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雲嵐は少しの間考え込んでいたが、顔を上げて口を開いた。
「魔界云々の前に、私たちの持っている情報や知識を全部出し合おう。私の見立てでは主様ってのもまだ何か含んでる気がする。今のうちにこっちサイドで固まっておいた方がいい。まず、私が半魔だということを黙っていたことに他意は無い。それと魔界に敵意は無い。これには同意だな?」
「敵意、だよね?疑問や不満はあるけど敵意は無いかな、僕は」
白英はすんなりと答えたが、俊英は答えなかった。
無言の目線で促された雲嵐は小さく肯いて続けた。
「宇然は鬱屈した日常の中でいつしか鳥になって飛べるようになって、どうしたのかは分からないけどどうにかして神仙界まで飛んで、万里っていう神仙と出会って愛し合った末、20年前の“渡り”の夜に、共に山から落ちてきたんだ。ここに。ここは俊英も見付けた時に気付いたように魔力で結界が張ってある。その時の結界は私の祖父が張ったものだが、それを目掛けて落ちてきたんだろう」
雲嵐は、かつて自分が張った魔界への入り口を隠す結界のことを少し言葉足らずに言った。
祖父(と曾祖父に教えられた通りに私)が張ったもの、だと。
自分が半魔以上の能力を持っていることは、生い立ちも絡んでくるため言い難かった。
「祖父?父とは何か確執でもあるのか?まあ言いたくないことは言わなくていい。この結界は宇然に張ってもらったのかと思っていたが、宇然の魔力で上塗りしてあったってことか」
「上塗りというか補修だな。二人が落ちてきた時に壊れたから。それはそれとして、宇然は私を見てすぐに半魔だと気付いたんだ。魔王には分かるんだなと思っていたんだが違うのか?」
「違う。………そういうことか。産場か!宇然は産場を抜けて神仙界に行けるようになって、落ちた時も霧の道じゃなくて産場を通って落ちたんだ。俺は一度捜索中に産場に落ちて、彷徨っていたことがある。突然起こった磁気嵐みたいなのに弾き飛ばされて戻れたが、それから見分けられるようになった。…産場に何かあるな」
「私は産場のことは分からない。そこから産まれていないから…ん?魔族も神仙も産場で産まれるんだろう?みんな通ってるんじゃないのか?」
「その産場は浅瀬だ。俺は吸い込まれて深いところまで落ちた。宇然は高く飛んで突き抜けた。二層…いや、何層かになっているのかもしれん」
「この世界だけじゃなくて産場も層に分かれてる…生き死には同源…命が生まれる場所だけど、もしかしたら死んだり消えたりした命が帰る…いや、還る場所…?」
「なあ、白英…あの主様もお前が魔族だって見分けていたな?私のことは何も言わなかったが、突然「付き合え」って言い出したのも気になるな。何をするつもりだったんだか。それに、一龍のことは瞳を見るまで魔族だと気付いていなかった…」
「うん。さっき父さんは一龍は魔族としての何かを消されているって言っていたからね。“魔族”しか分からないのかも。ってことは、あの瞳が魔王の一族の印だと知ってるってことだよね?そりゃあ大昔にそれを決めたのは神仙だけどさ、神仙は寝てるか山の気を織ってるかだって言ってたでしょ?言い伝えでもしてるのかな?主様は変わり者だったらしいけど特別なのかな?」
「“魔族”だけ分かる、か。そう言えば産場の話をしてたな。朱里ちゃんは魔族の、男になる素で満ちた膜から産まれたって。それを取り上げたのはきっと彼女だな。その羊水はどこに流したんだろう。きっと彼女はそれに触れている。それが理由かもしれないな」
「キーワードは産場だね。落ちるにしても突き抜けるにしても、そこを通ることで何かが起きてる」
「魔界云々の前に、私たちの持っている情報や知識を全部出し合おう。私の見立てでは主様ってのもまだ何か含んでる気がする。今のうちにこっちサイドで固まっておいた方がいい。まず、私が半魔だということを黙っていたことに他意は無い。それと魔界に敵意は無い。これには同意だな?」
「敵意、だよね?疑問や不満はあるけど敵意は無いかな、僕は」
白英はすんなりと答えたが、俊英は答えなかった。
無言の目線で促された雲嵐は小さく肯いて続けた。
「宇然は鬱屈した日常の中でいつしか鳥になって飛べるようになって、どうしたのかは分からないけどどうにかして神仙界まで飛んで、万里っていう神仙と出会って愛し合った末、20年前の“渡り”の夜に、共に山から落ちてきたんだ。ここに。ここは俊英も見付けた時に気付いたように魔力で結界が張ってある。その時の結界は私の祖父が張ったものだが、それを目掛けて落ちてきたんだろう」
雲嵐は、かつて自分が張った魔界への入り口を隠す結界のことを少し言葉足らずに言った。
祖父(と曾祖父に教えられた通りに私)が張ったもの、だと。
自分が半魔以上の能力を持っていることは、生い立ちも絡んでくるため言い難かった。
「祖父?父とは何か確執でもあるのか?まあ言いたくないことは言わなくていい。この結界は宇然に張ってもらったのかと思っていたが、宇然の魔力で上塗りしてあったってことか」
「上塗りというか補修だな。二人が落ちてきた時に壊れたから。それはそれとして、宇然は私を見てすぐに半魔だと気付いたんだ。魔王には分かるんだなと思っていたんだが違うのか?」
「違う。………そういうことか。産場か!宇然は産場を抜けて神仙界に行けるようになって、落ちた時も霧の道じゃなくて産場を通って落ちたんだ。俺は一度捜索中に産場に落ちて、彷徨っていたことがある。突然起こった磁気嵐みたいなのに弾き飛ばされて戻れたが、それから見分けられるようになった。…産場に何かあるな」
「私は産場のことは分からない。そこから産まれていないから…ん?魔族も神仙も産場で産まれるんだろう?みんな通ってるんじゃないのか?」
「その産場は浅瀬だ。俺は吸い込まれて深いところまで落ちた。宇然は高く飛んで突き抜けた。二層…いや、何層かになっているのかもしれん」
「この世界だけじゃなくて産場も層に分かれてる…生き死には同源…命が生まれる場所だけど、もしかしたら死んだり消えたりした命が帰る…いや、還る場所…?」
「なあ、白英…あの主様もお前が魔族だって見分けていたな?私のことは何も言わなかったが、突然「付き合え」って言い出したのも気になるな。何をするつもりだったんだか。それに、一龍のことは瞳を見るまで魔族だと気付いていなかった…」
「うん。さっき父さんは一龍は魔族としての何かを消されているって言っていたからね。“魔族”しか分からないのかも。ってことは、あの瞳が魔王の一族の印だと知ってるってことだよね?そりゃあ大昔にそれを決めたのは神仙だけどさ、神仙は寝てるか山の気を織ってるかだって言ってたでしょ?言い伝えでもしてるのかな?主様は変わり者だったらしいけど特別なのかな?」
「“魔族”だけ分かる、か。そう言えば産場の話をしてたな。朱里ちゃんは魔族の、男になる素で満ちた膜から産まれたって。それを取り上げたのはきっと彼女だな。その羊水はどこに流したんだろう。きっと彼女はそれに触れている。それが理由かもしれないな」
「キーワードは産場だね。落ちるにしても突き抜けるにしても、そこを通ることで何かが起きてる」
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