぇ……こっちが下手に出れば偉そうに……」

 額に青筋を張り、瞳孔が開きっぱなしになった忠敬はトイレの入口に立ち拳を握りしめた。

「少しでいい、五分の二くらいだ」

 会話するように指輪に話しかける忠敬を見る生徒達は不気味がりながら殴りかかった。

 数十分後、トイレには倒れている男子生徒の背中に座り、笑みを浮かべている忠敬の姿があった。それを見つけたのは継美だった。

「ありゃ、賀茂君喧嘩強いねんな。それにしても……うわ、歯折れとる。やりすぎやであんた」

「殺されないだけありがたいと思うがな」

 継美はハンカチを取り出し血がついた忠敬の顔を拭いた。そこに担任の啓司がトイレに入ってきた。

「な、なんだこれは! 賀茂、お前がやったのか!?」

「まぁ、そうなりますね」

 当然指導される事となり、生徒指導室に連れていかれた。啓司は忠敬を椅子に座らせて何故こんな事をしたのかを問い詰めた。すると忠敬は悪びれた様子を見せず、自分がした事がさも当然のように答えた。

「殴られたら殴り返します。蹴られたら蹴り返します。当然の事でしょう。まぁ、罰を受けるのならば、仕方ありませんが」

「……お前の境遇は分かってはいたが、そこまで我慢する必要なんて無かっただろ?」

「今日はたまたまですよ、たまたま気に触ったのでやりました」

 忠敬の態度にため息を吐きながら啓司は忠敬の親に連絡をした。暴力を振るい、停学になる事を伝えた上で迎えに来るようお願いした。
 少しすると忠敬の母、鏡花が指導室へと案内されてきた。

「この度は息子がご迷惑をおかけしました」

「いえ、今回は向こうにも非がある、という事ですので、まぁ、年齢的にも喧嘩や問題はお越しがちですので家でしっかりお話してください」

「わかりました。忠敬」

 鏡花は忠敬を連れて家に帰った。その道中、鏡花は怒るわけでもなく、いつも通りだった。

「む、忠敬もう帰ってきたのか?」

「随分と早いじゃねぇか」

 家に着くと、たまとエボシは不思議そうに首を傾げながら忠敬に目をやった。鏡花から説明されると笑みを浮かべた。

「ほう、まあ拳の一つぐらいは出さんとな! スカッとしたじゃろう!」

「今回はやりすぎちゃったんだけどねぇ」

「何やらかしたんだ?」

 鏡花は啓司から相手方の被害を説明した。

「歯と鼻と腕ねぇ、派手にやらかしたなぁ忠敬?」

「……母さん、迷惑かけてごめん」

「あらぁ、私は怒ってないわよぉ。やりすぎちゃったのはぁ、否めないけどぉ。若い内は喧嘩でも何でもやりなさぁい。ケツは拭いてあげるからぁ、でも、殺人はダメよぉ?」

 鏡花は俯く忠敬の頭を撫でながらふふ、と笑った。

「忠敬、お前は我慢しすぎなんだよ。ちったぁあたしらを頼れ」

「……わかっては、いるつもりなんだが」

「ふふん、お主には妾達がおるんじゃ、相談でもなんでもするがよい! 家族じゃろう?」

 たまとエボシにも頭を撫でられた忠敬は目頭を押さえた。

「……ありがとうな……」


 忠敬は少し休むと言い部屋に戻った。制服からジャージに着替え、ベッドの上に倒れ込むようにして寝転んだ。
 忠敬にとって家というのはたまや継美、エボシや鏡花が居て、心が安らぐ場所だった。
 忠敬は拳を天井に向けた。

