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第5話 旅の始まり ~アグリサイド~

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昨日はいろいろとあったな。
王様に呼ばれて、魔王を倒せと言われるわ、貰った剣には元魔王がいるわで……

シルフィーネ村に向かう馬車に揺られながら昨日のことを思い出す。

あの後もゾルダにはこの世界のことを少し教えてもらった。
自分のステータスの見方も。

「ステータス、オープン」

レベルは1、パラメータも特筆するものはない、スキルも特に今はない。
経験を積んでいけば何かは得られるのだろうか。
そういえば、ゾルダが言っていたな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ステータスの見方はわかったか?」
「おぬしは特に現時点では何か凄い能力を持っていることはないようだな」

「なんだよ~」
「よくある異世界転移の話だったら、チートスキルか能力があるはずなのになぁ……」

「なんじゃ、そのチーなんちゃらとか、異世界転移の話とかは……」

「あっ、こっちの話」
「俺が元いた世界には、そういう作り話が流行っていて、転移とか転生するとものすごい力や能力を持って、無茶苦茶活躍するっていう話がいっぱいあって」
「そのすごい力をチートって言っていたのでつい言葉が出てきた」

「そうなのか」
「おぬしの元の世界も面白そうだな」
「頭に思い描いたものを話として広めるんだな」

「まぁ、そういうことだ」
「しかし、そう世の中、話のように上手くいかないな」

「そういうことかもしれんのう」
「ちょっと、待っておれ」

ゾルダが俺の頭に手を当て、目をつむる。

「んっ……」
「でも、呼び出されただけのことはあるやもしれん」

「どういうこと?」

「ワシは完全にではないが、素養というのを見ることが出来る」
「ちょっと見たところだと、強くなっていく素養はありそうだぞ」

「努力すればなんとかなるってことか」
「せっかく異世界来たのなら、もっと楽できると良かったけどなぁ」

「おぬしに死なれても困るし、手伝うから死ぬなよ」
「ワシはまだ元の力は出せないようだが、おぬしよりは強い力は出せるぞ」
「ザコならこの剣を振れば一瞬で狩れるから、経験稼ぎにはなるぞ」

「そこが楽できるならいいか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

素養ある分だけマシか。
努力すれば報われることが確定しているなら、努力のしようもあるもんだ。

そうこうしていると、森の手前で馬車が止まった。

「大変申し訳ございませんが、ここから先は案内が出来ません」

「なに?」

「ここ最近、通常より魔物が強くなってきたため、私どもはこの先に進むことが出来ません」
「シルフィーネ村はこの森を抜けた小高い丘の上にあります」

ここからは自力か。
経験も積まないといけないようだし、ちょうどいいか。
ゾルダも他の人がいると出ようにも出てこれないようだし。

「わかった」
「ここまででも案内してくれてありがとう」
「ここからは、1人で行くよ」

案内してくれた馬車に別れを告げて、森の中を進むことにした。
馬車は一目散に走っていった。
よっぽどこの先が怖いのだろう。

馬車の姿が見えなくなると、ゾルダが顔を出してきた。

「たしかに、この森は少しばかりいつもと違うのぉ」
「ワシにはたいしたことないが、おぬしにはちょっとばかしきついかもな」
「なに、ワシの力を使えば、大丈夫だ」
「とにかく、先手必勝。受け身に回らずこちらから仕掛けていけ」

ゾルダは気楽なもんだな。
初めての実戦になるかもしれないので、ドキドキしているのに。

「その時は頼むぞ、ゾルダ」

意を決して、森の中を進み始める。
しかし木々が生い茂り、陽の光もあまり差し込まない薄暗い森だ。
明らかに何か出そうな雰囲気がする。

「肝試しをしているみたいだ」

少し葉が揺れ動くだけで、ビクッとする。

「何をそんなに怖がっているのじゃ」

脳内にゾルダの声がする

「そりゃ、いつ何が出てくるかわからないし」
「警戒しながら歩いていれば、そうなるよ」

「そんなに怖がらなくても大丈夫じゃ」
「ちょっと先にしか、魔物はいないぞ」

「わかるなら、最初から教えてくれよ」

「おぬしもわかっているもんだと思っていたわ」
「この先に、数匹いるからな」

少し進むとそこには3匹のウォーウルフがいた。
剣を抜き構えると、ウォーウルフたちが一斉にこちらを向いた。

「ウォーウルフか」
「おぬしにはちょっと強いかもな」

「そうなの?」
「最初だし、こういう時に出てくるのはスライムなんじゃないの?」

「さっきも言ったじゃろ、少しこの森は違うと」
「そんな弱い物たちは、とうにこの辺りにはおらん」

「死にゲーじゃないんだから、初手から強いの出てこなくても……」

「ほら、そんなへっぴり腰じゃ、倒せるものも倒せんぞ」
「大丈夫じゃ、剣が当たらなくても、ワシが力を増幅させてやるから、さっさと振れ」

「わかった」

不器用な構えから剣を横に懸命に振る。
剣からは、黒いオーラのようなものが立ち上り、振った先にいるウォーウルフたちに襲い掛かる。

「ギャンッ!」

黒いオーラに包まれたウォーウルフたちは次々と倒れて消滅していく。

「な、一発じゃっただろ」

「凄いな、ゾルダは……」

「じゃろう、もっとワシを褒めろ!」

そういいながら、ゾルダは高笑いをする。

「それより、おぬし」
「おぬしより強いウォーウルフを倒したんじゃから、レベルが上がっているはずじゃ」
「確認してみろ」

「ステータス、オープン」

3匹倒しただけだったが、レベルが4つも上がっていた。

「なんか数字を見ただけで、少し強くなった気がするよ」

「まだまだ序の口じゃ、さっさと進みながら、倒して行くぞ」

うなずくと、前を向き歩き始めた。
少し強くなれたし、これで少しは楽になるかな。
次はゾルダの力を借りずに自分の力で倒せれば。
そんなことを考えながら、森の中を歩きシルフィーネ村へ向かうのだった。
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