妖怪セプテット

うー

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妖怪トリオ

思念

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 その日、忠敬は夜景を見にエボシと共にオートバイに乗り、山を駆けていた。大型のクルーザータイプを己の手足のように動かし、マフラーやステップを擦ることもなくエボシは山を登っていた。
 そこに二人の後方から甲高い音を鳴り響かせながら迫ってくる一台のバイクがあった。それは黒塗りのレーサーレプリカだった。
 エボシは道路の左に寄りながら迫るそれをミラーでチラチラと見ていた。それが横を過ぎる際、左手を上げたのが分かった。しかし、そのライダーには首が無かった。

「妖怪……?」

「いや、あれは……まぁ、追いかけてみるか!」

 この山の頂上に向かった首なしライダーをエボシは追いかけた。

 一時間ほど走ると、頂上にある展望台にたどり着いた二人は駐車場に先程のバイクが停車しているのを確認した。

「……汚れがほとんどないな」

「そりゃぁな。バイクってのは相棒みたいなもんさ、それを汚したままには出来ねぇよ、ってかさっきの奴はどこにいやがんだ?」

 エボシが辺りをキョロキョロと見回すがライダーの姿は何処にも無かった。

 本来の目的である夜景を二人で眺めていると、ふと隣に人影があった。先程の首なしライダーだった。

「お前も夜景目当てかい?」

 エボシは笑みを浮かべながら声をかけた。ライダーは二人の方に体を向けると親指を立てた。

「いいバイクだな。惚れ惚れしちまうよ」

 ありがとう、でも君達のバイクも素敵だ、と身振り手振りでライダーは伝えた。

「はは、ありがとな。あ、そうだ。一緒に走らねぇか?」

 エボシの提案にライダーは申し訳なさそうに手を横に振った。

「そうか……」

「……!」

 ライダーはそうだ、と手をポンと打ち、一週間後に来てくれたら一緒に走れる、と伝えた。

「おぉ、いいなぁ! それじゃぁ一週間後にこの頂上、同じ時間で!」

 約束を取り付けたエボシは楽しそうにバイクの元へと戻った。

「随分と楽しそうだな」

「まぁな、それにあいつも一人じゃぁつまんねぇだろ?」


 そして一週間後、約束の場所に先に来ていたエボシと忠敬は首なしライダーを待っていた。
 少しすると、野太く地面を揺らしお腹に響くような音を鳴らすバイクが現れた。首なしライダーだ。エボシのクルーザータイプに合わせたようだ。

「すげぇな……!」

「……! ……!!」

 この時が待ち遠しかった首なしライダーはヘッドライトをチカチカとパッシングさせた。

「それじゃぁ行こうぜ!」

 その後、エボシと首なしライダーはあらゆる道を走った。住宅街、高速道路、山道、海岸沿い、工業地帯、夜は更けていき少しずつ夜では無くなっていく。
 時に並び、時に追い抜かし、時に追い抜かされた。
 そして、朝日が登る間際三人が出会った山の頂上に戻ってきていた。

「良い走りだったぜ。また機会があれば、走りてぇもんだ」

「…………」

 首なしライダーは手を横に振った。そして朝日が登り始めている景色に体を向けた。

「思い残す事はねぇか?」

「……」

 少しずつ薄れてゆく首なしライダーの体を見たエボシは小さく笑みを零した。

「忠敬、帰るぞ」

「……あぁ」

 首なしライダーが忠敬の肩を掴んだ。そして自身が乗っていたクルーザータイプのバイクを指差した。

「……! ……!! ……!!!」

 君に譲る、相棒になってやってくれ、と言葉を発さないライダーだったが忠敬に言いたい事は伝わった。

「……俺に?」

「……!」

 再び親指を立てたライダーの体は日が昇ると共に完全に消えた。そして彼が乗っていたバイクだけがその場には残った。

「……なぁ、エボシ。あいつは……」

「……成仏したんだろう。自分の大事なものをお前に託してな」

「お前……最初から彼が幽霊、だと気付いていたのか?」

「あぁ、あれは悪鬼にならずに済んだ例だ」

 その場に残された彼のバイクのタンクに触れながらエボシはそう言った。そして言葉を続けた。

「悪鬼ってのは、人間が作り出したって言うけど、強い恨みや、憎しみ、怒りを持って命を落とした奴の成れの果てなんだ。妖怪になる奴もいるが、それこそ世界を滅ぼしてやる、ってくれぇの恨みを持った奴のみだ……ほとんどの人間は、悪鬼になっちまう」

