妖怪セプテット

うー

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舞い踊る

人間と人間を辞めた者

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 忠敬は一ヶ月ほどぶりになる学校に顔を出していた。やり返した事でクラスメイト達は肉体的ないじめは無くなっていた。しかし、以前より間接的ないじめは酷くなっていた。
 天音は転校生として学校に入り込んだ。しかしクラスの状況を見た彼女は忠敬に心配して見ていた。
 休み時間になっても彼に話しかけるものは継美だけで、その他の者は気にする素振りも見せない。授業中も配られたプリントが彼に回ることはほとんど無かった。回ってきたとしてもクシャクシャに丸められた状態や破られた状態だった。

 これが人間ですか、と継美と二人で帰っていた天音は呟いた。

「ほんま、見てて疲れるわ」

「あんな事が、毎日行われているのですか?」

「これまでも、今も、これからもちゃうかな。やけど忠敬は無関心やからなぁ……」

「あまりにも酷くないですか? 時代が時代なら、怨霊になっていてもおかしくありませんね」

 天音は幻術で作った顔に不愉快そうな顔を浮かばせた。
 天狗という種族は仲間意識が高く、一人の天狗がやられると組織全てを総動員させて報復しに行くという仲間思いな所がある。それ故、忠敬への仕打ちを見て不愉快な気分になっていた。

「今日他の生徒から聞きましたが、彼は暴力を振るったそうですね」

「ん、せやな。まぁ、やられた方もしゃぁないけどな、賀茂君はやりすぎてもーたけど」

「……分かりました。私はいじめ、なんてものは大嫌いです。はぁ……彼が妖怪なら手の貸しようはあるのですが」

 妖怪には故意的に妖怪としての力を使用して人間社会の環境に影響を与えてはいけない、という暗黙のルールがあった。これは長く生きている妖怪ほど守っている。
 その為、たまや継美はこれを忠実に守っていた。しかし、エボシや天音は若い妖怪であり、若い妖怪ほどこのルールを疑問視していた。

「うーん……天音ちゃんはどうしたいん?」

「早急にクラスメイト全員に呪いをかけ、忠敬様の安全を確認してから呪いを解きます。そしてまた手を出すつもりなら再び呪いをかけます」

「あんた恐ろしいわ」

 その頃、忠敬は靴箱の中に入っていた手紙を読んでいた。内容はラブレターのような愛を告白する内容では無く、友達になりたい、という事が書かれていた。
 差出人は同じクラスの目立たない女子生徒だった。

「放課後、体育館裏で待っています……か……なんか不良に呼び出されているみたいだな」

 無視するわけにもいかないと忠敬は体育館裏へと向かった。そこには手紙を出した野田 玻璃のだ はりがぼーっと立っていた。
 前髪が顔を隠すほど長く身長は低くかった。忠敬の胸辺りに頭があった。玻璃は忠敬に気付くとモジモジと挨拶をした。

「あ……来てくれたんだね」

「まぁな、えっと……野田、だったか?」

「うん……その、賀茂君が……見えてるもの……玻璃にも見えてるよ」

 驚く忠敬は本当か、と食い気味に答えた。玻璃は頷いた。

「……本当は賀茂君とずっとおしゃべりしたかったんだけど……色々、あったから」

「そうか……俺と同じような奴がいたのか……」

 忠敬は嬉しそうな顔で薄く笑みを浮かべた。それを見た玻璃は驚いた。

「賀茂君も、笑うんだね……」

「当たり前だろう? それより、今日はもう遅い、帰りながらでも話をしよう」

 忠敬は日が落ちかけている空を見て二人で帰ることにした。忠敬と玻璃の帰り道はほとんど同じだった。

「……賀茂君は怖くないの?」

 玻璃がふと、問いかけた。妖怪や人ならざる者が怖くないのか、と。

「そう、だな……怖くないと言えば嘘になるが、もう長いことこの状態だからな、慣れた、かな」

「そうなんだ……玻璃はずっと怖いままなのに……賀茂君は強いね……」

「……強い、か」

「うん……玻璃は逃げる事しか出来ないから」

「逃げる事が出来るなら充分だ」

 忠敬は玻璃の頭を撫でた。ついたま達と接する時のようにしていた。自分のやっている事に気付いた忠敬は慌てて手を引っ込めた。しかし、玻璃は嫌がる素振りを見せなかった。だが恥ずかしがるように耳まで赤く染めていた。

