妖怪セプテット

うー

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妖怪トリオ

天狗との出会い

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 その日、妖怪トリオは妖怪が営むとある路地に存在する居酒屋でお酒を飲んでいた。店主はのた坊主という狸の妖怪だった。
 午前一時を少し過ぎた頃、三人は盃を片手に話し込んでいた。

「ふむ、エボシよ。主が来てからもう随分と立つのう」

「まぁな」

「それで? 賀茂君とはどない? 最近よう出かけてるけど」

「ん、そうだなぁ……ちょっと気になったんだけどよ、あいつって女に興味ねぇのか?」

 エボシはふと、そんな事を問いかけた。彼女が気になるのも必然で、一般男性、それもまだ高校生が綺麗な女性と呼べるエボシやたまや継美と同室にいても緊張する素振りも、頬を赤らめたり、およそ普通の高校生の反応とはかけ離れているからだ。
 たまは忠敬の色々な顔を思い出していた。しかし、その中に彼が顔を赤らめたりする表情は一切無かった。

「……い、いや! そんな事はないはずじゃ……ないはずなんじゃがぁ……」

「今度皆裸で賀茂君の部屋に入ったらええんちゃう?」

「はっはっは、試しみようぜ」

「お主らは少し恥じらいというものをだな……はぁ、妾が知る限り、あやつはほぼ感情を持ち合わせておらん。最近まで表情など無いに等しかったからな。まぁ、そんな忠敬も可愛らしかったがのう……」

 それを聞いたエボシはそれじゃぁ、だいぶ明るくなったんだな、と盃の中で揺れる日本酒を見つめながら笑顔になった。

「じゃが、鏡花と茂敬の間に生まれたのならばあそこまで世に不関心な子が産まれるとは思えんし、そうなる環境ではないはずなんじゃが……」

 腕を組みながら深く考え込んだたまに盃を差し出した継美だった。

「まぁ、良くなってるんやったらそれはそれでええ事や。それよりも大事なんは、誰が忠敬の一番目の妻になるかや……!」

 妻、という言葉に他の二人はぴく、と動きを止めて目を細くした。そして鋭い目付きで手に持つ盃の中身を飲み干した。

「妾じゃ。妾しかおらんじゃろう」

「おいおい待てよ。形だけとはいえあたしは既に婚約の儀を終えてんだ」

「なんじゃと? 同意無き婚約などに意味なんてないじゃろ。妾なんぞ小さい頃に、「たまをお嫁さんにする」って言われておるんじゃ。これは今でも有効じゃろうなぁ」

「ガキん頃の約束なんて時効だ時効!!」

「はん、それにそんな貧相な体で忠敬を満足させられるとでも思っておるのか? 妾みたいにぐらまらすになってから出直してくるがよい」

「これはスタイルが良いってんだよ! そっちこそ無駄な贅肉が詰まった油揚げで出来た胸を萎ませろってんだ! 油揚げの食いすぎで顔がテッカテカになる将来が丸見えだぜ!? そんなババアは油とり紙と結婚しちまえ!」

 不毛な言い合いを続ける二人を他所に継美は携帯を机の上に置いてお酒を飲んでいた。そしてその携帯のディスプレイには忠敬の名前が映し出されていた。

「お楽しみ中悪いんやけど、今の会話全部賀茂君に聞かれてんで」

「……まぁ、楽しそうで何よりだ」

 電話の向こうから呆れた声を出す忠敬にたまは直接聞くことにした。誰が妻に相応しいか、と。
 少し間を開け、忠敬は答えた。

「……顔はたま、体は澤上江、性格はエボシ、だな。うん、誰が妻だ彼女だは置いといて」

「なんて言うかまた反応に困る返事やなぁ……って賀茂君!? うちは!? 体だけ!? 顔は!? 性格は!? なぁなぁ! ちょっと傷付くねんけど!」

「少し黙っとれい鵺! それで、忠敬よ。主が一番重要にしとるのはどれじゃ!」

「えーっと……そんな事より真っ直ぐ家に帰ってこいよ。じゃあな」

 電話を切られたたまだったが、顔が好きと言われた事は嬉しいようで頬を押さえてニヤニヤしていた。

「なんつうか、忠敬らしいな」

「うちは体だけって言われたんやけどなぁ……」

 ニヤニヤした顔から寂しそうに笑みを浮かべたたまは一升瓶からお酒を盃に注いだ。

「じゃがまぁ……あやつがもし、この中の誰かを選んだとしても、それは仕方の無い事じゃ。それが妾じゃなかったとしても、恨むのはお門違いじゃろうな」

 その時、店の扉が開かれた。感じ慣れない妖気に店の中にいた妖怪は扉を開けた妖怪を一斉に見た。そこにいたのは背中から一対の黒い翼を生やし、山伏の姿をしており、顔は猛禽類の鷹のような、嘴がある妖怪だった。
 鬼や河童と並び、人間にも広く知られる天狗の集団がそこにはいた。鋭い目付きで店内を見回す天狗達は端っこのテーブルが空いていることを確認するとそちらに移動し座った。
 妖怪トリオは静かにお酒を飲みながら目だけを天狗に向けていた。