「……じゃぁ彼は……」

「あぁ、恨みも、憎しみも、怒りも、そんなもんはなぁんも持っちゃいねぇ純粋な人間だったんだろうな。けど、大事なもんが心配過ぎて形を成したんだろう。自分が死んだ時と同じ姿でな……」

 首なしライダーは過去に事故で頭部を失った者だった。しかし、彼が大事にしていた物だけはなんとか誰かに受け継いでほしい、そんな思念がのが忠敬だったのだ。

「……なぁ、エボシ……俺も死んだら、悪鬼になるのか……?」

 その問いの答えに少し間を開けたエボシは忠敬の背中を強く叩いた。

「お前がそん時、誰かを強く恨んでいたのならそうなっちまうだろう……けど、あたしらがお前をそんなもんにはさせねぇ、だから安心して死ね」

「はは、エボシ、ストレート過ぎるな」

 その後、一通り運転の仕方を教えて貰った忠敬は何とか家に帰ることが出来た。

 それから一週間後の事だった。忠敬は悪鬼の群れに襲われた。運悪く一人だった忠敬は指輪の力を使い戦っていた。
 しかし、際限なく噴水のように湧き出る悪鬼達に苦戦していた。

「はぁ……はぁ……」

「賀茂 忠敬、あまり無理をするな。死ぬぞ」

「っても……っ、無理をしなきゃ、はぁ……どうしようも出来ないだろ……」

 力を持つ与えられているとは言え無理をすれば以前のように体がボロボロになる。

「!?」

 気が緩んでいたのか背後の悪鬼に隙をつかれ、伸し掛られてしまった忠敬は地面に倒れて自身に乗る悪鬼をなんとか振り解こうとした。しかし、何体も重なった悪鬼を振り解くには力が足りなかった。

「っぐぅっ……! クソ……!」

「ぬぅ……これ以上力を与えれば忠敬が壊れてしまう……しかしっ、このままだと……っ」

 その時、一人のマスクを付けた包丁を手に持つ女性がその場に現れた。切れ長の目、高身長の麗人だった。

「……っ……」

「……私、綺麗?」

 そんな事を言う女性に気付いた悪鬼達と忠敬はその女性を見た。

「……綺麗じゃない……?」

「っ……綺麗だとっ……思いますけどっ……」

 悪鬼に乗られて苦しそうに女性の問いに答えると女性はマスクを取り外した。両方の口角が頬まで裂けていた。そして質問を繰り返した。

「これでも? これでも綺麗……!?」

「……あの、あなたが綺麗かどうかはさておいて……とりあえず、助けてくれませんか……?」

「あ、わかったわ」

 忠敬の苦しそうな顔を見て口を閉じて手に持つ包丁で辺りの悪鬼を切り刻み始めた。

「っはぁ……なんだあれ……口裂け女? なのか?」

「異な者だ。しかし、危機一髪、だな。あの者が現れなければ、お前死んでいたぞ」

 息を整えた忠敬は立ち上がり助けてくれた女性を見ていた。

「おぉ、凄いな。もう悪鬼共が少なくなっているぞ。口裂け女、と言ったか? それはどんな奴なんだ?」

「有名な都市伝説だ。口の端から頬にかけて避けているんだ。そして、私綺麗? って聞いて、綺麗って答えるもマスクを外して、これでも? って聞くんだが……」

「ん? どうしたんだ?」

 忠敬は突然俯いた。そして頬を赤らめた。

「おまっ……少し待てぃ……」

「いや、あのお姉さんって感じが……」

「あの顔はお姉さんって言うかお岩さんじゃないか……? お前歳上好きなのか」

「歳上、スタイルが良い、少しメンヘラってる所なんて最高じゃないか……女性は顔じゃない! 中身だ! 体だ!」

「はっ!? お前、悪鬼に取り憑かれているのか!」

 先程悪鬼に乗られた際に、体内に入り込まれてしまった忠敬は人が変わった。
 悪鬼が者を襲う理由の一つとして入り込みやすいというのがあった。

「俺は決めたぞ。彼女を恋人にするんだ!」

「まずい……非常にまずい……忠敬! しっかりしろ!」

 しかし、悪鬼に取り憑かれた忠敬に指輪の声は届かなった。
 他の悪鬼達を倒した口裂け女の元に忠敬は走っていった。

「……私きれ」

「はい! 美しいです! 惚れました!」

「え……!?」

 口裂け女も忠敬の行動に困惑していた。自分が口説かれているなんて想像することさえ出来なかった。しかし忠敬は、指輪から見て、誰だお前、と言いたくなるほどの笑みを浮かべていた。