「……すまない」

「え、あ、いや、男の子に撫でられたの……初めてだったから……で、でも、嫌じゃない……かな、逆に……ちょっと気持ちよかった……も、もう一回、撫でてもらってもいい……?」

 最初は困惑した忠敬だったが撫でやすい玻璃の頭を撫で始めた。玻璃は静かに撫でられていた。

「……えへへ……なんだか……いいねこれ……」

「ん……そうだな」

 忠敬は撫でていると自分自身が恥ずかしくなったのか手を引いた。そして歩いていった。

「早く帰るぞ」

「あ、うん……」

 明らかに落ち込む玻璃の姿を見て忠敬は呟いた。

「明日もあるんだ。また明日、撫でてやる……」

「うん……!」

 それを物陰から見る影が一つあった。額に角を生やした、エボシだった。継美と天音の帰りが遅く迎えに来てみると、忠敬も玻璃がいいムードになっていたため、声をかけようにもかけられなかったのだ。

「へへ、忠敬の奴、人間の女が出来たか?」

 玻璃の事はすぐに家の妖怪達が知る事となった。
 全員、親のような安堵のため息を吐いた。たまに限っては目に涙を溜めて泣きそうになっていた。

「ようやくあやつの理解者が出来たのか……うぅ」

「なんつうか、地味な女だったけどな」

「お淑やかって言いや、これで賀茂君の笑った顔、外で見れるかなぁ?」

 天音は皆のその姿を見て意外です、と驚いていた。天音は三人とも忠敬の事を好きだと思っていたからだ。

「ん、妾達はあやつとの幸せを願ってはいるが、他者を蹴落としてまで幸せになろうとは思っておらんからな」

「そうそう、忠敬が選びてぇ奴を選んで、あとは愛人だな」

「妖怪の世界に妻一人やなんて決まりないしな」

 そして件の人物、忠敬が帰ってきた。すぐにリビングに連行され質問の嵐を受ける事となった。

 賀茂 忠敬と友人になった野田 玻璃は家に帰ると真っ先に父親の部屋へと入っていった。今日あった出来事を嬉嬉として話す為だった。

「友達が出来たの……」

 おぉ、そうか、と父親も嬉しそうに返事をした。
 自室へ戻った玻璃は胸ポケットに差し込んでいたペンを取り出した。そのペンに机の上にあるパソコンから伸びているUSBケーブルを差し込みペンからデータを取り込んだ。

「……賀茂……忠敬……っと……えへへ……」

 パソコンに取り込んだデータを携帯に送り、耳にイヤホンを付けてそれを聞き始めた。そして一言、

「……幸せ」

 と呟いた。その時の玻璃の表情は恍惚としていた。玻璃の部屋の壁には忠敬の姿を盗撮したであろう写真が何枚も貼られていた。

「賀茂君……早く明日にならないかなぁ……早く撫でてもらいたいなぁ……そうだ、明日は賀茂君の頭撫でさせてもらおう……いいよね? ねぇ? 賀茂君?」

 狂気的な笑みを浮かべたまま一枚の写真を手に取る玻璃はそれを胸に押し当てた。

 そして翌日の放課後、玻璃は約束通り頭を撫でてもらっていた。夕日の差す教室だった。

「ねぇ、賀茂君……その、賀茂君を、撫でてもいい……?」

 いいぞ、と少し下げる忠敬の頭に玻璃は触れた。忠敬の髪は、細くしなやかな髪はまるで女性のようだった。毎日ヘアケアでもしているのかと疑ってしまうほどだった。

「綺麗……女の子みたい……」

「……髪は母親譲りだからな」

 不思議な光景を継美と天音は教室の扉の隙間から見つめていた。まるで恋人同士みたいですね、と天音が笑いながら言うと否定するように継美が友達以上恋人未満やろ、と言い、なるほど、と天音は納得した。

