庭師見習いは見た!お屋敷は今日も大変!

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番外編7 サティという女

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私は孤児だった。
夏の終わりに、生後三~四カ月ぐらいの私が草臥くたびれたタオルケットにくるまれて孤児院の門の影に置かれていたそうだ。
痩せてはおらず、手縫いの服を着せられていた。
母にか父にか、それとも祖父母にか、何があったのかはわからない。
愛された記憶は無いけれど、恨んではいない。
それは、家族というものを知らないからだろう。
知らなければ欲しない。

私は知りたがりな子供だった。
孤児院ではそれぞれの発達に応じた仕事があったが、空いた時間は全て図書館に通って本を貪るように読んだ。
いろんな人の人生が知りたかった。
世界の仕組みが知りたかった。
読んで、読んで、読んで、その蓄えがあふれ出す頃、私は妄想するようになっていた。

私は妄想の世界で誰にでも何にでもなれた。
何通りもの人生を歩んだ。
そのうちにそれは外見にまで及ぶようになっていた。
だがそれはただやりたくてやっていたことで、特別な才能だとは思わなかった。

ある日、院長に呼ばれた私は“辺境伯の子供たち”という組織への移動を打診され、即答で了承した。

なぜか『これだ』という確信があった。

行った先でオーガストという男と出会うのだがそれは置いておいて、今現在の私はとある特殊な酒場にいる。

そこは変装酒場とでも言えばいいのか、仮面を付けている程度の人もいれば、不思議の国のアリスもいれば、砂漠の国の王子もいるような酒場だった。
職業柄、変装、変身の類いは日常茶飯事だが、それを知っている誰かがいる以上、全くの自由ではない。
私は完全な未知の人物になりたくて、その酒場に通っていたのだ。

そして、ずっと心の片隅に置いて意識の端で追い続けていた人間を見付けた。

それは、私が刺客からオランディーヌ王妃を救い、マクロス第二王子をフランに託している間に再度王妃を襲って亡き者にした謎の侍女だった。
その侍女を見たのはその日限りで、いつの間にか居て、王妃の亡骸が発見されるより前にはもう居なくなっていた。
素性を知る者は無く、その後の消息も全く掴めなかった。

私が見知らぬ侍女に気付いたのは最初の刺客を取り押さえた後で慌ただしく、妙な違和感を覚えたが深追いはしなかった。というか、出来なかった。

あの妙な違和感の正体が分かった。
消息が全く掴めなかった理由も。

男だったとはね。
しかも…宰相補佐。
あの当時はまだ下っ端だったと思うけど、だからこそ自由に動けたのね。
事が終われば男に戻ればいいんだし。

それにしても別人だわ。
人のことは言えないけど。
あんなのと同類なんて嫌だけど…同類だわ。
でもきっと彼は彼女にしかなれないわね。
女装がしたいのか女性になりたいのか、ただの変身願望なのかは知らないけど、完璧だわ。
男の時の宰相補佐とは仕草も歩き方も、息の仕方まで別の人間。

彼の写真を撮った私は先回りして宰相補佐の家を見張った。
夜中に女性の姿のまま戻るのを見届けた私は、宰相補佐の調査を“辺境伯の子供たち”の組織員に任せた。

オーガストと国王が望む結果が得られたと連絡があった頃、私はレティという引退した年配のメイドの人生を作っていた。

王妃が殺害された衝撃、筆頭侍女による第二王子誘拐事件の噂、それが真実ではないことを知っているけれど家族を盾に脅されていて言えない葛藤……。
レティは長い間苦労してきたわ、とてもとても。

こんなものかしら。
少し老け過ぎ?
いいえ、心労って目に来るのよ。眉間とね。

さて、フランの汚名をそそがなくちゃね。


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