「私……綺麗……?」

「はい」

「こんな顔なのに……?」

「顔なんて関係ないですよ」

 凶悪な顔を赤らめる口裂け女と忠敬はその後、デートをした。女として口裂け女が味わうことの出来なかったデートだった。デート中、忠敬は始終笑顔だった。

 死者の想いというモノは時に生者をも巻き込んでしまう。生きている者に気付いてほしい、恨みを晴らしたい、憎しみをぶつけたい、喜怒哀楽の全てにおいてそれは生まれる。そして、首なしライダーは喜と楽の感情でこの世に残っていた。バイクに乗る楽しさや喜びを味わいたい一心で、しかし、口裂け女の場合は怒と哀だった。
 女として扱われない怒り、化け物だと怖がられる悲しみが生きている者に向くのは仕方のないことだった。
 幸か不幸か、忠敬にとっては不幸だったが口裂け女にとっては幸だった。自分を女として扱い、怖がりもしない人間に出会えた事、それだけで心が踊った。
 本来ならば人間と直接関わる事は不可能な存在だが、忠敬は見える人間であるためその不可能は可能になった。

 口裂け女とのデートが終わる頃、忠敬は彼女と手を繋ぎながら道を歩いていた。逢魔時が過ぎて夕日の光も無くなった頃、口裂け女はふと立ち止まった。

「今日はありがとう」

「……いいさ」

「貴方みたいな、人間は初めてだわ」

「お前みたいな、幽霊は初めてだな」

 そんな事を言い、二人は笑みを浮かべた。忠敬はいつの間にか本来の忠敬に戻っていた。

「本心じゃなくても、嬉しかったわ。私の事を見る、恐れじゃない視線はとても心地よかったわ。普通の女として扱ってくれて……嬉しかったわ」

「それはよかった……悪鬼から助けてくれてありがとうな。礼を言う」

「いいのよ……あ、そうだ。最期に聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

 そう首を傾げる口裂け女に対して忠敬は静かに頷いた。

「私、綺麗?」

「普通、だな」

「正解」

 口裂け女は忠敬の額に口付けした。それと同時に日が沈み、口裂け女は姿を消した。忠敬は手に残る彼女の温もりを握りしめながら帰路についた。その道中、静かにしていた指輪は声を発した。

「……楽しかったか」

「……まぁ、な」

「そうか。お前の中に入り込んだ悪鬼もいつの間にか消えているようだ。少し休め」

「あぁ、そうさせてもらう」

 街路樹を植えている花壇に腰をかけた。忠敬は微かに震える腕を掴んだ。

「……やはり、まだキツいか」

「……以前よりかはマシだが、な」

 悪鬼との戦闘の際に指輪の力を使った反動が忠敬を襲っていた。その症状は痙攣だけでは済まなかった。血管が盛り上がり早まる鼓動のリズムと同じように脈打っていた。それ以外にも息苦しさや心臓の痛みもあった。

「っ……」

「……我は、お前を殺してしまうかもしれんな」

「……そう簡、単に、死ん、でたまるかよ……俺は、欲張りなん、でなっ……お前も、お前の、力、も……この痛みも……俺のもんだ……全、部っ、受け入れてやる……っ……安心しろ」

 忠敬は口角を上げて指輪にキスをした。

「……色事師め」

 呆れた声でそう吐露した指輪は存外満更でもなかった。
 一時間ほどその場で休むと症状は消えていき苦しそうなな喘ぎは収まった。

「落ち着いたか色事師」

「……あぁ」

「それじゃぁ帰るぞ色事師」

「わかったよ」

 忠敬は重たい体を持ち上げて再び帰路につくことにした。
 
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