「……」

「中々使い慣れてきたようだな」

 指にはめている指輪が話しかけた。それも今までは忠敬の頭の中に直接だったが、指輪から声が発せられた。話しかけられた忠敬は指輪に目をやった。

「痛快であったな、我の依代に傷なんぞ、許されたものではないからな」

「まぁ、助かった」

 ふふん、と誇らしげな声で笑う指輪だった。

「お前は一体なんなんだ? 妖怪か?」

「妖怪……とはまた違うが、妖怪みたいなものだ。今でこそ指輪の中に入ってはいるがな」

「なるほど……あぁそういえばお前、イバラの時も力を貸してくれたな」

「あぁ、あの時は少量の力では太刀打ち出来んかった故、あのような結果になってしまったが、そもそもお前が弱すぎるせいだ。我に協力して欲しくば鍛えい」

 説教するように指輪は言った。それを聞いた忠敬はたまに怒られているような気持ちになった。

「お前が心身を鍛えれば、我の力をより使いこなせるだろう。お前は何かと妖怪に縁があるようだからな。鍛えねば……死ぬぞ」

「……それは困るな」

「だろう? 我としても我を呼び覚ます者に出会ったのには久方ぶりだ。そう簡単に手放してなるものか。要はギブアンドテイクだ」

 指輪は自身の目的を語った。

「我はお前に力を提供する……まぁ、我からお前に望むのは、何もありはしないが、敢えて望むのであれば……家、だな」

「家……?」

 忠敬は首を傾げ問いかけると、指輪はうむ、と肯定し言葉を続けた。

「帰るべき家はもうない。家族もいない。だが、狐や鵺、そして鬼を見ているとな、楽しそうだ……平安の世で全てを失い今まで独りで生きてきた……だが、どうやら我は寂しがりなようでな」

「……」

「…………だから、羨ましいのかもしれんな」

 指輪は静かにそう言った。忠敬は少し考えて指輪を撫でた。

「なんだ、同情でもしているのか?」

「同情なんてしないさ。ただこうしたいからこうしているだけだ」

「変わった奴だ……まぁ、だからこそ……我はお前に力を与えるのかもしれんな……」

 その後、指輪は眠りについたのか静かになり、忠敬の部屋には再び静寂が戻った。そして忠敬は考えた。家族がいないというのはどんな気持ちなのだろうか、家がないと言うのはどんな気持ちなのだろうか、と。しかし、その両方がある忠敬には想像出来なかった。

「……お前が望むなら、いつでも迎え入れるぞ」

 指輪を枕の横に置き、忠敬も眠りにつくのであった。

 忠敬と指輪が夢の中に居る頃、継美が帰ってきた。リビングで扇風機が吹き出す風にだらしなく当たっている妖怪二人に声をかけた。

「賀茂君は?」

「部屋に戻ったぜ」

 継美は忠敬の部屋の前に移動した。ノックをしたが、寝ている忠敬は気付かなかった。扉を開けた継美が見たものは、トイレで一方的に暴力を振るった忠敬ではなく、普通の高校生である賀茂 忠敬の穏やかな寝顔だった。

「なんや、寝てるんか……可愛い顔やなぁ……」

 継美は小さく笑いながら忠敬の寝ているベッドに腰掛けた。そして無防備な頭を撫でた。

「たまが守りたくなんのもよう分かるわ……こんな寝顔見せられたら、守りとうなるわな」

「……たま……継美……エボシ……母さん……俺が……」

 忠敬が夢の中で何を見ているのか継美には分からなかったが、穏やかな表情からはとても今日のような力にものを言わせた行動は賀茂君らしくない、と指輪に目をやった。今まで気付かなかった継美は指輪を手に持つとそこから微かな妖気が流れている事に気が付いた。

「……この指輪……エボシから貰ったって奴か……妖気? なるほどなぁ……イバラとやりあえたんもこれのおかげか」

「……触るな……鵺如きが……」

 指輪は目を覚ました。そして小さく恫喝的な声を出した。

「ほう……なんや、付喪神……か?」

「……そのような者ではない。我は賀茂 忠敬に力を与える者だ」

「そうみたいやな。せやけど、あんた、賀茂君に力を与えて何をするつもりや。朝みたいに人間に何かするつもりか?」

「馬鹿を言うな。我は忠敬が力を望んだ時にしか与えんよ。そして、今朝、力を望んだのは忠敬だ。我は何もしない、何もするつもりはない」

 二人の声に目を覚ました忠敬は指輪と睨めっこしている継美を見て首を傾げた。

「……貴様のせいで起きてしまったではないか」

「うちのせいちゃうわ。あんたが声でかいからや」

「二人とも、大人……? がみっともないぞ。それと澤上江、指輪の事はたまやエボシには黙っていてくれ」

 その事について継美はなんでや、と首を傾げた。

「ほら、心配症だからな」

「……まぁ、ええけども」

「とりあえずだ、我はこの男を気に入っているからな。そう簡単に死なせはせん、安心しろ」

「いっちゃん安心でけへんねんけどなぁ……まぁええわ。んな、うち行くから、また下降りてきぃや」

 そう言い残し、継美は部屋を出ていった。忠敬は指輪を中指にはめ下に降りていった。
 時間は既に七時を過ぎていた。リビングには晩御飯が並べられておりそれを四人が囲んでいた。

「早く来いよお前待ちだぜ!」

「はよ座り」

「飯が冷めてしまうではないか!」

「皆揃ったわねぇ」

 忠敬は席に座り手を合わせた。そして皆で口を合わせて、

「いただきます!」

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