三層世界カランコーレル~目覚めたら隣にいた女の子は神仙なのか魔族なのか?~

NO*NO(ののはな)

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わたしの間違い

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……アイリ…アイリ…

…夢か。山ではもう見ることも無かったが、久しぶりの人間界で蘇ったようだな。

わたしが他者の体に入るのは今回が初めてではないが、昔より体が希薄になっている分、勝手が違って諸々重かったから疲れも出たようだし。

そう、わたしは何度も人間界に通ううちに、酒に酔った女の体の中に入れることに気付いたのだ。

霧で酩酊している男に興味は無かった。
迂闊うかつに近付いて精を抜いてしまえばもうこの楽しい物見遊山が終わると思うと、関わることが疎ましいぐらいだった。

人間の女の体を借りているのだから、人間界で言うところの性交渉はしない。
知識はあったが、体という物の感覚が無いから肉欲も無い。
入り始めた頃は馴染むのが難しく、適当に動いてぶつけたりすることもあったから、申し訳ないことをしたと思う。
本人は酔ったせいだと思っていただろうが。

ある時知り合った男とは気が合った。
愉快な夜を過ごして女の体から離れたわたしは、その後のことなど知らず20年の時を過ごした。

霧には道がある。
わたしは覚えのある道を辿って男の元へとただよっていった。
まだ夜は浅く、酔っ払い女を探す前に男の姿が見たかった。

だが、わたしが見たのは中年になった男と、一度体に入った名残のある中年の女と、その息子と娘が歓談しながら夜道を歩いている姿だった。

ああ、あの後二人は男女の仲になったのか。
名前はどうしたのだろう。
初めて名前を教えた男だった。
酔っ払いの戯れ言にでもされたか、まさか同じ名前だったのか……引き合ったのはわたしだったのに、と思うと何もかも面倒になった。

その腹いせもあって、わたしは霧に酔っていない、まだ少年だった息子の精を抜いて卵を飛ばし、それを秘密にした。

―――だから、人間で言うところの罰が当たったのだろう。
時満ちて産まれるはずの赤子の数は足りなかった。
年月が経ちすぎて卵が変化していたせいだろうと、わたしは許された。
卵を失ったわたしは、それでもかろうじて母となれた。

神仙は母となり、ぬしとなり、大主おおぬしとなって、山に融けて消えてゆく。

わたしもそうなるはずだった。

産場の底に、浮き上がってこられない膜を見付けてしまうまでは。

母となりぬしとなっても遠巻きにされることは変わらなかったので、人間界に下りられなくなったわたしは神仙界中を散策していた。
神仙の子が産まれた後の産場は閑散としていてお気に入りだった。

そして見付けてしまったのだ。

わたしは底まで潜って膜を引き上げた。
膜は重く、透明ではなかった。

わたしは、そんなはずはないのに、自分の子だと思った。
あの時生まれなかった子だと。

神仙界で子を隠して育てられるはずもなく、わたしはどうとでもなれと自棄やけっぱちで大主おおぬしに直談判した。

結果、生まれた命を反故ほごにすることは出来ず、朱里シュリはわたしが育てることになった。
朱里シュリの白い体と黒い瞳を気味悪がった母たちが皆難色を示したからだが、元より他者に任せる気は無かった。

朱里シュリは落ちた万里バンリの子だろうというのは神仙界では暗黙の了解だった。
黒い瞳の意味も、神仙ならば記憶の深層で共有してきた。
誰も口には出さなかったが、怖ろしいことが起こっていることは理解していた。


わたしは朱里シュリが入っていた膜の中の羊水を、処理に困って万里バンリが落ちていった場所に捨てた。

修復出来たと思われていた穴は、知らず浸食されていたようで、再び決壊した。

わたしは、わたしの間違いを正さなくてはいけない。



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