「酒だ。酒を持ってこい」

機嫌が悪いのか天狗は睨み付けるように店員を見ながらそう注文した。

「貴様ら何見ているんだ」

 威圧的な態度と口調で自分らを見る店内の妖怪達を威嚇した。
 天狗のせいで興が殺がれた妖怪トリオは酔いが覚め、ため息混じりに飲み会を終える事にした。店を出た三人は家に帰る事にした。

「天狗が降りてくるなんて珍しいなぁ」

「何処の天狗かはわからんが、躾がなっておらんようじゃ」

「……そういやぁ」

 エボシは思い出したように口を開いた。

「あたしがこっちに来る前、関西方面の天狗達がやけに殺気立ってたぜ」

「そーなん? うちがこっち来る前はそんなん感じひんかったけど」

「鞍馬の天狗達は特に、な」

 鞍馬山の大天狗は各山に住む天狗達の元締め、謂わば天狗のリーダーである。
 その天狗達のリーダーが殺気立っていると言うのは妖怪にとっては悲報でしか無かった。鬼の勢力が、酒呑童子が頭領だった頃より弱体した代わりに天狗が台頭してきていたのだ。

「今じゃ天狗は一大勢力だ。その天狗共に何かあったのか、それともただの気まぐれか、どっちにしろ気をつけた方がいいぜ」

「……そうじゃな。鞍馬の天狗となればちと話は変わってくるからのう……」

「狐は鞍馬の天狗とは付き合いあるんか?」

「妾を誰じゃと思っておる? 昔からおる物の怪とは面識はあるぞ」

 たまはふふん、と誇らしげに胸を張った。

 家が近くなった頃、三人は何者かに尾行されている事に気が付いた。複数の妖気があった。三人は顔を見合わせその場で三人とも違う道に分かれた。

「……妾達が狙いか? それとも……」

 たまは狐の面に手を添えながら歩いていた。妖気は近付いてくるでも無く、離れるわけでもなく一定の距離を保っていた。

「気持ちが悪いのう……仕方あるまい……気付いておるんじゃさっさと出てきた方が身のためじゃぞ」

 暗闇から現れたのは先ほど店にいた天狗の一人だった。

「……流石だ。妖狐」

「そんな垂れ流しで勘付かれないとでも思ったのか? あまり妾達を舐めるなよ……何が目的じゃ」

「仕方ない……貴様らには少し足を止めていてもらおう!」

「なんじゃとっ……!?」


 その頃、忠敬は帰りが遅い三人を待っていた。時間は既に午前二時を超えていた。時間も時間なため忠敬は心配してソワソワしていた。

「遅い……何かあったんじゃないか」

「飲んでいるとはいえ、あいつら三人だ。心配する事はない」

「そう、だな」

 そこから一時間が過ぎても三人は帰ってこない。流石に待ちきれない忠敬は服を着替えて探しに行く事にした。イバラから譲り受けた大太刀を手に持ちながら。

「本当に行くのか?」

 指輪はため息混じりにそう聞いた。

「怖いなら待っているか?」

 バカを言うな、と少し笑いながら指輪は返事をした。
 忠敬が外に出ると異様な雰囲気を目の当たりにした。

「忠敬、気をつけろ。何か、おかしい……」

「あぁ……!?」

 いきなりの事で忠敬は何が起きたか分からなかった。突然自身の体が宙に浮いたのだ。

「な、何が起きている……!」

 忠敬は困惑しながらも自身の両脇を持っている者に気付いた。それは天狗だった。鼻高天狗の赤い面を付けた天狗だった。

「賀茂 忠敬ですね」

「そ、そうだが……お前は一体……」

「女天狗の天音と申します。少々無理矢理になりましたが、あなたを大天狗様の元へと連れていきます」

「大天狗……?」

「はい。我々天狗の長ですね。あなたが鬼の頭領、イバラを退けた事を大いに危惧しておられます。そしてあなたは三体の妖を手元に置いておられるとか……」

 天音は気が進まない、と言った雰囲気で忠敬を近くの山の頂上に連れていった。そこには大きな体を持つ歳をとった法衣を着用し、一本下駄を履いた老天狗とタカの頭を持つ天狗達がいた。
 その老天狗は忠敬を見ると目付きを鋭く細めた。