「さて……っとその前にこんな所に無粋なお客さんのようだ」

 いつの間にか、教室の後ろ側にあっきの姿があった。玻璃の邪な感情に釣られて現れたモノだった。
 悪鬼を見た玻璃は驚き忠敬の腕に抱きついた。

「な、なにあれ……バケモノ? 賀茂君……怖いよ……ねぇ……!」

「まぁ、そんな所だが……一匹程度なら……やれるか指輪」

 忠敬は久しぶりに指輪に話しかけた。指輪からは不機嫌そうな声が返ってきた。

「……我は怒っているが、なんの問題もない。早く終わらせてしまえ」

「今日手入れしてやるから機嫌直せよ」

「……細部まできっちりだぞ……拭き残しは許さんからな」

「了解」

 指輪が鈍く光った。玻璃の頭を撫でて安心させ、少し離れさせた忠敬は拳を握りしめ、体全体を捻ってストレートを打った。悪鬼は教室の壁まで吹き飛び消滅した。

「っふぅ……」

 教室の端っこに座り込んでガタガタと震えている玻璃を忠敬はお姫様抱っこで抱き上げた。

「さっ、帰ろうか」

「……こいつ、力を使うとほんと積極的になるな……」

「賀茂君……うぅっ……怖かった……!」

 玻璃は震えて涙を流しながら忠敬に抱きついた。忠敬はそんな彼女の額に自身の額をくっつけた。

「もう大丈夫だ。安心しろ、な?」

「……うん……」

 ここに来てようやく恋人同士っぽいシチュエーションに妖怪二人はおぉ、と拍手をしていた。そして、見ている事がバレた。

「そこの二人もさっさと帰れ」

「やばっ」

「戦略的撤退です!」

 全く、とため息を吐きながらゆっくりと玻璃を降ろした。帰り道、玻璃はまだ恐怖が薄れないのか微かに震えながら歩いていた。
 玻璃は悪鬼を見たことがなかったのだ。

「賀茂君は……いつもあんなのが見えてるの……?」

 玻璃がふと立ち止まり忠敬にそう問いかけた。そうだな、と忠敬は何食わぬ顔顔で答えた。

「……怖くないの?」

「怖いぞ。けど、怖がってばかりじゃぁなんも出来ないし、守りたいモノも……守れないからな」

 玻璃はそっか、と感心したように笑った。そして忠敬の手を握った。

「でも……賀茂君も……守られてもいいんだよ……? 一人で背負い込んじゃ、だめ……もし、賀茂君が辛い時は……玻璃を、頼って……?」

「野田……ありがとうな」

 玻璃の手を強く握り返す忠敬は、体をビクつかせた。何かが自身に向けて殺気を放っているのに気付いたのだった。そして、瞬きをした瞬間、目の前から玻璃の姿は消えていた。頭上から男の低い声が聞こえてきた。

「おーい! こっちだ! 見えてっかぁ?」

 男は屋根の上にいた。気を失った玻璃を肩に抱えて。

「相変わらず脇が甘いよなぁ、三百年ぶりの再開だってのに、何一つ変わっちゃいねぇ、なぁ?」

「お前はなんだ……!」

 野田を離せ、と珍しく声を荒らげる忠敬を見て、男は嘲笑うようにおっかね、と言い笑みを浮かべた。

「俺の名前を忘れちまったか? 俺だよ俺、神野悪五郎だっつの!」

「……お前が神野……悪五郎」

 悪五郎は忠敬を見て首を傾げた。何かおかしい、と。そして気付いてあぁ、と小さく声を漏らした。

「まぁだ眠ってんのか? ったく寝坊助だな。まぁいいや、女を返してほしけりゃぁ、一人でてめぇが通う学校に来な、っておいおい、そんな人を殺しそうな目で俺を見んじゃねぇよ。怖いじゃねぇか」