「その童が、あの鬼を退けた、と?」

 老天狗の前で離された忠敬は、自身が置かれている状況を把握し大太刀を地面に置いた。

「ほっほっほ、聡明じゃ。ワシは天狗の長を務める大天狗、またの名を鞍馬天狗じゃ」

「鞍馬天狗……牛若丸に剣術を教えたっていう」

「いかにも、童よ、貴様は鬼を退け、強大な力を持つ妖を三人も抱えておると言うではないか」

 大天狗は手に持つ錫杖を忠敬に向けた。

「あまりに大きすぎる力は、修正が必要じゃ……妖同士の均衡を崩しかねん」

「……そんな事をするつもりはありませんよ」

「………………」

 忠敬の真っ直ぐな目を見つめる大天狗の鋭い目はすぐに笑みに変わった。

「童よ、今妖の世界は微妙な状況なんじゃ。一昔前は鬼がいる事で小物は形を潜めておった。均衡が崩れかけておる。それもこれも人間の仕業じゃ」

「それと、俺がなんの関係が?」

「うむ、その事なんじゃが、九尾や鵺、そして鬼をも手中に収める、それがどう言う事か、わからんか?」

 忠敬は考えた。力を持つと言うことは、影響力や権力を手にすると同義、それは妖怪にとって恐ろしい事だった。

「……童よ、貴様は一騎当千の古強者を擁して、何をするつもりじゃ、妖の頂点にもでも立つつもりか」

「……なるほど、そうか、そういう事か……俺が邪魔か」

「……無闇やたらに人間を殺すのはワシら妖にとってご法度じゃが、貴様は均衡を崩しかねん。排除しなくてはならん、貴様はそういう存在なのだ」

 忠敬は身構えた。その時、後ろで話を聞いていた天音が口を挟んだ。

「大天狗様、彼を殺めたとあれば我々天狗にも多大な被害が出るかと。鬼や鵺はともかく、九尾の力に匹敵する者は我々の中にはおりません、排除しなくとも監視で充分だと思います」

 天音は事務的な口調で、大天狗に対して意見具申を行った。少し考える大天狗に更に言葉を繋げた。

「彼には少し妖の事について勉強が必要かと思われますし、についても教えていた方がよろしいかと、具申いたします」

 大天狗は忠敬と天音を交互に見た。そして折れたように天音の頭を撫でた。

「天音、なら童の目付け役となるがよい」

「そうせよ、とおっしゃるのであればなんなりと」

 天音に忠敬を監視するよう命令して、大天狗は部下と共に去っていった。そして大天狗がこの山からだいぶ離れたであろう頃、今まで忠敬が忘れていた妖怪トリオが両手に烏天狗を引きずりながら現れ、忠敬を見て驚いた。

「な、何故お主がここに!?」

「あ、遅かったじゃないか、それよりその天狗は……?」

「こやつら妾達に襲いかかってきたからシメてやったんじゃ!」

 そして天音を見たたまは忠敬に目を向けた。

「……なんじゃこの女天狗は」

「申し遅れました、私女天狗の天音と申します。諸々の事情につき忠敬様の目付け役としてお世話になります」

 目付け役と聞いてエボシが睨みつけた。そして天音は自身が忠敬の監視をする顛末を話し始め、それを聞いた三人は腕を組み納得した様子だった。

 とりあえず、烏天狗を解放して家に帰る事にした五人だが、既に太陽が登っていたのだ。そしてそれを見た天音を除く四人はまずい、と冷や汗を流し始めた。

「どうしたのですか?」

「決して逆らってはいけない者がおるんじゃ……」

「五時半やで……あかんあかんはよ帰らな」

「殺されちまう……!」

 彼女らが恐れているのは、忠敬の母でありその事を知らない天音は首を傾げながらも四人について行った。
 そして案の定、

「あらぁ、朝帰りなんて楽しそうねぇ」

 日本刀を手にした鏡花が笑顔で玄関の前で待っていた。刀を少し抜き強く戻しながら音を鳴らす様は四人にとって恐怖そのものだった。

「皆ぁ、昼ごはんは抜きよぉ、お仕置きよぉ」

「申し訳ございません! どうか! どうかご飯だけは!」

 四人が土下座しているのを見て、忠敬よりこっちの方が危険じゃないのか、と思った天音だった。
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