「……わかった。お前、野田に手を出してみろ……ぶっ殺してやるっ……」

「へっ、物騒な奴だ。んじゃ、さっさと来な。お姫様が大事ならな」

 悪五郎は屋根伝いに学校へと飛んでいった。忠敬はそれを追いかけた。

「忠敬、待て。行くな」

 指輪が忠敬に落ち着くように言ったが忠敬の耳には届かなかった。
 まるで獣のような目をした忠敬は走り続けた。

「……クソッ……!」


 一足先に学校に着いた悪五郎は体育館の演台に眠ったままの玻璃を置いた。そして、忠敬が来るまでの暇潰しとして転がっていたバスケットボールを人差し指の先で回し始めた。

「……九州から中国は銀将に任せた、がしかし駒が足りねぇ、角行と飛車が欲しい所、だ……まっ、その点はゆっくりじっくりと、かねぇ」

 頭の中で、これからどうするかを悪五郎は考えていた。それを邪魔するかのように囚われのお姫様を助けに王子様がやってきた。

「……悪五郎……!」

「おっせぇな、もう少しでこの女で楽しんじまう所だったぜ?」

 悪五郎は玻璃の頬に触れ、徐々に指を下ろしていき、下腹部辺りで指を止めた。

「そんで、てめぇ何しに来たんだ? 俺を殺しに来たのか? お姫様を助けに来たのか?」

「両方だ……!」

「おいおい、二兎を追うものは一兎も得ず、って言葉を知らねぇのか? 欲張りは禁物だぜ?」

 玻璃はゆっくりと目を開けた。何が起きたのか理解出来なかったのだ。体を動かそうにも動かせなかった。

「おや、起きちまったか」

「……な、何……体が……誰……賀茂君は……!?」

「野田!」

 はーいストップ、と玻璃の顔の前で指を鳴らした。玻璃は再び意識を失った。

「てめぇ、自分が何者か気づいてねぇのかい?」

「何を言っている……俺は俺だ」

「はぁぁ、ただの人間が無条件に妖怪共に慕われるワケねぇだろう? 俺はてめぇの事ならなんでも知っている、てめぇがどんな奴なのか、てめぇが何をしてきたか、てめぇが何をするべきか、な」

 悪五郎はジャケットを脱ぐとタンクトップ姿となり、腰には散弾銃が差し込んであった。それを抜き取った。

「俺とてめぇは同じ存在だからこそ反発しちまう」

「何を……何を言っている?」

「まだ思い出さねぇか? まっ、そんなら仕方ねぇわな」

 散弾銃の引き金に指をかけた悪五郎はにぃ、っと三日月のような笑みを浮かべた。そして引いた。銃声音が体育館に響いたがその弾はどこにも当たらなかった。

「……空砲……?」

「試合開始の合図だぜ、ブラザー」

 忠敬の背後に悪五郎の姿があった。一瞬の隙に移動したのだ。
 すぐに悪五郎から距離をとる忠敬は指輪の力を使う事にした。

「へっ、ハンデにゃぁ丁度いい、ほれどっからでもかかって来な。俺は進みも引きもしねぇからよ」

 中指を立て挑発する悪五郎に対して、忠敬は真っ直ぐ殴りかかった。しかし、その拳は悪五郎の中指の腹で止められた。

「なっ……!!」

「拳ってのは、こういうもんだ」

 ゴリュゴリュ、と鈍い音を出しながら忠敬の腹部に悪五郎の拳がめり込んだ。血反吐を吐きながら忠敬は壁まで吹き飛んだ。

「ぁ……がっ……」

 今まで受けたことの無い衝撃に忠敬は血の塊を吐き散らした。意識はなんとか保っているようだった。

「あ、そういや今のお前はただの人間だったな。加減すんの忘れてたわ」

「っ……」

 忠敬は気を失ってしまった。それを見た悪五郎は深くため息を吐きながら忠敬に近づいて行き、額に指を置いた。

「はぁ…………俺の半身だってのに情けねぇ……まぁいい、ちょいと頭の中を覗かせてもらうぜ」

 そう言いながら悪五郎は目をつぶった。眉をひそめた。

「あん……? 記憶がごっそり抜けてやがる、どういう事だ……記憶喪失、いや、違うな……」

 少し経ち、なるほど、と笑みを浮かばせた。そして一人の妖怪を呼んだ。その者に忠敬を治療するように命令した。
 妖怪は白く綺麗な髪と肌を持つ女性、雪女だった。

「主様、この者を生きて返すのでしょうか」

「……そいつはいずれ俺の所に来るだろう。いずれ俺を頼ってくるだろう。それにしても……真実ってのは残酷だなぁ……はっはっはっは、愉快愉快」

 悪五郎はこれから起こる事を考えて、自身の言葉通り、楽しそうに笑った。

「そうだよなぁ……山本?」
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